ランダム単語ショート#2「カーチェイス シミュレーション 最先端」

 妖しく光るネオンライトと立ち並ぶ巨大なビル群に囲まれながら、私は車を走らせている。いや、走らされていると言った方が正しいだろう。現在私は複数のパトカーから追跡されているのだ。
 理由はわからない、ある時突然一台のパトカーから追いかけられ、逃げるうちに段々とその数が増えていった。逃げずに止まり警官達に事情を聞こうとも思ったが、彼らの鬼気迫る表情に得体の知れない恐怖と不気味さを感じ止まるのが怖くなってしまった。
 したがって現在私は車を走らされているわけだ。もうすでにかなりのスピードが出ているが、パトカーのサイレンは相変わらず、大きな音で後ろから鳴り響いている。ここらで一気に撒いてしまおうと、私は急カーブで大通りから細い路地へ突っ込んだ。
 がりがりと車体が削れる音がしたが、速度を落とさず進み続けた。そして大通りを出る瞬間、左から飛び出してきた自転車を跳ね飛ばしてしまった。
 なんということだ、ついに私は追われるに値することをしてしまった。犯行を目撃したパトカー達は、ますますもって狂気的に私を捕まえようと追いかけてくる。
 思えばなぜ彼らは私を追っているのだろう。恐怖と罪悪感でくしゃくしゃの頭で必死に考える、そうしないとおかしくなりそうだった。そして気づいたことがある。私はなぜ車に乗っていたのか、そしてここがどこなのかを全く理解せずにただ車を走らせていたのだ。そこからさらに考えを巡らせ、私はようやく思い出した。
 これは最先端のシミュレーションゲームなのだと。私は友人とVR体験イベントに参加し、そこでのカーチェイスゲームに夢中になりすぎていたのだ。そうだ、そうだった、そうに違いない。そうと分かれば友人よりも良い得点を出してあっと言わせなくてはならないな。私はさらに深くアクセルを踏み込んだ。

 響き渡るサイレンにものともせず、奴は車を走らせている。もうすでに5台以上のパトカーを出動させているが、死を全く恐れない奴の運転に中々追いつくことができない。無線から奴の素性が流れてきた。
 「犯人は偏執病の患者で隔離病棟へ移送中に脱走、そのまま車を盗み現在も逃走中。繰り返すがすでに3度のひき逃げを起こしている、大至急身柄を拘束せよ。」
 私は一刻も早く逮捕せねばと、深くアクセルを踏み込んだ。

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