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オフコース全曲分析みたいなもの(?) やさしさにさようなら


楽曲について

個人的インプレッションみたいなもの

この曲は初めて買ったオフコースのアルバム『SELECTION 1973-78』のA面1曲目に収録されているので、私にとっての「初めてのオフコース」になります。

それまで主に邦楽フォーク、ロック系、世間で「ニューミュージック」と言われ始めた頃でしょうか、そのあたりを聴いていた私にとって、まさに新境地とも言える「大人の音楽」でした。

上品できっちりしたサウンド、美しいコーラス、転調をはじめとする技巧を凝らした演奏、複雑な響きの和音もさることながら、小田和正の中性的なボーカルはやはりインパクト絶大でした。

歌詞もいわゆる当時のフォーク、ロック系の多くが、良くも悪くも生々しく、歌ってる本人の年齢に関わらず「青春期真っ只中」を歌っているものが多い中、「〜ワインとあなた」といった大人の落ち着いた世界を思わせる単語や、抽象的で響きのよい言葉の連続に、当時中学生の私は一発で虜になりました。

基本スペックみたいなもの

シングル1978年4月5日リリース
『やさしさにさようなら/通り過ぎた夜』A面
『SELECTION 1973-78』A面1曲目に収録

作者クレジットみたいなもの

小田和正/作詞・作曲・ストリングス編曲
オフコース/編曲

参加ミュージシャンみたいなもの

小田和正  Lead Vocal, Chorus, Electric Piano
鈴木康博  Vocal, Chorus, Electric Guitar
松尾一彦  Acoustic Guitar
清水仁   Electric Bass
大間ジロー Drums, Percussion
オフコースアーミー Hands Clapping

曲の全体構成みたいなもの

コーラスのイントロ(F) → Aメロ1(Dに転調) → A'メロ1 → サビ1 → ツインギターの間奏 → Aメロ2 → A'メロ2 → サビ2 → 繋ぎコーラス4小節(DからE♭に転調) → 半音アップサビ(E♭) → フェイドアウト

リズムみたいなもの

テンポはBPM=100ちょっとぐらいの8ビート。元々かなりゆったり目なのに加え、16分音符があまり出てこないので、よりゆったり感が強調されている感じです。

全体に淡々としているように見せてはいますが、サビ後半にドラムとベースの16分裏リズムを紛れ込ませて瞬間的なスピード感を付けているあたり、一筋縄では行かないかと。

調みたいなもの

キーはFメジャーで始まりますが、イントロ8小節が終わるといきなりDメジャーに転調します。このキー同士はFメジャーにとっての平行調(Dマイナー)の、さらに同主調に当たるのでそれほど関係は遠くありませんが、いわゆる繋ぎコードを挟まずに突然変わるので、なかなか意表を突かれます。このまま終盤まで転調せずに2番まで続きます。

そして終盤ではサビのリフレインで半音上がり、E♭メジャーに転調します。これはオフコースに限らず、古今東西で多用されている終盤の盛り上がりテクと言えるでしょう。

この部分の繋ぎは、唐突な転調のイントロ後とは対照的に、元のキーのDメジャーに繋がるアプローチコード(Em7onA)を2小節鳴らしたあと、半音上(Fm7onB♭)で同じことをして、いかにも「さあ、ここからキーを半音上げて盛り上げますよ!」と煽り、丁寧に締めへ誘導している感じです。

歌詞みたいなもの

小田の歌詞によくある、セリフからスタートする内容ですが、これが相手の女性のセリフだとわからないと、1節目の一人称が「私」で2節目が「僕」になっているあたりに、冒頭から軽く混乱させられることになります。

小田の歌詞で男目線の時は、どちらかというと「振られる」ものより「振る」ものが多めな印象ですが、この曲では明確に振られてますね。冒頭のセリフを言い残して出ていった女性を、残された一人の部屋で思い、吹っ切ろうとして自らもその部屋を後にすると。でもやっぱり未練があって「〜愛のうたを奏でるように戻って」と言っちゃったりするわけです。

またこれも小田の歌詞によくある、「自分の作ったうた」が軸になるテーマです。もしも相手が将来この歌を聴いた時には、きっと自分の心を理解してくれるはずだろう…という、なかなかに乙女な感じの願望に、参ってしまった女子(男子も?)も当時は多かったかと推測されます。

そういえば「〜このうたが流れてどこかできけば」というシチュエーションは、「このうた」を世間に発信できる立場、つまりプロミュージシャンであるという前提ですね。そういう意味ではけっこう私小説的な内容だったりもするので、現実の小田と重ねて妄想を掻き立てられた、小田好き女子(男子も?)も少なからずいたかと思われます。

蛇足ですが「愛を止めないで」の「〜いきなり君を抱きしめよう」とか、「Yes-No」の「〜君を抱いていいの」とかがファンの間で物議を醸したと言われてます。でもこの曲の「〜僕と迎える夜明け」というフレーズも、なかなかに大人の男女的な想像を引き出しかねないと思うのですが、特に物議を醸したとは聞きませんね。考えすぎかしら?

各パート

リードボーカル(小田和正)

ソロボーカル部分は言うまでもなく小田。サビの一部とか鈴木とのユニゾンかな?と思う部分はありますが、それ以外はダブリング処理したソロのようです。

2番Aメロとサビの繋ぎ部分に「あなたに〜♫」というフレーズがオーバーダビングされていて、2番サビの頭と被っています。ここはレコードでは小田、ライブでは鈴木が歌っています。

この時期の小田のボーカルはまだ柔らかい感じで、このゆったりした曲調にはかなりマッチしていると思います。

サイドボーカル(鈴木康博)

鈴木のハーモニーはA’から入ってきて下へ上へと絶妙に絡み、サビではこの時期のオフコースでは珍しく、後年(特に4人時代)には多用されるオクターブ下ユニゾンを重ねています。

オクターブユニゾンの後は、サビの終わりまでおそらく普通にユニゾンかと。ただオフコースの2人はソロでは明確に違う歌い方なのに、ユニゾンになると気持ち悪いほど、いや気持ちいいほど同化してしまうので、判断が難しいです。

コーラス(小田和正/鈴木康博)

なんと言ってもイントロ部分のコーラスワークが圧巻です。ここのコーラスは出だしの「ウー♫」が2小節続いたあと、「ハーアーアー♫」という下降メロディが重なり、重厚なコーラスワークが展開されます。

この最初の「ウー♫」はなんと7小節半、約19秒に渡ってブレス無しで続くのですが、いくらオフコースがコーラスの達人とはいえ、これは普通に不可能かと。

当時はもちろんサンプラーとかも無いので、推測としてはテープループ的なものを作ったか、何小節かに分けて重ね録りしたものをクロスフェードさせて繋いだか…このあたりご存知の方、あるいは別の方法を推測された方がいらっしゃいましたら、ぜひご教授いただければと。

1番部分はサビも含めストリングスが入らないので、サビの音の厚みや賑やかしはなかなかに複雑なコーラスが担っています。このコーラスは間奏部分や2番、リフレインでも同様に入るので、ストリングスも加わるリフレイン部分の盛り上がりは圧巻です。

エレクトリックピアノ(小田和正)

ローズピアノと思しきエレピのみで、シンセなどの他のキーボードは使っていないようです。プレイ内容もソロなどは無く、ギター類より高い音域のコードバッキング主体、どちらかというと地味目なプレイで、ボーカリストに徹底している感があります。

ただ、リフレインの転調アプローチ部分ではかなり印象に残る、高音の和音が絶妙なタイミングで入り、盛り上げに向けて煌びやかな印象をつけています。さらに転調後は少々ボリュームが上がり、多少ではありますが派手な動きになって、エンディングの盛り上がりを演出しています。

エレクトリックギター(鈴木康博)

サイドギターはクリーントーンのコードストロークが、全編にわたって入っています。Aメロ部分では2、4拍目のアクセントを中心にカッティングで、サビ前では高音のフィルを挟んで、サビはコードストローク中心です。あまり出しゃばらずにバッキングに徹しているようです。

間奏は2本重ねたツインギターリードになっています。ソフト目の音質に歪みもやや軽めで、ジャズっぽいトーンと言っていいかな? フレーズも8部音符のみで淡々と正確に弾いている感じで、この曲のゆったりしたイメージを強調している感じです。

転調後のリフレインでは間奏と同じフレーズを半音上げで弾いてますが、ボーカルのメロディと似て非なるフレーズなのに、ボーカルの邪魔をしていないのは見事です。

アコースティックギター(松尾一彦)

全編にわたってコードをアルペジオで弾いていて、重なる楽器が少ない1番ではけっこうよく聞こえますが、2番以降のストリングスが入ってくるあたりは、チャンネルの位置(左寄せ)が近いところから、微妙に埋もれがちです。とはいえ金属弦アコギの澄んだ音色が、地味ながら爽やかさを加えていると思います。

音域からしてカポタストは使わずに、オリジナルキーで弾いているようですが、ただでさえコードチェンジが頻繁なのに加え、転調後はアコギではけっこう弾きづらいキー(E♭)なので、アルペジオの音を綺麗に出すにはそこそこ苦労したのではないかと。

エレクトリックベース(清水仁)

全体に音数少なめのタイトな感じで、手堅く弾いている感じですが、随所に高音域のオカズを効果的に絡めています。特にイントロ部分で入る高域フレーズと、AメロからA'メロの繋ぎに入るフレーズ、転調時の4小節に入る細かいフレーズなどは特筆モノだと思います。

全体がゆったりした8ビートで動いている中、サビの2小節目や4小節目に16分ウラ拍を使った、ちょっとスリリングなフレーズが入ったり入らなかったり。ここのウラ拍リズムは入る時、入らない時に加え、バスドラムとのコンビネーションで入る時と、ベースのみの時とがあって規則性が読めません。アクセントの強い部分ではちょっとスラップに近い音に聞こえます。

ドラムス/パーカッション(大間ジロー)

ドラムスもベース同様タイトなプレイで、派手なフィルインとかは入っていません。スネアはイントロからサビ手前まではリムショットのみ、1番サビは2拍目がリム、4拍目がヘッドショットと使い分け、2番のサビ以降はヘッドのみと、じわじわ盛り上げていく演出になっています。

パーカッションは聞き取れる範囲だとボンゴカウベルかと。ボンゴは右チャンネルで、全体が8分音符で刻まれている中、唯一初めから終わりまで16分音符を刻み続けています。カウベルは左寄りのチャンネルで、こちらはひたすら4分打ち。イントロとサビの部分で聞き取れます。地味ながらリズムのタイト感を強調しているように思います。

その他

ストリングスは一般的な入れ方に比べるとちょっと変則的で、イントロに聞き取れるか微妙な感じで入った後、1番ではAメロどころかサビでも入らず、間奏が終わったあとの2番Aメロから静かに入って、徐々に盛り上がりつつエンディングまで続きます。

イントロではコーラスと混じり合って聞き取りにくいですが、よく聞くとコーラス同様のロングトーンで入っているのがかろうじて聞き取れます。私はバイオリン他の弓を使う、いわゆるストリングスは実際に演奏した経験がないのですが、こんなロングトーンの演奏は可能なのでしょうか?

全体にゆったり目のフレーズでボリュームとしては小さめ、2番のサビではコーラスとぶつからないようにか、けっこう高い音域で演奏されています。全体に控えめですが、最大の山場の半音上げ転調の部分では、ドラマチックな駆け上がりで存在感を見せています。

そして忘れちゃいけないハンドクラップ!この「オフコースアーミー」というのは、レコーディングの時にスタジオの外にいたファンを呼び集めて参加させたと聞いた気がするのですが、調べても出てこないし自分の記憶にも自信はないので、話半分ぐらいで聞いといてくれればと。

とにかくもこのハンドクラップは効果的で、キーが半音上がったのと相まって大変な盛り上がり感を演出しています。

別バージョン

公式にはこのスタジオバージョンのみしか発表されていません(小田ソロでのセルフカバー除く)が、ラジオでのスタジオライブや、コンサート中継などのライブバージョン音源がいくつかアップされています。

非公式ライブバージョン(1978年10月27日・中野サンプラザ)

小田和正  Lead Vocal, Chorus, Electric Piano
鈴木康博  Vocal, Chorus, Electric Guitar
松尾一彦  Chorus, Acoustic Guitar, synthesizer 
清水仁   Chorus, Electric Bass
大間ジロー Drums
(推測)

基本はレコードに忠実ながら、バンドでの演奏向けにいくつかアレンジされています。

一番違うのはイントロで、テンポルバートな小田のローズピアノを主体に鈴木のギターが絡んだ、ジャズのアドリブセッションのようなプレイントロが追加されています。

それがルバートからテンポを持ったところで、他のパートも合流、レコードに準じたコーラスのイントロが始まります。とはいえ、ロングトーンの「ウー♫」はやっぱり無理なようで、1小節目から「ハーアーアー♫」で始まります。

あとは概ねレコードに準じていますが、間奏のツインギターリードはソロリードになっていたり、サビ部分のバックコーラスが省略されたり、ストリングスが入らない分をシンセサイザーでカバーしたりと、ライブ向けに工夫されています。

シンセの白玉バッキングは、ピアノの演奏も同時に聞こえるところや、ギターが鈴木の1本分しか聞こえないところなどから、松尾のプレイと推測されます。

あと、サビの「〜分かちあう日々は過ぎて♫」の部分はレコードに無い鈴木のハーモニーが加わっています。この部分は個人的にはこのバージョンの方が好きです。

サビのオクターブユニゾンは、「あなたに〜♫」の部分を鈴木が歌っている兼ね合いで、おそらく清水が付けているかと。鈴木は当該部分以外は、おそらく主旋律を小田とユニゾンで歌っていると思われますが、音質的に判別しづらいので、あくまで推測です。

締めみたいなもの

気づいたら当初想定の5倍、いや10倍ぐらいのボリュームになっちまいました…。初記事ということと、思い入れの強い曲、さらには仕掛けの多い曲ということもあっての結果かと思いますが、まあここまでのものは今後そうそう書くことはないかと。毎回このボリュームだと完遂するのが困難になりそうなのでね。

ということで、どこまで続けられるかわかりませんが、気が向いたら読んでいただけると嬉しいです。


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