現場録音雑考「プラントマイク(仕込みマイク)についての色々、あるいは植え方」

前回が「手振りのガンマイクについて」でしたので、今回は「プラントマイク」いわゆる「仕込みマイク」についてダラダラと書いていこうかと思います。手振りと違って割と何でもありの分野なので、何から話せばいいかと思案してますが、まず、そもそも仕込みってなに?みたいな方も読んでいただいていると想定して、簡単に説明します。

非常に残念なことに、手で振るブームマイクはフレームの中に入れません。なので、ルーズショットに対してカメラの横で向けてるだけ、みたいな、あるいはブームオペレーターの体が入れる場所がない、みたいな状況はままあります。(オペレターがいられない状況とは、例えば車の牽引撮影、例えば狭い室内での360度パン、例えば灯体に囲まれて上からマイクを挿すと影が出まくる時、例えば全面鏡張りのホストクラブでの撮影などなど、、、)

が、しかし!我々現場録音屋の使命はマイクロフォンをいかに口元に突っ込むかにあります!


仕込みマイクとは「まぁピンマイク使えてるからいっか、、、」で満足せず、あわよくば寄った音を録るにはどうしたらいいかを思案した結果あみだされた、「画の中のオブジェクトにマイクをダブらせて収音する技」なのです。

↑これはルーズショットで机に三人が座って喋る芝居の時の仕込みです。籠の置物に完全にダブらせて2本仕込んでます。

前段として重要な事を提示しておきますが、基本的にドラマや映画の音声は「演者に着いているボディパックワイヤレス」と「ブームマイクで録る画なりのガンマイク」で事足りています。極端な言い方をすると、寄りはガン、ヒキはピンがあれば、収音は可能です。(異論は認めます)

なので、ぶっちゃけ仕込みマイクは、特殊な状況を除き

「なくても大丈夫なマイク」

です

散々煽って身も蓋もない事を言いましたが、なぜそれを前段として話すかといいますと、あくまで土台となるのは上記2種のマイクだからです。仕込みマイクは性質上固定位置の音しか録れません。たとえ動きのないお芝居で、いい位置に仕込めていたとしても、画と併せて聞くとやたら距離が近すぎる感じがしたり、画の中のアクションノイズが聞こえなくて違和感を感じたり、顔を少し動かされるだけで音像はボケたりします。前述した2種のマイクが成立していないと、極端で、非常に使いにくい音しか録れていない事になりますので、MAされる方が「どぉぉぉぉぉぉしてだよぉぉぉ‼️」になります。

故にまず土台としての2種のマイクを安定させてから、マイクを植えて、水をあげましょう。

車内仕込みについて

仕込みマイクはケースバイケース、千変万化なのですが、確実に仕込みマイクが登場するシュチュエーションがあります。『車内』です。
車内の撮影は「車の中が広い」「オペレーターに小柄な人間がいる」という場合でない限りほぼ100%仕込みになります。↓概ねこんな感じ。

これ実は私のオリジナルアームで、市販のものを組み合わせて使ってます。マイクはノイマンKM150。普通は↓こういうの使ったりします。

マンフロットのフリクションアームとナノクランプ。高いです。


UNクランプという名前です。高いです。
うへぇ、、ネジをBTSに変換してるし、プラグオンをつけられるように改造してる、、、


これは本当にただの一例で、毎回こうしているわけではありません。お気付きかもしれませんが、車種によってマイクが置ける場所は違いますし、アングルによってバレ方が変わるので、同じシーンの中でも仕込める場所を3パターンは考えておかないと詰みます。カップホルダーにマウントを差し込んだり、頭上のサンシェードに貼り付けたり、ハンドル上のメーターがあるスペースに置いたり、ドアハンドルにクランプを付けたり。原則的には乗ってる役者に対して一人一本仕込みます。(下向く芝居があると増えます)
車内仕込みのコツとしては

「マウントが移動の振動に耐えうる事」
「マイクへの振動を極力抑える為に浮かせる事」
「車の振動でカタカタなりそうな物を押さえておく事」
「ハンドルや、シフトレバー操作の邪魔にならない事」

が大事ですが、さらに重要な点として

「直しに行く回数が少ない場所に仕込む事」
「容易につけ外しがしやすいマウントにしておく事」

があります。車内という狭い空間ですので、他の部署と並行して作業する事は困難です。なので、カメラが座り、スタンドインが入り、ライティングを調整し、マイクを仕込む、といった流れになりますので、可能であれば、少々アングルが変わったくらいでは直さなくていい位置にしたり、素早く取り外しができるようなクランプを用意したり、そもそも事前に車種を確認して段取りで芝居をみて、段取り中には位置を確定させるくらいのイメージが必要となります。
手持ちの写真がなく説明がむずかしいので、具体的にみたい方はInstagramで「plant mic」等で検索すると海外の方の車内仕込みが結構出てきます。
最近の私は「CROWN PCC-160」を置いて終わりにする事が多いです。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/6572/


レクトロソニック送信機に直挿しマイクロフォン(https://www.s-bhphoto.com/?pid=98319942)

↑このボディに直接両面テープを貼って、天井とか壁に貼り付けたりしたりたり。サンシェードにも仕込みやすいですね。

なお、MKH416は仕込みマイクにあまり適しません。長すぎるのと、車内に響く音の低い成分を拾いすぎるからです。芝居の邪魔にもなるのでできるだけマイクのヘッドは小型のものを意識してください。schoepsのコレットなんかはかなり仕込みやすいです。高いけど。

すこし説明不足でしたので、もう少し仕込みマイクの意義について言及しておきます。そもそもですが

「何でピンマイクついてるのに、ガンマイクで録る必要があるの?」

という素朴な疑問があると思います。セリフを録るだけでいいならもちろんピンマイクだけで十分です。人数が決まっている情報番組やニュース番組なんかはそうなっています。
映画やテレビドラマの場合は、セリフを喋る人間には原則的に全員ピンマイクがついていますが、ご覧になっている通り、もれなく観客にバレないように服の中に隠してあります。故に報道やニュースと違い

「ピンマイクの状態が悪い」です。

耳に布を当てて人の声を聞いてみればわかりますが、当然何もない時と比べてくぐもって聞こえます。かつ、芝居やアクション、アングルによって付けられる位置はさらに限定されるので、条件はどんどん厳しくなっていきます。ピンマイクは、けっして万能マイクではありません。布に覆われた近接のマイクというのは「空気感(所謂アンビエンス)」がなく、そのマイクだけではずっと近くで喋っているような音になります。(この辺を調整するのが整音作業ではありますが)
故に一定の距離を持った外部のマイクの方が、空気を伝わる工程があり、実際に聞こえる音にちかく、空間演出上必須となる訳です。

上記を踏まえて、冒頭お話ししました室内全体、あるいはグループが入るようなルーズショットに対するマイキングのお話に戻して解説しますと

参考:https://note.com/free_2nd/n/n7f149c158fe2

こういったバックショットの場合、もちろん上からのガンマイクは有効ですが、あきらかに上辺が高く、人物より4マイク分は離れてしまいます。正攻法で行くと正面のガラスに映ってそもそもオペレーターが立てない可能性が高く、うまくかわしてもトップライトのシャドーがキツかったり、手前のテーブルの天面にマイクが映ったりもします。
この場合自分なら、立ち上がらない前提ですが、二人の人物の体ににダブらせてマイクを仕込みます。向かい合って話すのであればセンター目で一本でもいいですが、二人とも前を向いて話す場合は各々に一本ずつ仕込みます。多分マイクをハンガーごとUNクランプに取り付けてテーブルの縁に2本咬ませると思います。すこし整理すると

  1. カメラなりのマイク。カメラの脇からストレートで狙う(もっともリアルな音)or多少高くなっても人物の上から出すマイク

  2. 二人の体にダブらせて一本ずつ仕込む、テーブル仕込みマイク

  3. 二人のボディーパックワイヤレス

映画的な録音方法だと写真のカフェのカットの場合、これくらいマイクが出る可能性があります。ここで肝なのが、1のマイクと2のマイクを併用する所です。
1のマイクがどういった音になるかというと、もちろんガンマイクの指向性によりますが、ベースノイズ、バックノイズが高く、セリフが不明瞭、人物が背を向けて喋っていて何を言っているか分からない感じの、見た目に対して最もリアルな音、です。
2のマイクはというと、セリフは明瞭で音圧があり、その分ゲインを下げられるのでバックノイズが低く作れる、見た目に反してマイクが近く空間的な音にならない、といった感じです。

これは正直、現場でどちらが正解かの判断はしません。なぜかというと、仕上げをやる人間が、シーケンスを繋いだ上で音を並べていった時に、どのマイクをどういった配分で混ぜるのが最適かを判断すべきだからです。なのでその為に我ら現場の人間は、編集時の選択肢を用意する事が職責となるわけです。生産者と料理人の関係ですね。

脱線しまくって、とても長い文章になってしまったのでそろそろ終わりにしますが、仕込みマイクとは調味料のようなもので、あった方がいいけど、なくてはならない訳ではない、技術です。
これが自由に発想できるようになると、とても仕事が楽しくなると思うので、いろんなマイクで、いろんな仕込み方をして、いろんな音をとってください。

最後に課金のお知らせになります。
全文無料ですが、頑張って書いたので褒められてたいです。課金という形で褒めてください。

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