ショートショート Herohero

もうどうしようもなくて
暗い未来しか見えないけれど、
どうしたって無理だって思って
死にたいとしか思えないけれど、
ざわざわとよく分からない焦燥感にかられて
何もかもぐしゃぐしゃだけれど、
俺はとりあえず一旦、粘土で遊ぶ。

粘土でキリンさんを作る。
しかも二頭、
俺はキリンさんの親子を作る。
この手で、
この指先で、
この指の腹で、
この手のひらで、
俺は作る。
もし、ノッてきたらゾウさんも作る。
ただし、ゾウさんは親子にはしない。
どんだけノッてもゾウさんは一頭。
これは俺のアーティスティックな部分、
センスがキラリ光る部分、
深いこだわりが見える部分、
これらの部分を分かってくれたら幸いであり、
ありがたい。

そして俺は、
粘土遊びと平行して詰将棋もする。
俺は詰将棋をする時、
何かと平行していなければ調子が出ない。
今回は粘土遊びだが、
前回は貝殻集めと平行して詰将棋をした。
その結果は、
やっぱり平行したから
調子良く詰将棋ができた。
貝殻集めの方も、
美しく綺麗な貝殻や、
おじいちゃんの手
みたいな貝殻を発見することができて
大満足の結果だった。

中でも、
美しく綺麗な、
まるであの娘の手のような
貝殻を見つけられたのは
テンションが上がった。
見つけた時、思わず、
「ひょー!」
って叫んじゃったよ。
そこから、
「ひょー! ひょひょひょー!」
って続けて、
「ひょー! ひょーひょひょひょー!」
って具合にしばらく叫びまくった。
最終的には、
「ひよこ食べたーい!」
って叫んでたね。

それが一段落したら、
あの娘の手のような貝殻を手に取って
優しく柔らかく愛でたよ。
気付いたらその貝殻に、
「結婚してください」
って告白までしてたね。
まぁでも、
その貝殻は最終的に道路上へと捨てた。
捨てて数秒で車に轢かれて粉々になってた。
切ない最期だったよ。
切ない粉砕音だった。
切ない刹那だった。
これは完全に気のせいだけど、
あの娘の、
「痛い!」
って声が聞こえた気がした。

なんでそんなことをしたのか、
自分でもよく分からない急な心の変化だけど、
捨てたことに後悔はしていない。
直前のあの、
「結婚してください」
は何だったのかって話だけど、
俺を突き動かす「衝動」が、
それをなかったことにしちゃったって話だ。
俺は「衝動」を大事にしている。
「衝動」に突き動かされる人生だ。
これは結局、
俺のアーティスティックな部分、
インパクトを与える部分、
迷いを感じさせない部分、
ってところだろうね。
これらの部分が俺を光らせる。

ある時期、
俺は自分のことを、
「輝く星」
と言っていた。
あの時期、
俺は自分のことを、
「輝かしい人」
とも言っていた。
今思えば、
「輝きの人」
と名乗ってもよかったか。
って、
そんな過去を思い出している内に、
キリンさんの親の方が出来た。
出来た、ほら出来た。
出来たと言う他ない。
それ以外、出る言葉がない。
出来た、出来たよ。

よし、次は子の方を作り上げていこう。
子の方は
尻尾をめちゃくちゃ長くしてやろうかな。
尻尾を五、六本にするとかでもいいな。
尻尾をピンッとするでもいい。
いや、尻尾から離れて、
ハットを被らすとかどうだろう?
オシャレキリンになるぞ。
うーん……悩みどころだ。

平行していた詰将棋の方はと言うと、
悩むどころかノッてきている。
楽しい。
もうここまでで五回詰ませた。
完全にノッている。
で、尻尾は結局どうしよう?
うーん……まぁあれだな、
最初に考えた通り、
尻尾をめちゃくちゃ長くするでいいか。
いいよな、それでいい。
俺のアーティスティックな部分、
人とは違う部分、
センスが詰まった部分、
が「それでいい」と言っている。
だから、それでいい、いい!


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