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おんがくをかくかくをかく壱拾四~見えるやつ

想像力には人それぞれ 強いも弱いもあろうが、
 生きてきたあれこれに関わる頭のなかの風景にも依るかと思う

うたを聴いて
どうしようもなく見えてくる風景がたまにある

逆を言えば、風景が見えるうたがある

楽曲も歌い手の表現力も相まって
鮮明にショートムービーかのように見えるうたが

個人的な体験はもちろん重なるけれど、それだけにとどまらないことが誰にもあるんじゃなかろうか


私は感じている

例えば

一 中島みゆき氏『ふらふら』

酔っぱらい女のめんどくさい絡みっぷりを、
これほどまでに描いたうたが他にあるなら知りたい
無茶振りの連打、壁掛け時計にまで絡み、無関係な他者を疑い煽り、淋しさからそれを払拭しようと見ていられないほど明るく振る舞ってかえって毒だ
間奏のピアノは
グラスをもったまま危なっかしい足取りが目前に映る、まさに  ふらふら の表現である

すべてが 酔っぱらいの完璧な表現だと私は思っている
良く歌ううたのひとつだが、人前で歌うと
『え、これオレのこと?』『アタシの話?』と
言う人が必ず一人はいらっしゃる
みんな身に覚えがありすぎんのか

二 SION 『二月と言うだけの夜』

一年でおそらく一番冷え込む二月 
しずかに夜が続く たぶん都内の小さなアパートで
金もなきゃ予定もない  冷たい身体を温めうるはずの暖房も、ただ『ひぃひぃ』言うだけ
近くを通る車は『ひゅーひゅー』行く
この ひぃひぃ とひゅーひゅーだけで
男は諦めて冷えを纏うしかないのが見える
身体だけの話ではなく、生きることが、だ

次いで幼少期の記憶に移る
田舎町で育った主人公の少年は、
無垢で無鉄砲に川で遊ぶが、夢中になるうちに日が暮れかけて
突然恐怖に苛まれ、履いていたサンダルを手に持って走る

 得体のしれない不安と恐怖が少年を走らせ
帰宅したときにやっと安堵する

それが、おそらく今の男には、無い
安堵は無い
男にとっては重たい生活だけど、よのなかには
それも無関係で だから 『二月と言うだけの夜』なのだ
SIONの『12月』のあとに
これを続けて聴く冬の痛みが私はやめられない

三 やはりSION 『12号室』
    
彼のファンにとってはおそらく一、二を争う名曲であろうと思う

SIONの実体験と言われるうた
病院での描写だ
冷たいピアノの旋律から始まり
『彼女は美しかった』と歌い出す
大人たちから 人とは違う自分 を刷り込まれ、
諦め冷めて拒絶していた少年が
はじめて人に やさしさ のようなものを渡される
五体満足ということばの良し悪しを、結局底から一度ひっくり返し、一から考えなきゃいけなくなるうただ
少年は痛みを伴って少年なりに生きていたが
やさしさを渡してくれた美しい彼女 は
走る為の身体 もままならなかったことに気づく

足りないものは なにか
足りてない、と嘆く私たちはなにか
ほんとうに足りてない のか
ほんとうに?


ツルツルした病院の廊下を、
己の未熟さに耐え切れず恥ずかしさで走る少年と
白い部屋のベッドから上半身だけを出して
微笑む 美しい彼女 のさらに白い微笑みが

見えてしまって 

はじめて聴いたときから
ずっとずっと  足りてないもの を考えている
考えているのに
よく忘れる

あかんね自分









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