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2.事務所所属を目指すなら吉本?他事務所?フリー?



プロとアマの違いとは?


2006年キーストンプロに所属が決まってなぜそんなに浮かれたのか?

それには理由があった。2年近く僕らは事務所が決まらずフリーで活動をしていた。フリーというのは心細かった。勝手に芸人と名乗っているだけという感覚が消えなかった。


芸人にとってプロとアマチュアの境界線はどこなんだろう?

当時僕らは事務所に所属しているかしていないかをプロアマの違いと認識していた。だから、所属が決まらないことに焦っていた。今でこそフリーで活躍してる芸人さんもいるが、当時はフリーは受け皿の無い人というイメージが強かった。

そんな訳で僕らは事務所が決まらないことに焦っていたし、キーストンプロに決まったことに安堵していた。

今となっては割りとどうでもいいことで一喜一憂していたなと思う。

吉本?他事務所?

事務所を決めるにしてもどんな事務所があって、どこに入ればいいのか。あるいはどこに入れるのかというのもある。

お笑いの事務所と言えばやはり最初に思い付くのがやはり吉本である。そして、人力、ワタナベ、ホリプロなど。

僕らはキーストンプロに入る前は2年近くトゥインクルコーポレーションという事務所の所属を目指してネタ見せをずっと受けていた。後に吉本に所属するのだがこの当時はバリバリのアンチ吉本で「死んでも吉本には入るか」くらいのつもりでいた。

ちなみにトゥインクルコーポレーションとはラーメンズさんのいる事務所である。

しかし僕らはトゥインクルコーポレーションに入りたくてずっと受けていた訳ではない。当時はスマホもない時代で何でも簡単に調べられるわけではなくオーディションの情報はデ·ビューという雑誌がメインの情報源だった。


吉本や人力舎は養成所に入らなければならなくアンチ吉本の僕らはオーディションを開催している事務所を探してトゥインクルにたどり着いたというわけだ。しかし吉本は社内競争が激しすぎるから他事務所にしようというのが本音だったかもしれない。

 トゥインクルネタ見せ

チャンスはすぐにきた。

それはトゥインクルのネタ見せに初めて参加した時だった。ネタ見せ合格者はトゥインクルコーポレーションの事務所ライブの昼間の公演に出て、上位の人が夜の公演の下位の人と入れ替えになり、3ヶ月(2ヶ月かな)連続落ちなければ晴れて事務所所属となる仕組みだった。

所属組も降格しないよう必死だったから、熾烈な争いだった。なにせ降格して舞台袖で涙を流す所属芸人もいたくらいだった。Jリーグの昇格降格をイメージしてもらうと分かりやすいが、みんな死に物狂いだった。どの芸人も目がバキバキだった。

初めて経験するネタ見せは異様だった。誰も笑わないし、作家さんは信じられないくらい毒舌だった。それに加えて演者の方も見ていられないくらいの人達がほとんどだった。

自分の事を棚にあげているようだが自分らももれなく見ていられないレベルだった。ただ、自分らは元気だけはあった。元気よく見せるというのが唯一の生命線だった。

緊張で手が震えたが、強盗の役だから緊迫感を演じているように思い込ませた。初めてにしては練習通りに見せることが出来た。

しかし、ダメ出しは辛辣だった。グサグサと刺された気分だった。どのコンビより厳しい内容だったのではないか。

見せ方がとにかく素人過ぎる。

そして、当時トリオだったのだが、トリオの必要性がない。

ボケ二人が台詞の振り分けになっている。

ツッコミの自分に関しても栃木弁が抜けなかった為、U字工事がいるからやめなさいと言われた。


頭が真っ白になるくらい厳しいダメ出しとなった。

結果は……何故か合格していた。

いや受かってるんかい!!

おそらく、トゥインクルはラーメンズさんに憧れてオーディションに来る人が多いためシュールなネタをする人が多かった。元気を売りにバカバカしいネタをするうちらが珍しかったのではないか。


まさか受かってしまった。想定外だった。

しかも、想定外だったのが後日その合格したライブでいきなり一位を取ったのだ。

まじか!

分かりやすいネタで元気を売りにしていたのでお客さんが採点しやすかったのかもしれない。戸惑いながらもこれにより自分らの方向性ははっきりした。

ウェザー事件

しかし地獄を見るのはここからだった。ライブで昇格降格を繰り返しているうちはまだよかった。そのうち、ネタ見せに受かることすら難しくなってきていた。舞台に立たないことにはお笑いの筋肉はつかないし、何よりモチベーションの維持が難しかった。


徐々にネタがウケるイメージすら出来なくなってきていた。

僕らトリオのネタ合わせは相方の今川さんの住んでいた川崎市の会議室を借りていた。公園でネタ合わせをするのが恥ずかしかったからだ。誰かに見られるのが堪らなかった。

見せ物じゃないんだよ!そう思っていた(ネタは見せ物じゃなくてなんなんだって話だが)


とにかく未完成の物を見られたくなかった。

そして会議室で稽古をしているとき事件は起こった。

昼寝を終えるとネタ合わせを再開した。うちらのネタ合わせは当時1日がかりだった。ネタ合わせは体力の消耗があまりに激しく昼寝を入れなければ1日持たなかった。

昼寝で体力は回復したもののテンションが上げられずにいた。何しろトリオ全員がイライラしていた。

その日稽古していたのはラジオというネタだった。ラジオのDJ二人に突っ込むというネタだった。

その中のボケの一つで、天気予報のコーナーでボケの赤木が「ウェザー」という英語だけめちゃくちゃ発音が良くてイラっとするというボケがあった。(ただの小ボケだが)

台本にはウェザー(いい発音で)とト書きを書いた。ツッコミの台詞には「イラっとくる言い方だわー」とある。つまり、イラっとする発音をしなければ成立しないボケだった。


しかし、赤木は棒読みで「ウェザー」とだけ言った。

「いやいやいや、疲れてるのかもしれないけどト書き見た?いい発音で言って。」

「ウェザー」

「いやいや変わってないよね?」

「ウェザー」

「あのさー、ふざけてんの?イラっとくる言い方って突っ込んでるんだからそれにあった言い方しろよ!もう一回」

「ウェザーーーーーーーーーーーー!!!」

怒鳴りながらウェザーと叫んだ赤木に僕は気が付いたら飛びかかっていた。後に僕らはこれをウェザー事件と呼んだ。

赤木が完全に足を引っ張っていた。ダメ出しでも作家さんに毎回そう突っ込まれたし僕ら三人皆そこにつまずいて苦しんでいた。

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