見出し画像

自治体等で対策進めるも、プラ一括回収でさらに増加の懸念

携帯電話やパソコンのバッテリー、小型家電等に多用されているリチウムイオン電池。

私たちの生活を便利で豊かにすることに大きく貢献している一方で

そのリチウムイオン電池の誤った排出方法によって、全国各地の廃棄物処理・リサイクル施設等で火災・爆発等のトラブルが急増しており、大きな社会問題となっています。

便利な生活に欠かせないリチウムイオン電池

規模の大小はありますが、自治体におけるリチウムイオン電池等に起因する発火・発煙事故は実に年間1万2000件を超え、その被災額は13.5憶円にものぼると言われています。


この問題は最近ではさまざまなメディアなどで取り上げられるようになり、だいぶ知られるようにはなってきましたが、まだまだ一般の認識は低いようです。

廃棄物処理・リサイクル施設で火災が起きたというニュースを見て「管理がずさんだ」「やっぱり廃棄物処理施設は迷惑施設だ」なんて思っている人もまだいるのではないでしょうか。

そう思っている人が、何気なく捨てたものに使われていたリチウムイオン電池が、実は火災の原因になっていた、事故原因の張本人だった、なんてこともあるかもしれません。

国や自治体、事業者等がさまざまな対策を検討、実施していますが、なかなか事故は減少しません。

それどころか、今後さらに事故が増えることも懸念されています


その要因となっているのが昨年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」に基づくプラスチック製容器包装とプラスチック製品の一括回収です。

この法律ではプラスチック資源の分別収集を促進することを目的に、自治体等が従来のプラ製容器包装に加え、プラ製品も一括で回収することを可能にしました。施行から1年経った今年度から、本格的に一括回収を行う自治体が出始めています。

プラスチックのリサイクルを進めるという観点からはとても良い取り組みですが、プラ製品にはさまざまなものがあり、なかにはリチウムイオン電池が使われている製品も多く存在します。

それらが従来容器包装だけだった回収物の中に入ってくると、火災事故がさらに多発する恐れがあります。

プラ製容器包装をリサイクルする事業者の事故発生の現状


プラ製容器包装をリサイクルする事業者の事故発生の現状はどうかというと、日本容器包装リサイクル協会が、契約を結んでいる再生処理事業者35社を対象に発煙・発火トラブルの調査を行っていますが、その結果を見ると2017年の56件から2018年は130件に倍増、さらに翌2019年には301件に急増しました。その後は280件台で推移しています。

プラスチック製容器包装再生処理事業者での発煙・発火トラブル(日本容器包装リサイクル協会HPより)

この状況について容リ協では、「各社がさまざまな取り組みを行っている結果として高止まりの状況。努力しても減少傾向にまでは至っていない」と分析しています。

これはあくまで容リ協が契約を結んでいる35社だけの数字で、民間施設でも全国で数多くの事故が起きていることは容易に想像がつきます。

近年事故が増加しているのは、充電式電池に加え、加熱式たばこ(電子たばこ)が増えたことなどが要因となっているようです。
プラ一括回収で、さらに事故が増えることが心配されています。

そんな状況を何とか改善しようと、自治体では事故防止に向けたさまざまな取り組みを進めています

全国でプラスチック資源循環促進法に基づく再商品化計画の第1号認定を受けた仙台市は、今年度から全市でプラ一括回収をスタートさせました。

同市ではチラシ等で一括回収の対象となるもの、対象外のものを、イラスト等を使って分かりやすく示し、発火やけがなどの危険のあるものは入れないよう、分別の徹底を市民に呼び掛けています。

仙台市は一括回収の対象となるもの、対象外のものをイラストで分かりやすく解説

また、2022年7月からは、リチウムイオン電池等小型充電式電池の定日回収も始めています。

名古屋市では2010年からスプレー缶、使い捨てライターなどの「発火性危険物」の収集を開始。2021年から発火性危険物の品目に加熱式たばこ・電子たばこを追加しました。

2021年には小型家電の対象品目を拡充し、「充電式家電」の回収を開始。
2022年7月からは「電池類」の収集を開始しています。

それまで種類ごとに捨て方が異なっていた電池類(乾電池→不燃ごみ、ボタン電池→協力店、リチウム電池→発火危険物、リチウムイオン電池→JBRC回収ボックス)を、一括で収集することとしました。

パッカー車で収集の際にはプラ製容器包装、可燃物は後方のパッカー投入口、電池類、発火危険物は車横に着けたかごへと分けて収集する工夫をしています。
 

関係団体、業界団体等でも事故防止に向けたさまざまな取り組みが行われています

容リ協と、消費者などに向けた環境啓発活動に取り組むNPO「持続可能な社会を作る元気ネット」は注意喚起を促すための動画を作成し、ホームページに掲載したり、イベント等で啓発活動に活用しています。

この2団体と日本フランチャイズチェーン協会、日本たばこ協会は共同で、コンビニエンスストアのレジ画面を活用して、リチウムイオン電池使用機器を各自治体のルールに沿った正しい分別で廃棄することを訴える取り組みを2022年9月から2023年3月まで行いました。

関係4団体によるコンビニレジ画面を活用した啓発

もちろん国としても、経済産業省や環境省など関係する省庁がさまざまな対策を検討・実施しています。

それでも増加の一途を辿るリチウムイオン電池による発煙・発火事故


これを解決するには、国、自治体、企業等がそれぞれ別々に対応するのではなく、関係者・関係組織が連携し一体となって取り組みを進めていくことが不可欠です。

企業には当然、リサイクルする側だけでなく、分別排出しやすいような設計を進めるなどメーカーの取り組みも含まれます。そして、最も重要な役割を占めるのは、私たち一般消費者と言っても過言ではないでしょう。

私たちが意識を変えていくことが事故防止につながります。

廃棄物処理・リサイクル工場の事故は地域の循環型社会の進展に大きな支障をきたすことにつながり、何より作業員の方々の人命にかかわります。

廃棄物処理・リサイクル工場の事故の原因にもなる

この問題は、今後も継続的に取り上げていきたいと思っています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?