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ヨーロッパ退屈(するわけない)日記③オランダ編

2024年6月10日15時1分(オランダ時間)に記す。
今はオランダはアルンヘムからパリへ電車で移動している最中だ。窓からは広大な農地とそこを悠々と歩く牛や山羊たちが見える。アルンヘルムという街は馴染みが無いかもしれない。アムステルダムから電車で1時間程度、ライン川沿いにあり、古風だが緑の美しい、品の良い街だ。なぜそんな街まで来たかというと、「People of the Labylinth」というブランドのヤードセールのためだ。「People of the Labylinth」(以下、People)は30年以上続くファッションブランドで、サイケデリックな色合いと宗教や絵画をモチーフにした知的なプリントのミックス感覚が唯一無二だと思う。

そのPeopleが、現在の在庫限りで洋服の生産は終了し、今後は家具やアートの制作に注力するということで、僕と母は洋服の仕入れに来た。
アルンヘルムの駅まで、ガートが車で迎えに来てくれた。彼と僕の母とはPeopleの取引で30年以上の付き合いがある。
ガートはPeopleのマネージャーで、長い白髪を団子にまとめ、パジャマにも外出で引っ掛けるのにもちょうど良さそうなチェックの薄いガウンを羽織ってきた。2年前にもアルンヘルムに彼を訪ねたが、いつも親切にしてくれる。彼の家の真横に倉庫があり、そこで1〜2時間ほど仕入れをした。その日はアルンヘルムに泊まる予定だったので、ガートは仕入れが終わると、彼の家を案内してくれた。
写真でも伝わりきれない、収まりきれない美しさなのだが、カラフルで、自由で、エレガントで、雑多なのに一貫性があって、夢のような家だ。特に彼らの庭は様々な花や木々の影に、古い石像やベンチが見え隠れしていて、その道はうねうねと草原のように続く。

夢のような部屋。
奥はライブラリーになっている。

庭で、Peopleのデザイナーであり、ガードのパートナーでもあるハーント、彼と遊んでいるペットの犬に会った。名前は聞いていないのでベイビーと呼ぶことにする。
とにかく、そんな美しい庭で、食事前に彼らとワインを飲みながらお喋りした。
ガートは、台湾有事や能登半島の地震のことも気遣ってくれ、他にも世界のニュースに詳しいので驚いていると、ハーントが「ガートはたくさんの新聞を隅々まで読むんだ。」と説明してくれた。するとガートが「ハーントは僕と違って空想主義なんだ。辛いニュースに目を向けず、それよりワインを一杯どう?と薦めるタイプだよ」「でもさガート、ニュースを見ても、どうせ僕には何もできないし、悲惨な現実に気持ちが暗くなるだけだ。それなら、旅とか楽しいことをしながら、それを日々の制作に取り入れることしか僕にはできることがないよ」
「僕も、ハーントさんの気持ちがよく分かります。だから僕は、ニュースに一喜一憂しないよう、歴史の本を読むようにしています。歴史を知ると、世界で戦争が起こったり、国同士で軋轢が生まれるのは、ある種のサイクルの中で必然だと分かり、長期的な目線で物事を考え、次に何が起こるか推測できるようになります。」
そのあとは、パリの人たちの内向きで高邁な態度への悪口や、ハーントが別荘を持っているリスボンの美しさについて語り、18時ごろになると庭では冷えてきたので部屋の中に移動してルームツアーしてもらった。僕が特に好きなのは、大量の本が広大な家のあちこちに置いてあることだ。それも本棚ではなく、椅子の肘掛けやテーブルに本が積まれてあり、生活の中で手に取りやすくなっている工夫がある。庭に近い小さなゲストハウスにはガーデニングの本が置かれ、キッチンには料理本が置かれている。同じ本好きとして真似したい。

椅子に積まれた本

彼らの家を訪れたのはこれで2回目だが、毎回「生活とは、気持ちとセンス一つでこんなに楽しく美しくなるのか」と勇気をもらっている。
そしてヒッピーの思想は、こうしてPeopleによって思いもよらずオランダのシックで知的な伝統と組み合わさって継承されている。僕も僕なりに、ヒッピーの思想を継いでいこうと思う。

ヴィンテージソファのリメイク

ルームツアーが終わって、ガートと僕と母の3人で近くのレストランへ食事に行くことになった。ハーントは前日に結婚式のダブルヘッダーで疲れてしまったらしい。彼らの家から歩いて5分のレストランでは、エビのアヒージョと鶏のロースト、フライドポテトを食べた。食事の途中、ホテルからチェックインが遅いので電話が来たが、ホテルのスタッフとガートが知り合いらしく、代わって話を通してくれた。食事の途中には、近い席に同じジムに通っているゲイのカップルが座ったので挨拶していた。こうしたローカルに根付いた人間関係やお店との付き合いも、アルンヘルムの魅力だ。
食事を終えて、ガートは車でホテルまで送ってくれた。食事中にワインを飲んでいたので飲酒運転なのだが、そこらへんは緩いだろうし、ガートなら何の不安も無かった。ちなみに、オランダではマリファナを吸いまくってわざと蛇行運転する、迷惑な若者がいるらしい。
モーレンダルというホテルに泊まったが、部屋の中は薄いピンクを基調にしたウェスアンダーソンの「グランドブダペストホテル」的な内装で可愛らしい。特に電球がオレンジなので部屋の中が柔らかく、暖かく見える。

ウェスアンダーソンなホテル


翌朝は雨が降っていた。窓際で朝食をいただいたが、カトラリーやレースのナプキンが美しい。朝食の部屋のカーテンは、Peopleの特注で真っ白なカーテンだった。朝と白色は相性が良い。スッキリと1日を始められる気がする。

朝食のカトラリーは白い。


今はパリにいる。Miramaという、パリ留学時代から世話になっている中華料理屋でダックライスと酸辣湯をかき込んで直帰。明日は朝からマレとサントノーレのショップをドサ回り。早めに寝ます。

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