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#3 フェイクとファクトの境界線上でゆらぐ〈ポスト・トゥルース〉の時代

今でも、SNSには人間の作ったフェイクニュースがあふれかえっています。したがって、AIを抜きにしても「嘘を嘘と見抜く」情報リテラシーを身につける必要があることに変わりありません。ただ、人間が生み出すフェイクはほとんど言葉によるものでしたが、今の生成AIを使えば、簡単に偽の画像や動画を作り出せてしまいます。その分信憑性があがって、騙される人が格段に増えることでしょう。(略)。この世の何が本当で何が嘘かわかりにくいような「ポスト・トゥルースの時代」(真実が過去のものになった時代)が本格的に到来しつつあるのです。そうした時代にあって、社会の混乱を防ぐためには、個々人が情報リテラシーを身につけるだけでなく、ディープフェイクを規制するような法律も必要でしょう。

井上智洋『AI失業』[2023: p.223]

 わたしたちは知らず知らずのうちに多くのフェイクに囲まれています。なにかを知りたいときには気軽に検索をして調べますが、その情報が実はフェイクだったということがありえる状況になっているということです。また、ショート動画をなにげなく見ていると、ちょっとした知識を教えてくれるものが無数に流れてきます。そういった動画を見て「これは本当かな」と思って調べてみると、実は印象操作されたフェイクニュースであったことがわかることがあります。しかし、コメント欄を見てみると、多くの人たちがその動画の印象操作を信じてコメントを書いています。このように少し調べただけでフェイクであることがわかる場合であっても、人々はだまされてしまうのです。恐らく、進化した生成AIによって作成されるフェイクは、そのほとんどがフェイクであると見抜けないようなものになっているのではないでしょうか。そのとき、わたしたちにとって「なにがフェイク(虚偽)で、なにがファクト(事実)」になるのでしょうか。これからの高度情報化社会においては、情報リテラシーを高めることが必須になるとは思いますが、その程度ではどうしようもないほど精巧なフェイクが作られることでしょう。生成AIによって作られたフェイクは、生成AIによってしか見抜けないということになるかもしれません。そのとき、わたしたち人間は無力なのでしょうか。

 今、わたしたちは時代の転換期にいます。これから訪れる新しい時代の悪い面をさまざまな人たちが指摘することでしょう。また、気をつけなければならないと警鐘を鳴らすことでしょう。ただ、それでもどうすることもできないような状況になってしまうかもしれません。そのときに大事なのは「自分だけはだまされることはない」とは思わないことです。誰も詐欺に遭いたいと思って詐欺に遭う人はいないはずです。そうであるのにもかかわらず、だまされてしまう人はいなくなりません。それは詐欺をする者たちのだましかたが巧妙に考えられたものであるからです。

 この数十年で時代は大きく変化してきました。そして、生成AIによってさらに加速して変化していくことでしょう。今後訪れる〈ポスト・トゥルース〉の時代においては、自分の感覚だけを信じて、「フェイクか、ファクトか」を問わない生きかたも、1つの賢明な判断なのかもしれません。今の時点でいえることは、人間がフェイクを見抜けない時代が来るということであり、少しくらい気をつけていたとしても無意味だということだけだと思います。このような未来に対し、「AIの進化に対しては白旗を振ってAIからの指示のままになにも考えずに生きていけばよい」と思う人たちもいるでしょう。もうそうするしかないとあきらめ、一刻も早くそういった状況を受けいれることが重要だと説く意見にも一理あるのかもしれません。このように書いてしまうと、まるでディストピアが到来するかのように聞こえてしまうかもしれませんが、わたしとしてはもちろんそうは思っていません。AIによって人類が操られるのではなく、人類がAIをうまく活用して、明るい未来を手に入れることができると信じています。

 生成AIによってわたしたちが「フェイクか、ファクトか」を見抜けなくなっても、わたしたちは生成AIを使って「フェイクか、ファクトか」を知るすべを手にするでしょう。それはイタチごっこになるかもしれませんが、それでもあきらめないのが人間のこころの強さだと思っています。そして、リアル/リアルバース/メタバースというオンラインとオフラインの境目が溶け合った新たな世界のなかで能動性を発揮して生きていくのが、あるべき未来の生きかたなのだと思います。


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