量子力学の奥深くに隠されているもの: コペンハーゲン解釈から多世界理論へ 単行本 – 2020/9/25ショーン・キャロル (著), 塩原通緒 (著) Amazonレビュー

現在、日本語で読める 最良の多世界理論の本です。

2021年1月5日に日本でレビュー済み

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現在、日本語で読める 最良の多世界理論の本です。

「観測に於いて、観測者と観測対象系とを含む複合系が 量子もつれ状態に時間進化(時間発展)し、その結果、観測者の意識が分裂し、それぞれの観測者の意識に現れる世界がある」ということが分かります。

「多世界理論」は 実在論的な量子論解釈です。波動関数(量子状態)を「実在」と捉えます。それに対し、「コペンハーゲン解釈」は 道具主義的な量子論解釈です。波動関数(量子状態)を 実験結果を予測するための「道具」と捉えます。
多世界理論では、波動関数(量子状態)は 観測者(の意識)にとっての「実在」であり、それが シュレディンガー方程式に従って 時間進化(時間発展)します。
観測過程に於いても、外部観測者(の意識)にとっては、「対象系と観測者とを含む複合系」の波動関数(量子状態)が シュレディンガー方程式に従って時間進化(時間発展)し、量子もつれの波動関数(量子状態)になります。
外部観測者(の意識)にとっての量子もつれの波動関数(量子状態)に於いて、それぞれの観測者(の意識)にとっての「実在(現れている世界)」は、自己の波動関数(量子状態)に相対的な波動関数(量子状態)です。(※エヴェレットは 1957年の論文で その計算方法を示しました。)
観測者(の意識)にとっての「実在(現れている世界)」は、外部観測者(の意識)に現れている「対象系と観測者とを含む複合系」の ある側面に過ぎません。

「ウィグナーの友人」の思考実験では、ウィグナーが外部観測者であり、友人が観測者です。
友人が実験室の中で「シュレディンガーの猫」の実験を行ない 猫の入った箱の蓋を開けて 猫の生死を確認します。ウィグナーは 実験室の外に居ます。

ウィグナー(の意識)にとって、実験室は、量子もつれの波動関数(量子状態)に成ります。そこには、友人の波動関数(量子状態)も猫の波動関数(量子状態)も構成要素として存在しません。つまり、ウィグナー(の意識)にとって、友人も猫も実在しません。
友人(の意識)にとって、自分と、箱の中で生きている猫、または死んでいる猫が実在します。
友人(の意識)にとっての実験室内の「現実(現れている世界)」の波動関数(量子状態)は、ウィグナー(の意識)にとっての実験室の量子もつれの波動関数(量子状態)に於ける、友人(の意識)にとっての自己の波動関数(量子状態)に相対的な波動関数(量子状態)です。

個人的に多世界理論を支持しています。しかし、説明されるべきことは残っていると思います。

観測に於いて、観測者を含むスケールでの量子もつれ状態になり、その波動関数が、デコヒーレンス過程によって、相互干渉しないコンポーネント的状態組の重ね合わせになることは、納得できます。
※ただし、コンポーネント的状態組(基底)の一意性について、より詳細な説明が必要です。この点は、和田純夫『量子力学の解釈問題』(※私のレビューがあります)で 正直に 指摘されています。コンポーネント的状態が実験室全体に拡大するダイナミクスについても論じる必要があります。

「ウィグナーの友人」の思考実験では、実験室が うまく 環境から隔絶されていれば、実験室の波動関数は、観測に於いて、友人を含むスケールでの量子もつれ状態になり、デコヒーレンス過程によって、その波動関数が、相互干渉しないコンポーネント的状態組の重ね合わせになります。
問題は、友人(の意識)が、その中の唯1つのコンポーネント的状態を経験し、その唯1つのコンポーネント的状態の進化(発展)の中で生きることの説明です。
逆に言うと、「何故、友人(の意識)は、コンポーネント的状態組の重ね合わせを経験しないのか?/何故、友人(の意識)は、コンポーネント的状態組の重ね合わせの中で生きないのか?」という疑問に対する説明です。
そこまで来ると、フォンノイマンが気づいたように、意識メカニズムの機能的時間進化(機能的時間発展)を説明に含める必要があると思われます。つまり、"アインセレクション(Einselection)"が起きる仕組みの説明です。
※意識メカニズムの機能的時間進化(機能的時間発展)は、全体系の物理状態の物理的時間進化(シュレディンガ進化/シュレディンガ発展)と一致しません。観測過程では、全体系は、意識メカニズムを巻き込む量子もつれ状態に時間進化(時間発展)します。その量子もつれ状態には、意識メカニズムの量子状態が構成要素として存在しません。つまり、意識メカニズムが存在しません。その結果、意識メカニズムは、意識メカニズムが構成要素として存在する 別の量子状態への跳躍を経験します。その別の量子状態がコンポーネント的状態です。コンポーネント的状態には、意識メカニズムの量子状態が構成要素として存在します。つまり、意識メカニズムが存在します。

「時間の問題」についても面白く読みました。個人的に、宇宙は、調和振動子のように、外部観測者(の意識)にとって定常状態であると思いますが、ショーン・キャロルは そこまで踏み込んで信じては いないようです。ちなみに、ドイッチェは、過去は、他の世界の一種であると述べています。宇宙が定常状態であると考えれば、世界が分裂するタイミングや頻度について悩むことが不要になり、多世界理論を受け入れやすくなります。

※補足:多世界理論の1つの問題は、「"存在する"という概念を相対的でなく使用できるか?」ということです。「ウィグナーの友人」の思考実験では、実験室の中で量子論的測定を行なった友人は、観測対象系と量子もつれ状態に成り、最早、ウィグナー(の意識)にとって存在しません、何故なら、ウィグナー(の意識)にとって、友人の量子状態が存在しない故です。同様に、友人(の意識)にとって、他の世界の自分は存在しません。何故なら、友人(の意識)にとって、他の世界の自分の量子状態は存在しない故です。つまり、「この世界の他にも、別の世界が"存在"し、その世界に 別の自分が"存在"する」という 多世界理論の「言い方」は 適切なのか? という問題があります。
我々(の意識)にとって、時空を含む この現実世界が"存在"します。我々(の意識)にとって、時空を含む この現実世界の量子状態が"存在"します。しかし、宇宙の外部観測者(の意識)にとって、宇宙の定常的量子もつれ状態が"存在"するのみであり、我々も地球も太陽系も銀河系も それらを含む 時空を含む この現実世界の量子状態は"存在"しません。

[重要な補足]

"多世界理論(/多世界解釈)"に"デコヒーレンス"は不要です。実際に"分裂"するのは「メカニズム」です。

「メカニズム」を含む"複合系"の"物理状態(量子状態)"は"シュレディンガー進化(/時間進化/時間発展)"します。
一方、「メカニズム」は、オートマトンとして"機能進化(/機能発展)"します。
"複合系"の"物理状態(量子状態)"が"量子もつれ状態(/多世界状態)"に"シュレディンガー進化(/時間進化/時間発展)"するとき、"複合系"の"物理状態(量子状態)"の"シュレディンガー進化(/時間進化/時間発展)"と 「メカニズム」の"機能進化(/機能発展)"とは、一致せず、「メカニズム」は、"分裂"します。

※「観測者」は「意識メカニズム」です。「意識を持つロボット」でも構いません。
※「意識を持つロボット」の実現方法はマイケル・グラツィアーノ (著)『意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで』を参照してください。私のレビューが あります。

[蛇足1] 本書で紹介しているiphoneの『ユニバース・スプリッタ』の 1つの面白い使用法を紹介します。
"ロトくじ"の番号を『ユニバース・スプリッタ』で決めます。『ユニバース・スプリッタ』で"2進数(/2進列)”を得て"10進数(/10進列)”へ変換します。楽な方法は、"4桁(/16進数)"づつを 0~9 に変換し、A~F ならば捨てます。
この"10進数(/10進列)”をあらかじめ用意して"ロトくじ"を塗りつぶします。
同じ"10進数(/10進列)”を毎回利用して構いません。
どこかの"世界"に当選する"あなた"がいます。

[蛇足2] 本書で紹介しているiphoneの『ユニバース・スプリッタ』の 1つの面白い使用法を紹介します。
"自殺"を思い立ったら、『ユニバース・スプリッタ』で"する/しない"を決めます。
どこかの"世界"に生きている"あなた"がいます。これは何度でも使えます。

[蛇足3] 本書で紹介しているiphoneの『ユニバース・スプリッタ』の 1つの面白い使用法を紹介します。
ただし、数十年(30年)の「人工冬眠」が一般に可能になった世界を前提にします。

『ユニバース・スプリッタ』で"A:30年冬眠する/B:しない"を決めます。

「30年後の"世界"」に生きている"あなた"がいます。これは何度でも使えます。つまり、「遥か未来の"世界"」に生きている"あなた"がいます。

[蛇足4] "多世界理論"は、どのような"地位"を持つのか?
"多世界理論"の現在の"地位"は"宗教"に近い。"多世界理論"を信じる"物理学者"も居るが、"多世界理論"を信じない"物理学者"も居る。
"多世界理論"を信じる"物理学者"は幸いである。彼らは、人生に虚しさを感じることはない。"宇宙"は、「客観的に定常状態」であり、"客観的時間"は存在しないのだから...
我々は主観的に"不死"である、「メカニズム」は、オートマトンとして"機能進化(/機能発展)"するのみだから...
※ただし、"哲学者デイヴィド・ルイス"が心配したように死にかかって生き続ける可能性がある。
※"ヒュー・エヴェレット3世"は、"多世界理論"の信者として、"量子不死"を信じていた。

[蛇足5] 現在、「"多世界理論"を、直接、証明する"証拠"」は見つかっていない。しかし、「"多世界理論"を間接的に証明する"証拠"」はある。
それは、"人類"が存在していることである。"ビッグバン"から 僅か"138億年"しか経過していない。"138億年"という数値は、世界の総人口と比較してみると分かるように、極めて小さい数値である。その短い期間に"人類"のような 現代物理学を持つような高度な"知性"が生まれる"確率"は極めて小さい。宇宙の広さを考慮しても、なお、極めて小さい。それでも現に"人類"が存在するのは、爆発的に増えた世界集団が存在する故である。
※おそらく、「この世界」で 現代物理学を持つような高度な"知性"は、"人類"のみである。故に、我々が 高度な"知性"を持つ"エイリアン"に遭遇することはないし、通信を受け取ることもない。
※これは『フェルミのパラドックス』に対する私の答えである。

[蛇足6] 『シュレディンガーの猫』について考察する。まず、「完全な実験装置例」を考える。

装置は"タイマー"によって起動する。規定時刻に成ると、1個の光子が"ビーム・スプリッタ(/ハーフ・ミラー)"に向けて発射される。透過側に検出装置があり、光子を検出すると、強いレーザ光を猫の脳に向けて照射し、瞬時に猫を殺す。実験装置全体は、箱の中に収められている。

"実験者(/観測者)"が、タイマーを"30分後"に光子を発射するようにセットして蓋を閉めると、箱は外界から完全に"シールド(/遮蔽)"される。箱の外にいる"実験者(/観測者)"は、蓋を締めてから、"1時間"待つ。
"1時間"経過後、"実験者(/観測者)"にとって、箱の中は"量子もつれ状態"であり、猫は存在しない。箱の中の"量子もつれ状態"は、2つの「小世界」の"量子重ね合わせ状態"である。

※上記の実験で、猫の代わりに「"実験者(/観測者)"の友人」が箱に入ると、面白いことが起きる。
"1時間"経過後、"実験者(/観測者)"にとって、箱の中は"量子もつれ状態"であり、「"実験者(/観測者)"の友人」は存在しない。箱の中の"量子もつれ状態"は、2つの「小世界」の"量子重ね合わせ状態"である。
「"実験者(/観測者)"の友人」は、"1時間"経過後、何ともないという経験をする。
一方の「小世界」では、「"実験者(/観測者)"の友人」がレーザ光で即死し、他方の「小世界」では、「"実験者(/観測者)"の友人」が何ともない。「"実験者(/観測者)"の友人」の「意識メカニズム」は、何ともない「小世界」のみに 「確率100%」で "機能進化(/機能発展)"する。

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