或る同級生の話

私が義務教育の頃に、森田さん(仮)という同級生がいた。私は森田さんと、小中ともクラスメイトになったことはない。あくまで「同級生」である。
その方は、女性の名前を持っていた。短髪がよく似合い、さばさばした印象で、「かっこいい!」と声がかかる度「ありがとう!」と答えていて、「小学校の頃は」、マンモス校においても知らない人はいないんじゃないかという存在であった。クラスの違う私からしても、「かっこいい姉御」という印象であった。

が。

セーラー服が制服だった中学校で、森田さんは、一気に存在感をなくした。
かなり傍目から見ていても、どこか居心地が悪そうにしていた。合唱コンクールではアルトのパートすら高くて歌えず、テノールパートを歌ったと風の噂で聞いた。
そんな森田さんが、輝いていた瞬間があった。
運動会の応援団として、学ランを着た時である。ちなみに、学ランはクラスメイトから借りたらしい。
その時の森田さんは、傍目から見てもいきいきしていた。「小学生の時の森田さん」に、あの時だけは戻っていた。
そこからの森田さんのことは全くわからない。高校は別になったし、クラスメイトでなかったのでどの高校に行ったかも不明である。
もう20年は昔の話で、あくまで仮定でしかないが、「彼女」の気持ちは「彼」だったのかもしれない。そう思う。小学校時代、森田さんがスカートをはいてるところを見たことはない。もし中学の制服がセーラーと学ランで選べたなら、森田さんは学ランを選んでいる気がする。

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