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オフコース全曲分析みたいなもの(?) 潮の香り


楽曲について

個人的インプレッションみたいなもの

『JUNKTION』収録の、かなり愛好家の多い鈴木康博作品です。

『SELECTION 1973-78』で初めて聴いた時は、爽やかなイメージの軽快な曲だと感じましたが、同時にメロディになんとも言えない違和感を覚えたものです。まさかこんなに凄まじい転調をしている曲だとは…

その後、ギター弾き語り用の全曲集的なものを買って、初めて見たときは一瞬でギブアップしました。使われているコードの数が尋常では無い上、調号が頻繁に変わっているのもさることながら、歌の出だしのコードがF(3カポ指定)という時点で、初心者に手が出るものでは無いと悟りました。

ただ、単純に聴いている分には非常に爽やかで、やはりアダルティな雰囲気ぷんぷんの、私の大好物な内容ということもあって、お気に入り上位に来る作品になっています。

基本スペックみたいなもの

アルバム1977年9月5日リリース
『JUNKTION』A面4曲目に収録
『SELECTION 1973-78』B面6曲目に収録

作者クレジットみたいなもの

鈴木康博/作詞・作曲
オフコース/編曲

参加ミュージシャンみたいなもの

鈴木康博  Lead Vocal, Chorus, Gut Guitar
小田和正  Vocal, Chorus, Electric Piano, Synthesizer
松尾一彦  Electric Guitar, Percussions
清水仁   Electric Bass
大間ジロー Drums, Percussions

曲の全体構成みたいなもの

イントロ(G♭) → Aメロ1(A♭に転調) → A'メロ1(Aに転調) → サビ1(B♭に転調) → 間奏(A♭に転調) → A'メロ2(Aに転調) → サビ2(B♭に転調) → Aメロ3(A♭に転調) → A'メロ3(Aに転調) → スキャット(B♭に転調) → シンセのアウトロ(Bに転調) → シンセとベースの締め(Cに転調と見せかけてBで終止) 

調のところでも説明しますが、これ書いてて気持ち悪くなりました。自分で音鳴らして合わせてみたり、いろんな譜面見たりしましたが、解釈まちまちで、とても定義づけられないです。と言うことで、最もシンプルな転調解釈にしてみましたが、それでも気持ち悪いです。

リズムみたいなもの

BPM=125ぐらい。そこそこに軽快なテンポになります。

調みたいなもの

この曲の転調は頭がおかしくなるレベルで、ざっと言うなら節ごとに半音ずつ上がっていき、1番サビが終わって間奏で一旦リセット、そこからまた同様に半音ずつ上がっていって、2番サビの後またリセット。その後も懲りずに上がっていき、アウトロでは散々上がりきったところで終了という感じです。

が、恐ろしいのはそこではなくて、実際にはAメロ部分、ほぼ1〜2小節ごとに細かく転調しています。そして気がつくと、あれ?さっきより半音キーが上がってね?と狐に摘まれたようになってしまうという、まさに技巧極まれるコード進行です。

ここの解析も、細かく検証したらめちゃ長くなる恐れがあるので、私なりの解釈での調解析だけ載せます。

(A♭)ゆう〜なぎ〜ひは(E)〜くれ〜まどい〜とお(A)〜くに〜みな(G)〜とのひ〜みえ(B♭)〜かくれ〜して(A)〜

異論は多いと思いますが、細かい検証は割愛です。決して理解できなかったとかじゃないですよ?…うん、ホントだよ…?

歌詞みたいなもの

『JUNKTION』鈴木作品全般に共通する、大人っぽい路線の詞になります。

タイトル通りの「海」ソングで舞台も葉山あたり、定番の134号線でしょうか。ここは横浜出身の私には少なからず馴染みのあるエリアなので、光景が具体的に想像できて親近感を覚えます。

主役は男、クルーザーを持っているほど裕福で、一人で海に出て気ままに漂っていたと。で、日も暮れてきたので港に戻ると、恋人だか奥さんだかはわかりませんが「あなた」が迎えにきていて、楽しんでいた「一人だけの時間」が終わる代わりに「二人の時間」が始まるというわけですね♡

車での帰り道、夜景を眺めつつ「明日はあなたと海へ出よう」と幸せを再確認する…いやあ、大人ですな。夢見る中学生としては、まだ見ぬ大人の世界への妄想をこれでもかと掻き立てる歌詞です。まあ妄想は妄想のままで終わりましたがね…

ともあれこの時期の鈴木作品は、いちばん油が乗っていたというか、小田と違うアダルトな路線がハマっていて、個人的には大好きでした。

各パート

リードボーカル(鈴木康博)

伸びやかで爽やかな雰囲気も出しつつ、なかなかに感情豊かなボーカルになっています。やっぱりこの人は小田とは別の方向でめちゃ上手いボーカリストだと思います。

サビ部分からはダブリングがかかっています。小田とのユニゾンかなとも思いましたが、普通にダブリングと推定しました。

2番サビの「〜このひととき」だけはダブリングが外れていて、情感のこもった歌い方と相まって、大変味わい深いフレーズになっています。

コーラス(鈴木康博/小田和正)

この曲は珍しく、サイドボーカルやコーラスがほとんど入っていません。

特にバックコーラス的なものは全く無く、サビの「〜頬をくすぐるかすかなこの風」部分と、2番の同じ部分の「〜un」というハモりのみが入っています。

1番は2声ハーモニーで、この部分は小田が下のパートに入っています。

2番は3声でしょうか?僅か1か所1フレーズですが、バッキングのリズムが止まる中の綺麗なコーラスで、一瞬時間が止まったかのような余韻になっています。

ガットギター(鈴木康博)

左チャンネルに入っていて、コードプレイ中心ではありますが、裏拍メインのストロークや、部分的にアルペジオ、フレーズなども織り交ぜて、ボサノバっぽい雰囲気を作っています。

音域は幅広く使ってますが、これだけ転調が多いとハイポジションでは一瞬わからなくなりそうですな。

エレクトリックギター(松尾一彦)

右チャンネルでコードバッキングを務めています。地味なポジションですが、リズム作りに多大な貢献をしています。

ナチュラルトーンですが、ガットギターと違和感無いようにか、柔らかめの音になっています。おそらくフロントピックアップの音じゃないかと想像します。

Aメロ部分では大変忙しく、16分音符の細かいストロークで、ビートルズの「All My Loving」を思わせる高速アップダウンの連続になってます。このプレイが序盤の軽快感を引き立てていると言えるかと思います。

サビではカッティングを織り交ぜたコードストロークで、やはり裏拍を強調して、ボサノバっぽい雰囲気を補強している感じです。

キーボード(小田和正)

キーボードはエレキピアノとシンセサイザーが入っています。

エレピはおそらくコーラスエフェクトをかけた上で、左右に広がるようにミキシングされています。コードバッキング中心ですが、結構マメに動いていて、やはりリズムの補強をしている感じです。

シンセサイザーはこの曲では主役級の活躍をしています。レゾナンスの効いたビヨンビヨンした、いかにもこの時期のシンセといった音で、部分部分で何重か重ねられています。軽くポルタメントもかかっているようです。

イントロ、アウトロのベースとのオクターブユニゾンは、イントロがエレピ、アウトロがエレピに加えてシンセが入っています。

それにしても、この曲のような複雑な転調曲では、キーボードが一番大変だなと思います。ギター、ベースなどは基本のポジションを覚えれば、あとは1フレットずつずらしていくことで半音上昇に対応できますが、キーボードは譜面なしで演奏するのは、なかなかに骨が折れるかと思います。

エレクトリックベース(清水仁)

ベースはイントロのソロが華になっています。清水はこの『JUNKTION』が、アルバムとしては初参加になりますが、全体的に華を持たせようとしているのか、ベースの目立つ曲が多いように思えます。

イントロや、特にアウトロのフレーズは、ベースとしてはかなり高域ですが、独特の甘くこもった音は、他の楽器では出せないサウンドで、大変効果的です。

Aメロ部分では、ひたすらルート弾きでタイトなリズムキープ、サビになると音数が増え、シンコペーションも交えてスピード感を付けています。ソロ部分以外は低域のプレイで、ソロの高域が際立つよう工夫されているのではと思います。

ドラムス(大間ジロー)

意外なほどシンプルなプレイで、トリッキーなリズムの仕掛けはパーカッションはじめ他の楽器に任せ、土台のリズムキープに専念しているようです。

とはいえフィルインはかなり多彩で、スネアのみや、フロアタム連打、ハイハットワークなど、合間合間で変化を付けています。

Aメロのアクセントはリムショットですが、パーカッションのところで触れる、リムショット風の音が混ざって、随所でトリッキーなリムショット連打に聞こえます。一体化して聴こえるあたり、もしかするとリムショットだけ後でオーバーダブしてるかもです。

パーカッション(松尾一彦/大間ジロー)

パーカッションは聞き取れる範囲でコンガ、ギロ、ウッドブロックまたは木魚に加えて、ドラムの項目で触れましたが、ドラムとは別のリムショット的な音が入っています。何を鳴らしているのかは分かりません。

コンガは中央左寄りで、イントロ部分では低音のみ淡々と叩き、歌に入ってからは高音も交えたプレイになっています。

ギロは中央右寄りで、イントロからアウトロまでずっと鳴っています。マメにアクセントを付けていて、イントロや2番サビのブレイク部分では、なかなか効果的です。

ウッドブロックまたは木魚は、ミックスレベルが小さめなので、周りが静かな時以外は聴き取りにくいですが、イントロから最後までずっと入っているようです。聴こえる部分では淡々と4分打ちです。

リムショット風の音は、全曲通して徹底して裏拍に入っています。イントロからAメロでは1拍目裏のみに入っていますが、ドラムのリムショットが2拍4拍表に入っているのでまるで連打しているように聴こえます。

2番サビ後のAメロ3あたりでは、一部連打もふくまれていて、かなりトリッキーなリムショットに聴こえます。

別バージョン

非公式ライブバージョン(1977年・スタジオライブ・詳細不明)

鈴木康博  Lead Vocal, Acoustic Guitar
小田和正  Vocal, Electric Piano
松尾一彦  Synthesizer, Percussions
清水仁   Electric Bass
大間ジロー Drums
(推測)

ラジオのスタジオライブらしいですが、詳細は不明です。

もちろんレコードバージョンのような多彩な楽器は入れられませんが、オリジナルの雰囲気が再現されるよう、工夫が凝らされています。

ギターは鈴木のアコギのみで、松尾はイントロのみギロと思しきパーカッション、その後はずっとシンセサイザーに回っています。

ボーカルはサビ部分から小田がユニゾンで入り、2部ハモり部分ではレコード同様、鈴木:高音/小田:低音のパート分けになっています。

パーカッション類が入れられない分、イントロではドラムが裏拍中心のタムでカバーしています。

この時期は楽器を多く重ねてるが故に、ライブでは再現に難のある曲が多いですが、アレンジのちょっとした工夫でカバーして、結果遜色なく聴こえるようにしているあたり、見事なアレンジと演奏技術かと思います。

締めみたいなもの

オフコースの曲では、転調というのはさほど珍しくはないですが、多くは長尺の曲で、これほど短い中に複雑な転調を盛り込んだ曲というのは、さすがにあまり例を見ません。

最近のJ-POPでは転調は当たり前になっていて、もうこのぐらいの転調は珍しくないかもしれませんが、それでもやっぱり唐突感のある、インパクト重視のものが多いなとも思います。

それから考えると、40年以上も前にこれほどの技巧を凝らして、とんでもない転調を自然に聴かせた作品があったということを、せめてリアルタイム世代としては、記憶に残しておきたいなと思ったりしました。

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