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午後のロードショー「ワールド・オブ・ライズ」


公開 2008年
監督 リドリー・スコット
公開当時 レオナルド・ディカプリオ(34歳) ラッセル・クロウ(44歳)

CIA対イスラム過激派テロリストの映画は数多く制作されていますが、本作は単純な善悪の構造ではなく互いの文化と思想の違いから起こる悲劇を重厚かつ繊細な人間ドラマで描いています。

全編に渡って流れるアラブ系の不穏な音楽と、砂ぼこりで霞んだ陽光を思わせるライティングが、中東という全くの異文化の中で手探りでテロ防止活動を強いられるフェリスの焦燥感と苦悩を表しているように思います。

CIAが最新衛星機器を駆使し諜報活動を行うのに対し、テロリストらは携帯も持たず人から人へ情報を伝えるアナログ戦術を使う。
そのためフェリスのテロ防止活動は困難を極め、わずかでもテロ組織の情報を得るため、現地で命がけの諜報活動を繰り広げていた。

身柄の保護と引き換えにCIAに情報を教えるという男が現れる。
「僕は博士号を持ってる。5か国語を話せるのになぜ殉教しなきゃならない…」
組織から殉教を迫られ怯える男。
フェリスは男の保護をCIAに要求するもボスであるホフマンに却下され、男は殺害される。

序盤だけで現地での諜報活動の厳しさを肌で感じる事ができます。

現地で危険な任務に身を削るフェリスに対し、CIA幹部ホフマンはアメリカの本部や自宅など安全な場所から指示を出すだけ。

国際的テロ祖組織のリーダー、アル・サリームを確保するため、フェリスらCIAは現地ヨルダン情報局長ハニと協力するも、ホフマンはハニを軽視し情報を共有しようとしない。
フェリスはハニと信頼関係を築こうと努力するが、現地の気長な情報戦略に業を煮やしたホフマンらCIAは功を急ぐあまり身勝手な介入をし、ハニの信頼を失ってしまう。
ハニ率いるヨルダン情報局とホフマンらCIAの歯車が嚙み合わず、あと一歩のところでアル・サリームを逃してしまう。

アル・サリーム確保に躍起になるフェリスは、偽のテロリストをでっち上げサリームをおびき寄せる作戦に出る。

過酷な任務に心身ともに疲れ切切っていたフェリスは、看護師アイシャと出会い思いを寄せるようになっていく。
ところがアイシャはアル・サリームと思われる人物に誘拐される。
フェリスはすぐさま敵のアジトに助けに向かうも、彼の位置を常に特定できる衛星監視システムは砂嵐に阻まれ機能しなくなってしまう。

「フェリス、許してくれ…」

CIAに見放されたフェリスは、アル・サリームらに指を切断される拷問を受ける。
絶体絶命のフェリスを救ったのは、ハニ率いるヨルダン情報局だった。

情報戦で勝利したのはハニ率いる現地の情報局。
CIAの最新の衛星監視システムも、ネットワークも、役に立ちはしなかった。

ホフマンと再会したフェリスは、自分を見捨てたCIAに見切りをつけ、アメリカを離れ中東で生きる決意を語る。
「中東が好きだと言ったら?」
「ふざけるな、こんな所クソだ!」
フェリスはホフマンに背を向け、アイシャの元へ向かう。


ラッセル・クロウ演じるホフマンは「大国のおごり」を体現したような人物として描かれています。
決して自ら手を汚すことは無く、上目遣いの役人然とした態度でフェリスに安全圏から指示を出し、「ガキどもをライオンキングに連れて行かなきゃならん…」と現地職員とは別次元で、任務の過酷さゆえか離婚協議中のフェリスに対し「この仕事に、離婚はつきものだ」と事も無げなのです。
ラッセル・クロウはリドリー・スコット作品と相性が良い印象があります。

レオナルド・ディカプリオはかつてのハリウッドのアイドル的な立ち位置から完全に脱却し本作では見事に「戦う男の背中」を見せています。
情報原に命がけで喰らいついていく様が工作員の性のようで切なくもあります。
劇中の恋愛要素も取って付けたようなものでは無く、アイシャが誘拐された時一瞬の迷いもなく「人質を交換してくれ」とわが身を差し出すのもフェリスの人間性が語られ人間ドラマをより際立たせています。

意外にもレオナルド・ディカプリオ主演の作品の中で本作はさほど評価が高く無いようです。

CIA対テロリスト作品は数多く制作されていますがアメリカ礼賛要素が濃く、ストーリーも複雑で感情移入しにくいものが多い印象ですが、本作は人間ドラマが繊細に描かれフェリスの苦悩と葛藤を共感する事ができます。
見た後に余韻と切なさが残り、リドリー・スコットの手腕が光る名作です。

今日も無事に家に帰って午後ローを見れていることに感謝😌です。

総合評価☆☆☆☆☆
ストーリー★★★★★
流し見許容度★
午後ロー親和性★★


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