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哀しみを紡ぐ叙情

教授が亡くなってから初七日が経つ
あの日から頭の中で途切れる事無く
鳴り響く曲がある。

bring them home
アルバム「smoochy」「1996」収録
教授の作品で唯一、鎮魂の為の曲と
初めて聴いた時、感じたままに
亡くなった報道が流れた日から
その哀しみのメロディが
ずっと頭の中から離れない。

初期の前衛的な尖った音、
中期の有機的民族的な音
ラディカルでPOPな音
アルバムを出す度に変化していく
教授の多種多様な音楽性の中で感じる
根底にあるヨーロッパ的な乾いた叙情。

音楽図鑑以降のアルバムを追う毎に
その乾いた叙情性を見出せる曲が
増えていくのを感じていた。

アルバム毎に羅列していくと

A TRBUTE TO N.J.P  (音楽図鑑)
PAROLIBRE            (未来派野郎)
BEFORE  LONG        (neo geo)
ROSE                   (BEAUTY)
Anna              (sweet revenge)
青猫のトルソ   (Smoochy)
intermezzo            (BTTB)
yamazaki2002       (/04)
hwit                (out of noise)

教授しか出せない音
曲の構造や技術面もそうだが一番
感じるのは響かせる音の空気感や
余韻の残し方が唯一無二な事
簡単に言ってしまえば一音一音の
間の取り方が誰にも再現出来ない
叙情性を生み出していく

その叙情性にも増して下記の
作品の中には哀しみを帯びていて
聴く内に言いようの無い情動を
呼び覚まされる。
鳴り響く旋律が頭では無く
無意識に心の中にある琴線を
揺さぶられて涙を流してしまう
力を持った曲が多い。

これも羅列していくと

AFTER  ALL           (Neo Geo)
(playing the orchestra2013)収録
ヨーロッパ的叙情の最たる曲で
気怠いピアノのフレーズの響きと
中間部に絡み始めるストリングスの
音色が最高潮に達する終わり近くに
奏でられる哀しみの旋律が秀逸。
Neo Geo版から26年を経て初めて
ライブ版として発表された2013版
のアレンジもまた素晴らしい。

The Sheltering Sky
(the sheltering sky サウンドトラック)
(sweet revenge tour1994)
(1996) (/05)
(playing the piano 2009 2010)
(playing the Orchestra2013 2014)
(playing the piano 12122020)
ベルトリッチ監督作品
オリエンタル三部作の第二作目の
メインテーマとして発表。
映画自体も救いの無い虚無感に
捉われる内容だったが更にこの曲は
輪をかけて哀しい旋律が際立つ。
出だしの旋律を繰り返し繰り返し
張り詰める要素を積み上げて
ここぞとばかりに泣かすメロディに
心奪われる名曲。
教授本人も鉄板のようにライブの
セットリストに必ず入れていて
演奏回数は作品中最多だと思われる。
再演の度に解釈が変わり響き具合が
飽きる事無く哀しみに浸たれる。

sweet revenge  
(sweet revenge)  (08/21/1996)
(playing the piano 2009) 収録
映画リトルブッタのメインテーマ用に
書かれたが悲しすぎてボツになった曲
喪失感に近い情動を呼び起こされて
初めて聴いた時は涙が止まらずに
立ち直る迄かなりの時間を要した。
09年12年のtrio toursでの再演が
余りに良すぎて込み上げる寂寥感に
浸り込んで感覚を元に戻すのが
大変だった記憶がある。

A Flower is not Flower
(the very best gut year 1994-1997)
(/05) (UTAU) (THREE)
(playing the piano 2009 2010 )
提供曲だったが余りのメロディの
美しさにセルフカバーに至った曲
上記のアルバム以外でもライブで
演奏される事が多く特にトリオ編成
で再演された1997.2007.2012の
テイクは素晴らしく哀しみの中に
垣間見える救いで心揺さぶられる。
UTAUでのテイクはキーを下げた
事により別物のように哀しみが
増す事でメロディが際立ってより
寂寥感を味わえる旋律になった。

Solitude  
(トニー滝谷 サウンドトラック)
(playing the piano2009Yokohama)
(the best of THREE live in Japan)
村上春樹原作の映画のメインテーマ
タイトル通り孤独感ばかり際立つ
哀しみの権化のような曲。
シンプルなメロディなのに
音数もめちゃくちゃ少なく
悲しすぎて救いも無く淡々と
旋律が繰り返されていく。
教授の作品史上最高に
ここまで哀しいと美しい。
本当に果てまで落ちたい時に
ずっとリピート出来る佳曲

andata
(async)
(playing the piano 12122020)
教授本人が言うように紛れもなく
コラール前奏曲である。
async版は乾いた叙情性の極み
その中にも本当の意味での哀しみと
それを打ち消す救いが垣間見える。
夜更けの真っ暗な部屋の無音の中に
この曲が鳴り響くと無になっていく
12122020版はしっとりとした
情感に載せた教授のやり切れなさ
が沁々と伝わってきて私小説の
ような感情の動きが伝わってくる
教授が本当に伝えたい叙情なんだ
と感じる事が出来る。
個人的にはこの情感が一番馴染む。

気付けば小学4年生から40年以上
教授の作品に触れ続ける事が
出来て幸せだと思う。 

各時代毎の変遷の中で多種多様な
音楽性を生み出していく中
BTTBから少しずつ教授が
本当にやりたい音を出せて
「async」や「12」に至れた事

それを聴かせて貰え続ける事は
本当に嬉しく感じる。
教授本人的にはまだまだ
やりたい事があっただろうと
思うけどそれが悔いで無ければ
良いなと思う。

ファンとしては新旧含めて
発表 未発表の中に
まだまだ知らない作品が
あるのでそれを残りの糧として
聴いていける楽しみを持ちつつ
手向けになればと思いながら
拙い想いを綴った次第。














#坂本龍一

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