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はじめての入院、がきっかけで宇宙人の秘密に手をかけちゃった【記録?】

入院しました。

といっても大きな病気ではない。長く倦怠感のあった体質を改善しているので、内臓がうまく働いているか、色々刺激を与えて試験しましょうってやつ。
検査入院だ。
でもはじめての入院だったのでわぁ、これが入院デビューかぁとワクワクした。

ワクワクしちゃった。

日頃健康体だから言えることなんですけど、見聞きする入院を当事者として経験したことがなかったので。
フィクションを愛する永遠の文学少女としては、窓際のベッドで本を読み、空想を巡らせるのはひとつのアイコンなのです。もちろん実際にアイコンになるほど病院にいる人が、そんなに呑気に憧れていられないのは当たり前のこととして。

憧れが通じたか否か、私のベッドは実際窓際だった。
どうやら1時間半くらい掛かる検査らしく、その間意識を失うと身体リスクがある。
ということで入院での実施と相成り、検査が始まると主治医がつきっきりで私の意識を見た。
その間、雑談として主治医がおもむろに切り出した。

「私、以前はNASAで宇宙人の研究をしていまして」
わたし「え?

当然だが、この記録は嘘である。本当だったら私はNASAに機密の鹵獲で連行される(※されない)。

「宇宙人の身体を分析するために医師が雇われていたのですが、ご存知の通り、宇宙人って今、あんまりいないでしょう
「いないですね」
「なので普段は医師の仕事はなくて」
「へえ」
「医者の腕が鈍ってしまうので病院に転属したんですね」

窓辺で霧を吹いたような小雨がそぼ降っていた。
寒い日で、さまざまな薬品を投与される私の腕も知らず、粟立っていた。

「どうして私にその話を?」
「いやぁ……あなた、ご職業は政府の調査員でしたね?」

むろん、そんなわけはない。
だがここでは、話を明らかにするために政府の調査員のていで進める。

「ならわかるでしょう。この話がどういった意味を持つか。
 あなたの体は、長い調査活動の影響か、宇宙人と同じ病に罹患しています。あなたを研究することは、宇宙人のしくみ解明につながるかもしれないのです。

 わかりますね? 我々は──」

パチン!

私は窓際のベッドに座っている。

「じゃこれで終わりです。11時半の採血しますねー」
静脈に刺した管を看護師がピストンで操作すると、機械が油を引くみたいに私の腕からちゅうちゅうと赤い血液が吸い上げられていく。
人間の身体というものは医療の前に立つといかに「しくみ」であることか。その生々しさに改めて感じ入らざるを得ない。

一時間半、意識を保たせるために私と雑談していた医師は頭を下げて、にこやかに看護師と交代しナースステーションに去っていく。
私はおよそ20ccの血液を採取された腕をこすり、落ち着くまで貸し与えられたベッドに頭をもたせかける。

病院食でいちばん華やかだったうどん

なんだったの?
何だったのかはさておき、現実世界はときに窓際のベッドのフィクションと同等におもしろい。
私が記録したかったのはつまるところそれだけのことである。

フィクション「より」としないのは、フィクションを愛する永遠の文学少女の意地だ。


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