見出し画像

北海道が好きになったわけ⑨

僕らが住んだアパート「浦茂アパート」は、大家さんには悪いけどとてもボロかった。木造で年代的にはかの有名な「トキワ荘」と同じくらいに感じた。もちろん部屋ごとにトイレやシャワーなど無い。トイレは共同のボットン便所。風呂は近くの銭湯。北海道の片田舎だけど神田川の世界観。それでも2年間は住むんだから少しでも住みやすくしたくて、皆んなでお金を出し合って、文字通り「オシャレ番長」感のある跡見さん指揮の元、プチリニューアルすることにした。

まずは、例の各部屋のカーペットの切れ端が汚いパッチワークのように敷かれてるのが嫌だったので、新しくカーペットを買って敷き直した。続いて“酔っ払った元住人の先輩が納内駅から持って来ちゃった”という恐ろしい噂のある国鉄印の時計をはずし、代わりにアンティーク調の時計を掛けたり、木製ベンチを置いたりして、徐々に良い感じになっていった。

ある日、6畳の部屋に住む蓮ちゃんが4畳半の部屋に住む石田ちゃんに部屋を交換しないかと持ち掛けた。蓮ちゃんは今で言うところのミニマリスト。極端に持ち物が少なく質素に暮らしている。逆に石田ちゃんは四畳半なのに炬燵を持ち込み、その隣に布団を敷いていたので、布団の端がめくれてしまってちゃんと敷けていなかった。しかもお菓子が大好き(ていうか食べ物全般大好き)で常に何かしらスナック菓子が常備されており、加えてファミコンを持って来ていたので皆んなの溜まり場となっていて、毎晩部屋がぎゅうぎゅうになっていた。

そんな状態だったのでもちろん石田ちゃんも喜んで交換に応じ、6畳間に引っ越していった。

そして何日か経った頃、なんとなくテンションが低くなった石田ちゃんが蓮ちゃんに問いかけた。

「蓮ちゃんさぁ、あの6畳間さぁ、夜中になるとなんか変なことなかった?」

対する蓮ちゃんはニッコニコな笑顔で

「やっぱり出る?赤い帽子の女の人でしょ?」

と嬉しそうに答えた。

「そう!それ!毎晩出るんだけど」
「だよねー。けど、何もしないから大丈夫だと思うよ」
「マジ?え?もしかして、部屋交換したのってこれが理由?」
「うん、そう。自分、割と霊感強くてさ、毎晩出るから寝られなくなっちゃって。石田ちゃんならそういうの感じなさそうだなと思ったから交換してもらったの。ちゃんと寝れてるでしょ?」
「うん、まぁ普通に寝てるけど」
「じゃ、問題ないね♪」
「あ、うん、そうなのかな。。。」

納得いってなさそうな石田ちゃんを放って、続いて蓮ちゃんは2人の横で話を聞いていた僕の方に顔を向けて言った。

「シャケさんの部屋も6畳だけど交換したいと思わなかったんだ」
「え?」
「シャケさんの部屋もなんか出るでしょ🤭」
「‼️」

そう、実は僕の部屋は住んだその日からラップ音が酷いのだった。天井からポール牧ばりの指パッチンのような音がしばらく続く。それだけなので特に害は無いので僕もそのまま寝てしまう。だから問題はないんだけど、やっぱりなんか気味が悪い。
それに、跡見さんが僕の部屋に来て、壁に持たれて本を読んでいた時のこと。もたれかかった壁の後ろから頭の辺りを「コンコン」とノックされた。
「え!」とビックリして後頭部に手を当てながらバッと壁から離れる跡見さん。そりゃビックリするわ。2階にある僕の部屋の壁の向こうには空間しか無いのだから。

「シャケちゃんがラップ音て言ってるのコレ?」「いや、いつもの指パッチンスタイルではないけど、バッチリ聴こえたね」
「いや〜、マジでこんなことあるのか。。。」

なんてこともあった。

「でも大丈夫。シャケさんの部屋のも悪意は無いみたいだから安心して」

相変わらずニッコニコの蓮ちゃんが言うなら安心かなぁ。どちらにしても、僕も石田ちゃんもあまり気にしないタチで良かったのかもしれない。なんとなく丸く収まってるし。

そして、しばらくした後日、僕らはアレを目撃してしまった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?