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「与話情浮名横櫛」@鳳凰祭四月大歌舞伎 感想

「切られ与三」で知られる世話物を、片岡仁左衛門・坂東玉三郎ペアで見られる。多少の不義理をしても駆けつけたい。あと何回このペアを見られるかわからないのだ。
昨年の「四谷怪談」とは違って、落ち着いて二人の美しさを堪能できるのはハッピーエンドがわかっているからだ。
「粗筋がわかっているものを、よくも何回も見られるね」
という向きもいらっしゃるだろうが、古典落語と歌舞伎は粗筋を楽しむためにあるのではないから良いのである。

この話では、浜辺で出会った二人がお互いに一目惚れをするのだから、どうしても美男美女でなければ始まらない。芸の力とかいうものを私はそんなに信じていない。美しいものは美しいが、そうでないものは興ざめしてしまう。何年たっても見巧者にはなれないのだ。
「この二人がいなくなったら、だれがこの演目をやれるかな?」
仁左衛門の鼻筋を眺めながら、そんな思いがちらりと頭をよぎる。

「源氏店」の場では、化粧をする玉三郎の色気に喉が渇く思い。
若い時よりも首の後ろに脂がのっているが、お姫様役ではないので、あれくらいがあだっぽさを感じさせる。
小悪党となって現れる与三郎は生まれ持った品の良さを感じさせなくてはならない。仁左衛門の与三郎は、弱弱しいお坊ちゃんの殻がどこかについているようでとてもかわいらしい。以前見た別の役者の与三郎はただのチンピラのようで、その数年後に彼が半グレ集団と問題を起こした際にはとても納得してしまったものだ。

与三郎が立ち聞きをする際に壁によりかかる形が美しい。舞台にすっと斜めの線が入ったように立つ姿は、カッコよいだけにかなり無理な動きなのではないだろうか。4月初めの3日間を休演していたことを思い出し、「どうぞ千穐楽までこの美しさをキープしてください」と祈ってしまった。

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