脳が作る現実世界のシミュレーションとしての仮想環境

今まで、以下のような投稿で仮想環境でロボットを学習させる技術について述べてきました。それはわたしがこの技術が今後、非常に重要な技術になるのではないかと考えているからです。この投稿ではなぜ、仮想環境でロボットを学習させる技術が人工知能の世界で非常に重要な技術になり得るのか述べたいと思います。

その原因を端的に表すならば、生物の脳の中で仮想環境が駆動しており、そして、それが運動の実行において重要な役割を果たしているからです。

まずは生物の脳の中で仮想環境の話からはじめましょう。脳の中の仮想環境として、映画Matrixの例がよく提示されます。Matrixでは主人公が生きている世界が実は仮想世界だったことに気付くのですが、皆さんは今自分が生きている世界が現実世界でなく、仮想世界だといったらどう思うでしょうか。実はわたしたちが生きているこの世界はわたしたちの脳が作り出した仮想世界なのです。この世界は現実世界と見分けがつかないくらい精巧に作られていますが、所々にわたしたちの脳のボロがでています。

その最もわかりやすいボロは目の錯覚です。錯視の作品をみると、現実とは異なるように作品が見えてしまいます。これはこの世界が現実世界でなく、わたしたち自身が作り出した仮想世界だからこそ起こりうる現象です。

別の証拠としては視覚世界に音があるように感じることです。本来、目と耳は別々の器官であり別々に脳に信号を送っています。視覚世界に音があるように感じるのはこれらの信号が脳内で統合されて、一つの世界になっているため、視覚の世界に音が乗っているように感じられるのでしょう。

盲点を自身で感じられないこと、視覚の世界では自分にとって詳しいものや興味があるものがより精巧に作られている等、これらの証拠の枚挙には暇がありません。

この仮想世界はわたしたちが目を覚ましたときに現実世界からの信号を元に起動されて、現実世界との誤差を逐次修正しながら、夜寝るまで稼働し続けます。

そして、わたしたちはこの仮想世界を最大限利用することで複雑な運動を可能にしています。例としてボールを投げて遠くの的に当てようとするときのことを考えてみましょう。このようなとき、あなたは的に意識を集中させてボールを投げるのではないでしょうか。ボールを投げることにある程度慣れてさせいれば、腕の関節一つ一つを意識して動かすようなことはしないハズです。そして、ボールが右に外れたとしましょう。すると、次はもうちょっと左側に投げようかなと調整ができるでしょう。意識を集中させるだけで、このような芸当ができるのはこの世界がわたしたちが作り出した仮想環境だからなのです。自分で作り出したものであるからこそ、自分の体の外にある的という物体に意識を集中させることができるのです。この仮想環境では、知覚した世界の見た目を精巧に再現するだけでなく、物理エンジンまで内装されており、複雑な運動をシミュレートします。このシミュレートの精度自体は個々人の技能次第でピンキリですが、現実世界との誤差が逐次修正されながら稼働されるので、大きな誤差はあらわれません。そして、この仮想環境で作られた運動信号を使い、現実世界で筋肉を動かし、実際に的にボールを当てることができるのです。

おそらく、人間は赤ん坊や幼児期の間に、この仮想環境の構築を行っていると思われます。赤ちゃんはほとんど目が見えないと言われますが、実際に視力が足りないというよりも視覚から入ってきた情報をうまく統合して仮想環境を作り出すことができないのでしょう。子どもたちは運動したり、自然に触れたりすることで自身の仮想環境をより精度高くカスタマイズしていきます。文字を覚え、読み書きを繰り返すことで仮想環境内に高度な情報を乗せることさえもできるようになってきます。

因みに、わたしの勝手な妄想なのですが、意識というものもこの仮想環境をもとに作っているのではないかという仮説が持っています。外部環境から仮想世界を作る上で自分自身も意志をもった存在としてシミュレートする必要が出てきて、そのシミュレートされて作られたのが意識なのではないかという妄想です。意識というものは睡眠と密接に関わっているので案外的を得ている仮説なんじゃないかと妄想してます。

このような現実世界の仮想環境へのシミュレーションが人工知能の世界で実現できたら、ロボティクスの分野でのエポックメイキングな発展になるでしょう。細かい作業を詳細な調整なしに実行できたり、様々な環境においても柔軟に作業を実行できたりできるようになるでしょう。わたしはそのための基礎技術が仮想環境でロボットを学習させる技術なのではないかと信じております。

この分野に自分の時間を投資したいなあ。具体的にどうすればいいか、いい案は思いつかないのですが、、、

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