“ともだち”の作り方

 雨が降り始めた。バイト帰りで30分も歩きたくない。だから雨に濡れていくことにした。自転車で15分くらいなら濡れてもいい。明日風邪をひきませんように。
 自転車のペダルと踏んで、前に進む。風と共に雨水が当たってくる。雨音はちょっとずつ強くなっていて、街ゆく人達もちらほらと傘を差し始めた。自転車で傘はさすがに危ないだろうと持ってきた折り畳み傘はカゴに収まっている。
 こうして一人で帰るといろいろ考えてしまうもので、自転車という名の凶器を乗り回しているはずなのに、車輪と一緒に頭もグルグル回っている。最近か、あるいは少し前くらいになって、自分が自分のことを考えることが好きなことに気づいた。大抵は同じようなことを考えてしまっていて、やっぱりグルグルしているだけなのだが。

 ふと思い出したのが「友達の作り方」だった。私に「自己分析できてるじゃん」と気づかせてくれた?先輩の話。少し前に、顔の広い先輩が友だちの作り方について話してくれたのだ。
 曰く、密になりやすい雰囲気の喫茶店や居酒屋などで隣に来た人に話しかける。その後、会話を広げていって一時的に親しくなる。後日、その人と再び会った時に「あのときはどうも~」と言いながら話を広げる。らしい。
 これを聞いた時は「創作か…?」と思ってしまったが、先輩の性格や言動からマジなんだと感心してしまった。コミュニケーション能力が高い人はこれができるから恐ろしく、あこがれてしまう。
 一人旅で比較的従業員さんや他の利用者と密になりやすいタイプのホテルに泊まった時でさえ、隣に座った人に話しかけることができない人間にはハードルが高すぎる。それができるメンタルに憧憬の念を抱かないわけではないけれど、自分にそれは必要なのか?とも考えてしまった。無理だと思っているし、まぁそれが私だよな、ともネガティブな自分は受け入れるのである。
 とはいえ、先輩のそのコミュニケーション能力を直に見ることはない。そもそも居酒屋とか行かない。だいたい宅飲み勢の自分が外で酒を飲むダナンで、旅行みたいなハイで財布のひもがゆるゆるの時くらいである。喫茶店も正直カフェより好きだけど、行くときはゆっくりしたいし、人と離れたい時だ。それこそ、自分と話をする時に行くような場所になりつつある。やっぱり自分には向いていないらしい。
 先輩の「友達の作り方」講座はネガティブ陰キャな自分では物語の世界のような話だ。友人が酷く少ない私にはハードルが高い。エベレストくらいはある。あるいは月と地球くらい。縁遠い話だ。
 
 ここまで考えたところで、ふと数日前のゼミ旅行を思い出した。1泊2日の東京旅行。その1日目の夜ごはん。月島でもんじゃを食べたのだ。おいしかったし、もんじゃって考えてみたら東京くらいでしか見ない。食べれるところあるのだろうけれど、わざわざ食べようってならない。
 ただ、もんじゃのおいしさよりも驚いたことがあった。一緒に来ていた先生が隣に座ったお客さんに話しかけていたのだ。「どこから来たんですか?」から「どうして東京に?」と。お客さんの話を聞いて意外と面白かった。曰く、とあるイベントの帰りにもんじゃ屋さんに来たのだとか。毎年開催されているイベントの帰りにもんじゃを食べて、家に帰るというルーティンのようなものがあるという。
 話をする相手も楽しそうだし、知らなかったことを聞けて「なるほどなぁ」と納得もした。知見がすごく広がったわけではないけれど、こういう話は人からしか聞けないよな、とも。多分、先輩もこんな感じで知人を増やし、友人を増やしていったのだろう。先輩のは見れなかったけれど、似たような状況には出会ってしまった。コミュ力おばけは恐ろしい。
 あたたかな色合いの店内と密な座席とおいしいもんじゃと月島ビール。こういう空間だからこそ、お酒の席は楽しくて、面白い場所なのかと一つ賢くなった気もする。とはいえ、一人飲みの方が好きなのは変わらないけれど。
 
 信号手前。あと数分で家に着く。雨でビショビショとは言わないけれど、だいぶ濡れた。けれど正直雨よりもおなかの方が空いていてしんどい。帰ったらシャワーを浴びてご飯にしよう。今日は残り物でパーティーである。ちょっとかだいぶかお酒のことを考えていたけれど、もんじゃのあとの二次会で日本酒を飲みまくってしまったのでしばらくは禁酒です。今月末の飲み会までは休肝日を続ける予定。それまではお酒を楽しみに待っていようと思う。

 こうして文字に書き出してみても、やっぱり自分に友達作りは向いていないような気がする。それに寂しさを覚えると同時に、一種のあきらめのような感情と悲観的になる必要ないよなというどこか自虐的でポジティブな気持ちが沸き上がった。自分は自分だし、無理に変える必要もないし。今ある大切な友人とつながっている方が、自分は気が楽に感じる。友達がいなくて寂しくなった時にまた考えるとしよう。その頃には、行きつけの居酒屋(おいしい日本酒があるところを所望)ができていて、隣の常連さんか店主さんと話せるくらいになってると良いな。きっと何十年後の話だろうけれど。


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