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オフコース全曲分析みたいなもの(?) その時はじめて


楽曲について

個人的インプレッションみたいなもの

『Three and Two』のA面3曲目に収録された小田作品で、オフコースでは珍しい、というかほぼ唯一の12ビートバラード曲です。

前2曲がキーボードとギターそれぞれに特化したアレンジだったのに対して、この曲は小田作品ですがギターが目立つアレンジで、バランスの取れたバンドサウンドになっています。

全体に重いサウンドではありますが、歌詞は朝のひとときを切り取った大変穏やかなもので、このギャップがかえって「君」への想いの深さを際立たせているように感じます。

当時の私はまだこのアルバム以外には『SELECTION 1973-78』しか聴いていなかったので、聴き慣れない曲調のこの曲が大変新鮮に感じました。もちろん当時も今もお気に入りの曲です。

基本スペックみたいなもの

アルバム1979年10月20日リリース
『Three and Two』A面3曲目に収録

作者クレジットみたいなもの

小田和正/作詞・作曲
オフコース/編曲

参加ミュージシャンみたいなもの

小田和正  Lead Vocal, Chorus, Electric Piano, Synthesizer
鈴木康博  Chorus, Electric Guitar
松尾一彦  Chorus, Electric Guitar
清水仁   Chorus, Electric Bass
大間ジロー Drums
(曲別のクレジットはないためパートは推測)

曲の全体構成みたいなもの

イントロ(C) → Aメロ1 →A'メロ1 → Bメロ1 → サビ1 → 間奏1 → Aメロ2 →A'メロ2 → Bメロ2 → サビ2 → 間奏2(E♭に転調) → B'メロ2(Cに転調) → サビのリフレイン→ アウトロ

リズムみたいなもの

テンポはBPM=66ぐらいの12ビートバラード。フォーク、ロック、ポップス系のバラードでは定番的なリズムですが、意外なことにオフコースではこのリズムを使用している曲は他にありません。

これに気がついた時にはかなりびっくりしまして、本当に他にないか慌てて確認しました。その結果、私が調べた範囲では他には見つかりませんでした。ただ4人時代のシングルB面曲とかまでは調査が及んでいないので、もし「この曲12ビートだよ」というのがあれば、指摘していただけるとありがたいです。

12ビートという言い方は馴染みのない方もいらっしゃると思いますが、まあ聴けばわかるというか、それこそ日本人なら何度も聞いたようなリズムです。演歌でもいっぱいありますし、プリプリの名曲『M』とかもそうです。ビートルズでも『Oh! Darling』とか『This Boy』とかがこのリズムです。ロッカバラードという言い方もあるようです。

拍子記号としては「12/8」と書きます。8部音符3個で1拍、×4拍で12個というわけです。譜面によっては4/4で、1拍を3連符に分割した表記もあります。むしろこっちの方が馴染みある方が多いかも。ただ3連符形式だと、譜面を書くときにいちいち3連符記号を入れなきゃならなくて煩わしいので、私は12拍子表記の方が好きですw

基本的にはこのリズムで全編通しなのですが、間奏部分では変則的なリズムが2ヶ所出てきます。中間部分と最後のリフレインに繋がる部分で、それぞれ1小節ずつ2連符で刻んでいます。

2連符という言葉は、さすがに聞き覚えのない方もいらっしゃるかと思いますが、要は8分音符3個で1拍のこのリズムで、1拍を2分割するということです。

4/4での3連符表記の楽譜の場合なら、3連符でない普通の8分音符でリズムを刻むということで、独特の停滞感が生まれて大変効果的です。

間奏中間部では他の楽器が全て、この2個単位のリズムを刻んでいる中、ギターソロだけは3個1拍のリズムで弾き続けているので、1小節のみとはいえ、いわゆるポリリズムになっています。

地味ながらなかなかに凝ったアレンジで、一見仕掛けの少なさそうなこの曲で、大きなヤマを作っています。

ちなみにこの譜割り、実はもう1ヶ所ありまして、最初も最初、出だしのドラムフィルインの冒頭2拍がこの2連符になっています。

あとは2番A'メロ2でのブレイクが、地味ながらいい小技として効いてます。ここは歌詞も「〜時間を止めて」となっているので、本当に演奏が止まるのがなかなかにドラマティックな効果になっていると思います。

調みたいなもの

キーはCメジャーですが、間奏のみE♭メジャーに転調します。E♭メジャーはCマイナーの平行調なので、Cメジャーに対しては平行調の同主調という関係になります。

間奏が終わるとCメジャーに戻り、そのままエンディングまで続きます。

歌詞みたいなもの

小田曲としてはけっこう具体的な情景描写のある歌詞です。

雨上がりなのか雨が降っているのかは明確に分かりませんが、個人的には雨上がりという感じがします。そんな月曜日、おそらく職場に向かうであろう奥さんか恋人と、それを見送る男性が登場人物です。まさに家を出てから人混みに消えるまでの、ほんの瞬間で思ったことが綴られています。

男性は出かける時間がもっと後なのか?在宅ワーカーなのか?あるいは主夫かw いずれにしても家の中から女性の挙動を見ているようです。

女性は詳細は描写されていないものの、「〜君が駆けてゆく」というフレーズから、イメージとしては活発な、キャリア系の女性という感じがします。

その何気ない日常の挙動を見ていて、ふと深い思いに気づいて、再確認した途端、思いが募って独占欲が止められなくなったという感じですかね。

小田の歌詞にしては、珍しいとまでは言いませんが、けっこう熱烈な感じで、総じてクールな内容の歌詞が多い中では異色だと感じました。

『眠れぬ夜』では「〜愛のない毎日は自由な毎日」と歌っているのに対して「〜新しい愛も自由もいらない」と歌っているあたりは、まさに対極という感じがします。

これだけ熱烈な内容にも関わらず、ドロっとした部分を感じさせないのは、やはり言葉選びの巧さですかね?個人的にはけっこう好きな歌詞です。

各パート

リードボーカル(小田和正)

出だしは柔らかめの、特に処理もされていなさそうな歌声ですが、A’メロの終わり「〜君がかけてゆく」のあたりからダブリングがかかり、音程の高まりと相まって力強くなります。

心なしか情感強めなイメージで、相手の女性に対する内に秘めた思いを熱く歌い上げているように感じます。

地味ながらリフレイン部分1回目と2回目の繋ぎの部分、2回目の「〜Ah」の前に、ソロで1拍前乗りで入れている「〜あああ」というフレーズが個人的には大好きです。

コーラス(小田和正/鈴木康博/清水仁/松尾一彦)

コーラスはBメロ部分ではバックコーラス、サビではハーモニーとしっかり分かれています。

Bメロのバックコーラスは、低域を使った3声の厚めのコーラスで、ちょっとゴスペルっぽいイメージも感じました。

サビのハーモニーは、リードボーカルの上と下にそれぞれついていますが、リードボーカルが音程の上下が激しいのに対して、比較的平坦なメロディラインになっています。そのため1音毎にインターバルが変わって、時にはリードボーカルが高音部より上の音程になったりと、複雑な響きになっています。

間奏後のB’メロ2からリフレインへの繋ぎでは、かなり高音のソロスキャットが入っていますが、これは小田でしょうかね?ファルセットであっても男性ではかなり高くて、キツい音程かと思われますが、まあオフコースですから余裕かとw

キーボード(小田和正)

キーボードはローズと思しきエレキピアノと、部分部分でシンセサイザーが入っています。

ローズピアノは高音域のコードプレイで、全編通して入っています。小さめにミックスされているので、基本的にあまり目立ちませんが、時折りアクセントの強い部分では独特の澄んだ響きが目立ちます。

イントロ〜Bメロではコード頭の白玉プレイがメインですが、時折分散和音なども織り交ぜて、微妙に変化を付けています。

サビでは8分打ち、いや12分打ちか。いずれにしても8分音符を連続してコード弾きしています。ここはギターの16分音符ストロークの方が目立つのですが、12ビートのピアノでは定番のプレイスタイルです。

アウトロが終わったところで、小さくですがソロの連続シーケンスが入り、フェイドアウトします。これは雨音のイメージですかね?非常に綺麗な余韻になっています。

シンセサイザーはポイントで効果的に使われています。歌パートではAメロとA’メロの繋ぎに、ベルっぽいキラキラした音のオブリガートが入っています。

アナログシンセでは比較的作りにくい金属的なサウンドですが、フィードバックディレイで複数回遅らせて重ね、キラキラ感を高めた上で、1音毎にパンポットで左から右へ流していて、大変効果的な繋ぎになっています。

あとはアウトロで、こちらはノコギリ波にレゾナンスを効かせたビヨンビヨンしたリード音が、出だしはリードギターとユニゾン、ギターが暴れだすあたりからは定型のリフになって、終わりまで続きます。

シンセフレーズ自体はオクターブユニゾンで重ねてあって、右が高音域、左がオクターブ下になっています。これが後半ではどちらもさらに1オクターブ上がって、最後の盛り上がりに貢献しています。

エレクトリックギター(鈴木康博/松尾一彦)

ギターは大活躍で、イントロ、間奏2回、アウトロと全てギターで演奏されています。また伴奏でも効果的にリズムギターが使われています。リードギターは鈴木で間違い無いかと思われます。

リズムギターは終始鳴っている左チャンネルが松尾、サビなどで入ってくる右チャンネルが鈴木かとも思いますが、ディレイかコーラスで左右に振っている可能性もあるので、ちょっと確証は持てません。

そのリズムギターは、おそらくセンターピックアップとリアピックアップのハーフトーンで、コーラスエフェクトをかけた音と推測します。

Aメロ〜Bメロでは左チャンネルのみで、2拍4拍のカッティングストロークを基本に、アルペジオやカッティングでないストロークなどを織り交ぜて変化を付けています。

サビでは右チャンネルも加わって、16分音符の細かいストロークプレイになります。この右チャンネルの音が、綺麗に左とシンクロしているので、別録りしている音か、エフェクターで振り分けた音か、ちょっと判別がつきません。

ただ、間奏2で右チャンネルに入っている音は、明らかに左チャンネルと別の音なので、サビの右チャンネルも別録りの可能性が高いかも知れません。

リードギターはがっつりディストーションのかかった、かなりハード目の音です。硬くて分厚い感じから、ハムバッカーのリアピックアップかと。エコーリバーブは浅めなので、かなり近い距離、目の前で鳴っているように聴こえ、よりハードなイメージになっています。

いずれも味のあるソロになっていて、特に間奏2ではリズムのところでも書いたポリリズムや、バックと連動したキレの良いブレイクなど、仕掛けも満載になっています。

アウトロは出だしこそシンセとユニゾンの決めフレーズですが、すぐに独自のフレーズになり、アドリブ要素満載の速弾きプレイになって、ハードなイメージを盛り立てます。

そして最後は長めの溜めからの締めフレーズで、余韻にエレピのシーケンスが重なる、なかなかにドラマティックなエンディングになっています。

エレクトリックベース(清水仁)

この曲でのベースは、個人的にはかなり味のあるプレイと感じました。

特にソロがあるわけでもなく、基本的にはルート弾きに若干の経過音的なオカズを入れている、ある意味お手本のようなプレイではありますが、バスドラとのコンビネーションや、溜めの効いた低域のルート音と経過音との絶妙な緩急で、この曲のゆったりしつつも重いリズムを支えています。

これが節の繋ぎ目、例えばA’メロからBメロへの繋ぎなどでは、1拍毎に急上昇、4拍目に音数の多い高音のフィルインを絡めて動きを出し、次の節への期待感を高めています。

間奏2では音数も増えて若干スピード感が増しますが、ポリリズムになった次の小節では、ちょっとスラップっぽい裏拍のフィルインが入っていて、小粒ながら効果的なオカズになっています。

アウトロは同じコード進行を1小節ごとに繰り返す構成ですが、ここではかなり細かいアドリブを絡めていて、単調になりがちな繰り返し進行に変化を付けています。

ドラムス(大間ジロー)

ドラムスは意外なほど地味で、あまり派手なフィルインなども入れていませんが、小技的なリズム変化が多いので、そちらのキープに尽力しているようです。

Aメロはハイハットとリムショットの定番的な組み合わせ。それ以外のBメロ、サビ、間奏などはライドとスネアという、こちらも定番的な組み合わせです。というか、おそらく意識的に定番、かつ抑え気味なプレイにしている気がします。

間奏2での2連符部分は、スネアの連打で、停滞感のあるリズムを強調しています。他の曲と比べてタムの使用頻度が少なめで、スネア中心のフィルインが多いように感じます。

サビのリフレインまで徹底して抑えていた分、アウトロではそこそこ派手なフィルインも入って、終盤の盛り上がりを高めています。

別バージョン

公式にはこのスタジオバージョンのみで、ライブ、リミックスともに存在しないようです。後年の非公式ベストなどにも収録される機会が少なく、好きな曲だけに残念です。

非公式ライブバージョン(1980年・NHK-FM)

小田和正  Lead Vocal, Chorus, Electric Piano, Synthesizer
鈴木康博  Chorus, Electric Guitar
松尾一彦  Chorus, Electric Guitar
清水仁   Chorus, Electric Bass
大間ジロー Drums
(パートは推測)

1980年の大晦日に放送されたライブ音源で、時期的に「We are」ツアーのものかと思われます。テープの伸びでテンポやピッチが不安定ですが、そんなのどうでも良くなるほど貴重な音源です。

基本はスタジオ版に準拠していますが、一番大きな違いが「〜時間を止めて」のところのブレイクで、1小節分の長い休止になっています。この演出はなかなかに粋な感じかと思います。

AメロとA’メロの繋ぎは、シンセではなくエレピをボリュームアップして、鈴木のバイオリン奏法のフレーズを重ねています。鈴木はそのまま、スタジオ版には無いオブリガートを入れていますが、これはなかなか効果的で、スタジオ版に入っていても悪くないのではと思いました。

アウトロはシンセのリフは無く、ギターソロも序盤こそスタジオ版と同じフレーズですが、後半はほぼアドリブの全く別のプレイになっています。

エンディングは最後まで行かず、次の「季節は流れて」にメドレー的に繋がっています。

スタジオ版があまりオーバーダブの少ない、シンプルなバンドサウンドということもあって、ライブ再現度はかなり高いと思います。

締めみたいなもの

名曲揃いの「Three and Two」の中では,ポジション的に目立たない曲ですが、私はかなり好きな方で、それだけに音源の少なさや、評価機会の少なさを残念に思います。

シンプルな編成、サウンドながら仕掛けは満載、何よりオフコース唯一の12ビートという希少価値が、もっと評価に繋がることを期待して、この記事を終わりたいと思います。

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