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きよちゃんのなた巻き

なた巻きは、山形に来て初めて食べたお菓子。もち米粉、砂糖、醤油、ごま、くるみの入った生地を笹の葉で巻いて、蒸したものである。
もとは、端午の節句に食べられるものだそう。今は、笹の葉が、大きいけれど柔らかい6月に作ることが多いらしい。

きよちゃんは、ここから歩いて5分くらいの所に住んでいる80代のおばあちゃん。私が働く店の94歳の大女将としゃべりに来ている。

女将は、去年からきよちゃんになた巻きと笹巻の作り方を習い始めたとのことで、今回は、私と京都から来たスタッフも参加させてもらった。

女将は、これまでずっと忙しくて、なた巻きも笹巻も作る時間がないと思っていたそうだ。厨房で完結することならできるが、笹を取ったりする時間を考えると挑戦してこなかったそう。
でも、ふとやれるんじゃないかと思ったら、やれることに気が付いらしい。時間をどう使うかは、気の持ちよう。いくら時間があっても、やる気がなければやらないし。いくら忙しくても、やる気があれば、なんとか時間を作ってやるもんだ。

1日目
生地準備の日。少なくとも、生地を一晩は寝かせることで、粉が水分を吸収して、生地が粉っぽくならず、もっちりとするそう。レシピを検索してみたら、二晩寝かせているものもある。
夜ご飯の冷やし中華をみんなで食べてから、生地仕込み開始。
まずは、もち米粉と白砂糖と黒ごまを測り、ボウルでよく混ぜる。今回は、ごまがたくさんあったので、贅沢にたくさん入れた。そして、醤油を加え、手である程度捏ねてから、加減を見ながら、少しずつ水を加えて捏ねていく。最後は、生地がべっとりするけれど、一晩寝かせることで、いい感じに固くなるそう。ラップをして、冷蔵庫に入れて、次の日の朝までおやすみなさい。

2日目
5:30に起きて、6時に出発。どこへ向かう?って、笹の葉を取りに向かった。隣町へ繋がる道沿いの林に、いい感じの大きさの笹がたくさん。葉の大きさは、長さ20-30cm、幅10㎝ほど。でも、小さいのも、お店で使えるからオッケー。笹は、葉柄の手前のあたりの部分で切る。硬い葉柄は、後で切り落とすことになるので、それなら最初から、葉のぎりぎりの部分を切る。4人で、もくもくと笹の葉を収穫。切っては、自分の腰に巻いてあるはけごに入れていった。


1時間弱ではけごは、薄い笹の葉でいっぱいになった。「こんだけあれば、十分だね。」と帰路に着いた。帰ってからは、大きな流しで、笹の葉をじゃぶじゃぶと洗い、大きな葉と小さな葉を分けていった。


ちなみに、となりの寒河江町では、笹の葉が店で売っており、取りに行く人は少ないらしい。西川町では、わざわざ店で売っていることは少なく、みんな近くに取りに行くとのことだ。
そして、大きな葉をなた巻きと笹巻用に確保。
生地を冷蔵庫から取り出して、ここで一混ぜ。いい感じに固くなっている。
そしたら、笹の葉に生地を巻いていく。生地をスプーン一杯取って、笹の葉の真ん中あたりに置く。生地の上に、クルミを数かけのせる。葉の端を折って、3等分くらいにする。2枚目の葉を、1枚目から90度の角度で置いたら、いぐさの紐で縛る。


いぐさの紐は、この時期のみ店で売っているらしい。前日から水をつけて、柔らかくする必要があるそうだ。長いときは、もったいないので半分の長さに切ってから使う。口で、片方の端を加えながら上手に巻いていく。これを説明するのは難しいので割愛。
なた巻き4つ分の紐を縛ったら、そのまま30~40分蒸す。そしたら完成!きよちゃん曰く、家では40分間蒸すけれど、ここのは、火力が強いから30分でいいとのこと。
できたては、生地がべたべたなので、少し冷めて落ち着いてからの方が食べやすいとのこと。醤油味のもちもちの生地に、黒ゴマの香りとクルミの旨みが、素朴だけれど贅沢な味わい。

笹巻は、もち米を笹の葉で包み、茹でる食べ物。3角形の包み方が、最初は難しい。確かに、この作業は、少なくとも1年に1回はやらないと…1年後には、確実に忘れている気もする。(笹の葉に、砂を詰めて、ビニール紐で縛る練習をしたらいいと勧められた。)
もち米は、数時間前から水に浸しておく。笹の葉2枚の裏面を内側にして、上下を交互にして重ねる。端を合わせて円錐状にしたら、そこにもち米を詰める。

端で蓋をして、横向きにしたもう一枚の葉で、さらに蓋をする。


この説明も難しい。そしたら、いぐさの紐で結んで、沸騰したお湯で30分ほど茹でたら完成!餅からは、笹の香りがとても楽しめる。


砂糖と塩を混ぜたきなこと共に食べる。


この地域では、青きなこなるものもあるらしい。向いの店でも売っており、「おっ!」と思ったが、裏を見てみたら中国産だったので、なんとなく買うのをやめた。

ちょうど、出来上がたころに、働きに来ているおばちゃんが来た。なた巻きは、家庭によって違うからね~と。後日、彼女からもらったなた巻きには、ごまは入っていなかったし、いぐさの紐の替わりにつまようじで閉じられていた。彼女は、なた巻きを昼ご飯替わりにもするそうだ。4個も食べたら十分お腹がいっぱいになるとのこと。もち米だけで作る笹巻きの方が、ご飯替わりになる印象があったので、なた巻きもご飯になるかとびっくり。
ちなみに、笹巻は、納豆と食べてもおいしいらしい。朝食にしたら、もち米と納豆なので、もちろんおいしかった。

抗菌作用のある笹で巻くことで、保存ができるとのこと。と言っても、数日後には、悪くなってしまうだろう。今では、袋に入れて、冷蔵庫で保存をしているくらいだ。でも、冷蔵庫の無い時代には、笹で巻くことで、何もしない状態より、保存が効いたのは確実だろう。

柔らかな笹の葉が手に入るこの時期ならではの、目には爽やかで、優しく深みのある味だった。

後日、きよちゃんは21時近くまで、大女将とおしゃべりをして、「味噌味のなた巻きも作ったから、明日持ってくな。」と言ってくれた。80代、一人暮らし、歩いて家まで帰る姿がかっこいい。翌日、きよちゃんは、「みんなで食べてな。」とたくさんの味噌味のなた巻きを持ってきてくれた。西川出身の従業員の人達でさえ、味噌味は初めてとのこと。味噌のこくがおいしかった。

最近の若い人は、なた巻きや笹巻を作らないと耳にする。確かに、生地を前日から仕込んで、笹の葉を取りに行き、生地を詰めて、結んで、やっと蒸す(茹でる)といった全ての過程を考えると、時間も手間もかかる気がする。しかし、この時期ならではの自然を活かし季節を感じる豊かさ、素材のシンプルさ、話しながら作業をする楽しさに勝ものはないだろう。地域の味という、地域の文化を繋いでいきたいと思う機会となった。

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