改革は形から入らないと永久に出遅れ続けるーー東工大「女子枠」設置に見える”多様性”への焦り

 時々、「男女平等」のための取り組みが、「女尊男卑」の施策に思えてしまうことがある。

 そんなことをのたまう私は女であるが、「社会において女性が不当な差別や不利益を被らない」ための取り組みについては有難いと思う一方、過度に優遇されることには気まずい気持ちもある。

 そして、以下の記事を読んだ女子高生も私と同じように気まずい気持ちを抱いたのではなかろうか。

 おそらく、女子枠で入学した女子生徒は「私は女子枠で入学しました」なんて、在学中には口が裂けても言えないだろうなあ・・と思った。

 東工大の発信を信じるならば、①一般選抜と②総合型(推薦)/一般枠、そして③総合型(推薦)/女子枠は難易度に差はないとのこと。

 女子枠ができると、女子の受験者はそちらに集まりやすくなることを考えると、男子受験者にとってはもしかしたらそこまで大打撃、、にはならないかもしれない。

 けれども、「同じ学力レベルであれば男子じゃなくて女子をとるよ」と言っているようなものであるし、一般枠と女子枠の併願が可能なことを考えると、女子の方が合格へのチャンスが広がったことは明らかである。

 ということはやはり、「女子枠」の設置は女子優遇には変わりないのである。

 東工大内で「女子枠」設置を推進した人たちはもちろんのこと、上記のことをわかっていてやったのであろうし、批判が起こることも予想していたと思う。

 ならばなぜ、このような改革をしたのだろうか。

 鍵になるのは、東工大の発信に見られる「多様性」というワードである。


なぜそこまでして女性を活躍させたいの?

 どうせ「日本はジェンダー平等の国ですよ」という対外的なポーズが取りたいんだろうとずっと思っていた。

 もちろんジェンダー平等という視点もあるけれど、そんなことよりもはるかに大事なのは「多様性」を確保することだった。

 前に何かの本で、非常に優秀な経済学者を結集させて未来予測をさせた場合と、玉石混交の有象無象の衆に未来予測をさせた場合で、その精度を比べた研究が載せられていた。

 結果は、玉石混交チームの勝利。

 研究結果を初めて読んだ当時は、「なぜ?」と正直驚いた。けれどちゃんと理由がある。

 何かを予測するには、考えられうる全ての可能性を洗い出しそれぞれ検証していく必要があるが、どれだけ頭のいい人を集めようが、似通った思考の持ち主たちだけではより多くの可能性を網羅はできないのだ。

 彼らのベストを尽くしたとしても、彼らにはない視点を内在させているチームの方が上手になる、ということである。


不確実な時代を生き抜くためには、エリートが時間をかけ思考を巡らすよりも、より大量で多様な視点を持つことが大事


 例えばエリートたちが時間をかけて話し合っても、「これは革新的だ!」と結論づけた施策を実行したって、他の一般人から見れば「すでに実行されていること」「当たり前」の可能性があり、彼らからしたらすでにその施策の欠点すら見えている可能性だってある。

 真にイノベーションを起こしたいのであれば、まず多様な視点をベースに持つ必要がある。

 結局、どれほどエリートを育成したところで、同質なエリートの量産では意味がないのだ。


昔に比べたら女性の活躍の場は提供されている。なのに男性のチャンスを奪って女性を優遇するのは正しいのか。


 ただ、「女性を活躍させよう活躍させよう」と社会全体でプッシュしなくとも、これまであった女性に対する壁や、女性が入りたくても入れない敷居みたいなものはなくなってきているように思う。

 なのにあらゆる面で女性活躍推進のもと男性が不利益を被っているように思えなくもない。

「機会は開かれているのに未だ女性が活躍していないのは、女性が活躍しようとしないからだ。活躍を強いるのではなく、男女問わず活躍したいと意欲ある人が活躍できる社会であるべき。その結果今の現状なら、あえてこれ以上女性をプッシュする必要があるのか?」

 そんな意見をお持ちの方もいるだろう。一理あると思う。(また、門戸は開かれているけれども心理的な制約や社会の意識改革が追いついていないため、「活躍しよう」とする女性が出てこない、つまり開かれているけれど実質閉ざされているのでは、という意見も一理あると思っている)

 けれど今回は、ジェンダー平等というより多様性を確保するための話なのだ。多様性を確保するためには、ジェンダー不平等にでもしないと今の日本では多様性は確保できないのだ。

 そして、そうまでしてでも多様性というのは確保しないと、日本の将来にとって枷である、という認識が教育機関にはあるのだろう。

 それに、社会が人々の意識変化とともに少しずつ変わっていくのを待つのでは遅いということではなかろうか。

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