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【ショートショート】あねくどとす集 恋の諸風景

■前書き

【あねくどとす】
 ここでは冗談の小話ぐらいの意味でお考えください。
 ショートショートにするには分量的にどうかな、というお話を"恋"をテーマに三本まとめ、微妙な繋がりも持たせてみました。
 色々と危うい内容も記されているでしょうが、あくまでも冗談です😅
 書いている当人はミステリー小説は読みますし、ハードロックにも大きな抵抗はありません、イルミネーションもそこそこ好きな感じです。

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1.ミスリード

 町の各所で、ゾンビのような怪人の目撃例が相次いでいるらしい。
「それはひょっとしたら、私のことかもしれません」
 私は彷徨い込んだパブのカウンター席でそう言った。
「何せ今日もくたばりかけているものですからね」
 仕事がそれ程までに忙しいのか。
 いずれ秋はなくなる、朝の目覚めも夜の眠りもなくなるだろうな。
 これは私の確信だがね。
 フライパン上で延々色濃さを増していく、粗悪な肉片の企業こそが、駆逐されてしかるべき敵。
 大変なのは我々も一緒だ。
 共にクラリネットを吹き鳴らそうではないか。
 パブに集った面々は概ね私に同情してくれた。
 終いにはカウンター奥の紳士風な店主も口を開いた。
「しかし貴方はそうやってカウンター席に着き、1パイントのビールを飲んでおられる。そのことは如何程か幸せなことですぞ」
 すると私はこう応えた。
「ええ。何かと面倒な私の恋人ですが、ミステリー小説が大の苦手でして。そのためにこうして生き延びている訳ですよ」
 

2.方向性

 先日バイクに跨り、恋人とキスを交わした。
 一緒に都内の街中へ繰り出すと、何時の間にやら辺鄙な山奥の集落へ。
 役場や子供サイズの郵便ポストは存在していた。
 その集落は無事に機能しているみたいだった。
 おまけに周囲の紅葉は色鮮やか。
 空で輝き始めた星は綺麗。
 本当の優しさに触れるためには……何だろう。
 実際に誰かと触れ合う必要はないのかもしれない。
 僕は精神的な豊かさを巡る会話を恋人と交わし、未舗装の道を尚も進んだ。

 やがて怖すぎるハードロッカーに出会った。
 音楽好きな僕だが、メタルやハードロックの世界では音痴も良いとこ。
 でも異なる価値観にも寛容でありたい。
 その手の洋楽のカバー曲を思いつく限り挙げ、彼との間の音楽的な接点を見出しにかかった。
 すると相手は涙の消し方を教えてくれた。
 僕はついでにもう少し問いかけてみた。
 音楽の都はどこにある?
 一体どこにあるんだ?
(そして全くここは何時の時代の都内なんだよ)

 こうして僕は僕なりの音楽の道をひた走り、山奥の集落で恋人とはぐれた。


 3.帰り道

 ある日の帰り道のこと。
 豪華なイルミネーションが僕の家路の周囲を彩っていた。
 煌びやかなその電飾の道は長くは続かない。
 悲しいことだが、多分自宅までの延長を望むのは傲慢というもの。

 別の日、若干肌寒い夜。
 仕事を終えた僕は映画館で邦画作品を鑑賞していた。
 映画は内容が悲劇的なものであれ、余韻は暗い夜道の家までの間、時にはそれ以上に長い間と僕の心につき添う。
 まるで温かいガールフレンド。
 二本鑑賞した場合はどうなるのだろう。
 僕はその夜もあれこれ考えながら家路を辿った。

 さてリアルな恋人との家路では、時々喧嘩も起きる。
 これはある意味では明るくて楽しい。
 だが更に時々は破滅も待ち構えている。
 おまけに最近の二人の関係は深刻。
 最早倦怠期を超えた末期状態。
 宇宙がひりついたみたいな会話が盛んに繰り広げられる。
 加えて家路の危機であるだけに、途中で帰る道も上手く見当たらない。
 それがどうにも怖いところだが、今夜も早速付近の街灯が怪しげに点滅。
 僕は自宅までの道を彼女と歩み始め、傍らではバイクに跨るカップルがキスを交わした。