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《級別》:不可解なり

 李克強急死に関して、ネット上ではその「自然死」にギモンを呈する声が急増したが、その背景の一つに、李が“正国級”領導であることから手厚い医療支援があった筈との指摘がある。「国家指導者」といった意味ではあろうと容易に想像がつくが、“正国級”とはなにか…そもそも、そうしたポストの区分を定めるものとして中国には《級別》がある。
 各種資料に拠り、少し整理を試みた。



 先ず、中国公務員法(2005年)を見よう。

公務員の職務、職級

第三章 职务、职级与级别
第十六条 国家实行公务员职位分类制度。
公务员职位类别按照公务员职位的性质、特点和管理需要,划分为综合管理类专业技术类行政执法类等类别。根据本法,对于具有职位特殊性,需要单独管理的,可以增设其他职位类别。各职位类别的适用范围由国家另行规定。

中国公務員法(2005年)

 すなわち,公務員の職位は、その性質、特性等に応じて、総合管理類、専業技術類、行政執法類等に分けられる。

第十七条 国家实行公务员职务与职级并行制度,根据公务员职位类别和职责设置公务员领导职务、职级序列。
第十八条 公务员领导职务根据宪法、有关法律和机构规格设置。
领导职务层次分为:国家级正职、国家级副职、省部级正职、省部级副职、厅局级正职、厅局级副职、县处级正职、县处级副职、乡科级正职、乡科级副职。

中国公務員法(2005年)

 その上で、職務・職級並行制度により、公務員の職位類別と職責に基づき、公務員領導職務・職級序列が設置される。前者、すなわち,公務員領導職務は、国家級正職、国家級副職、省部級正職、省部級副職、庁局級正職、庁局級副職、県処級正職、県処級副職、郷科級正職、郷科級副職に区分される。

 つまり、中国のいわゆる「公務員」は「領導職務」と「非領導職務」に二分され、前者の「領導職務公務員」は“級”=行政レベルに応じてそれぞれ正副職があてられ、中央の国家級から末端の郷科級に至るまでそれぞれ正副ポストがあり、合計10種の《級別》が存在することになる。日常語では「部級、庁級、処級、科級」という省略した呼称も使われるが、それらはここにいう「省部級、庁局級、県処級、郷科級」の意である。なお、同じ「級別」にあっても、中央では「部、局、処、科」、地方にあっては「省、庁、県、郷」という行政級内のレベルが設定されている。
 また、「公务员职务、职级与级别管理办法(2019年12月23日中共中央组织部制定 2020年3月3日发布)」によれば、それぞれの職位に対し、数字表記の級別が付与されている。

「非領導職務」

第十九条 公务员职级在厅局级以下设置。
综合管理类公务员职级序列分为:一级巡视员、二级巡视员、一级调研员、二级调研员、三级调研员、四级调研员、一级主任科员、二级主任科员、三级主任科员、四级主任科员、一级科员、二级科员。
综合管理类以外其他职位类别公务员的职级序列,根据本法由国家另行规定。

中国公務員法(2005年)

   一方、総合管理類公務員、すなわち,「非領導職務」には、巡視員、調研員、主任科員、科員、辦事員の5級があり、前四者には副職として副巡視員、副調研員、副主任科員、二級科員があり、巡視員から二級科員まで級別はそれぞれ庁局級正職から県処科級副職に対応する。

公務員主管部門


 ここに明記される通り、公務員試験を実施するのは一級主任科員以下のみにとどまる(23条)。つまり、それ以上の級にあっては各類公務員主管部門がそのリクルート/採用を行う(24条)とされ、いわばその主管部門の恣意性に委ねられるといっても過言ではあるまい。では、それらの「公務員主管部門」とは具体的にはどの部署なのか、少なくとも公務員法の条文上には明記されてはいないし、「公務員録用規定」(2007年)でも明確な規定はない。

第四章 录  用
第二十三条 录用担任一级主任科员以下及其他相当职级层次的公务员,采取公开考试、严格考察、平等竞争、择优录取的办法。
第二十四条 中央机关及其直属机构公务员的录用,由中央公务员主管部门负责组织。地方各级机关公务员的录用,由省级公务员主管部门负责组织,必要时省级公务员主管部门可以授权设区的市级公务员主管部门组织。

中国公務員法(2005年)

 アウトサイダーとしては、人事部、党委組織部、人事庁人事処、人事局等の名称が浮かぶが、市レベルではおそらくのところ党委組織部および人力資源和社会保障局ではあるまいか。前者、党委組織部は所謂六大機関、すなわち,党群系統、人大系統、政協系統、法院系統、検察院系統、民主党派系統の公務員管理を行う。政府系統の人事管理を行う主管部門が後者である。
 なお、この外、「参政党」とされる民主党派があり、「参政議政、民主監督」の職能を果たすものとされ、民主党派機関の工作人員もまた公務員である。

職務、職級の任免

第六章 职务、职级任免
第四十条 公务员领导职务实行选任制、委任制和聘任制。公务员职级实行委任制和聘任制。
领导成员职务按照国家规定实行任期制。
第四十一条 选任制公务员在选举结果生效时即任当选职务;任期届满不再连任或者任期内辞职、被罢免、被撤职的,其所任职务即终止。
第四十二条 委任制公务员试用期满考核合格,职务、职级发生变化,以及其他情形需要任免职务、职级的,应当按照管理权限和规定的程序任免。
第四十三条 公务员任职应当在规定的编制限额和职数内进行,并有相应的职位空缺。

中国公務員法(2005年)


 領導職務公務員の職務実行は、選任制、委任制、聘任制を行う。
 選任制とは、市長、省長、法院院長、検察院長等人代選挙を行う機関領導に対して行う。被領導者(あるいは同代表)が法定選挙人として投票を行い、その多数決により、その任免を決する。これにより、国家権力、上級政府の領導と監督および広大な人民の監督を受けるものとされる。
 これに対し、任命制とも呼ばれる委任制は非領導成員の常任公務員に行うもので、各級人民政府の具体的工作部門(公安局、工商局、民政局、財政局等)のトップ、科室トップ等は選挙を経ることなく、機関首長が任命する。
 法院の書記等国家秘密に関連せぬ専業性の強い職務(およびその補助的職務)にあたる「専業技術人員」に対して行うのが聘任制で、契約を取り結ぶ。契約期間内、公務員編制に組み入れられ、公務員待遇とされる。公開聘任と一定範囲内の聘任の二種がある。

 なお、国家中央から郷鎮レベルに至るまで、一級行政区にはすべて党機関、人民代表大会機関、行政機関が置かれ、県区以上の行政区には政協機関、審判機関、検察機関が置かれる。うち、前四者は“四大班子”と俗称される。これに紀律検査委員会を含めると“五大班子”ともされ、更に民主諸党派を含めたものが上述した“六大機関”である。具体的には、中央に党中央、全国人大常委会、国務院、全国政協、最高人民法院、最高人民検察院、地方に、党委、人大常委会、政府、政協、人民法院、人民検察院があり、そこに所属するものが公務員である。

参公管理

 それぞれの公務員は“級別”があるもの、逆に“級別”があるものすべてが公務員ということではない。《参公管理》と呼ばれる文字通り「参照《公務員法》管理」の人員は、公務員ではないものの、“級別”はある。共青団中央はその参公管理単位の代表例である。
 これらの機関は、下部組織として部門、単位を設置することができ、部門の下に部門、単位の下に単位を設けることができる。これら部門、単位系列が交錯することで中国の国家政治体系が形成されている。

まとめ


 国家級正職と副職がいわゆる「国家領導人」である。すなわち,中央政治局委員,全国人大常委会、国務院、全国政協、中央軍委の副職が主要領導と呼ばれ、国務委員、最高人民法院院長、最高人民検察院檢察長が国家級副職であり、国家級正職と副職が「国家領導人」である。中央政治局常委は国家級正職で中国の公務員職務序列の最高級である。李克強ポジションがここにあり、まさしく“正国級”だった。

  「国家領導人」以下の公務員は、中央にあっては部、局、処、科,地方にあっては省、市、県、郷で工作にあたり、それぞれの部(局、処、科)で主要領導となり、部(局、処、科)長および書記の2ポストが正職である。省(市、県、郷)の主要領導では、通常上記の「四大班子」の「一把手」の4ポストである。

 以上が基本であるが、個別の情況に応じた適用もある。その代表例が発展改革委員会で、その主任は正部級だが、6名の同委副主任もまた正部級である。このことから発改委の中国政治体系における重要性および臨機応変の幹部配置の柔軟性のほども理解されよう。この種の「正部級当副部長」は「高配」と称され、副市長が開発区の「一把手」となるようにヨリ高い「級」の幹部を重要ポストにを充てることをいうらしい。



   この外、多くの領導はいくつかのポストを兼任するのが通例で、例えば、中央政治 局委員が省委書記、共青団中央書記処書記が全国青連副主席、市委書記が市人代主任を兼務するのは常態でもある。複数の異なる級別のポストを兼任する際は、通常最高レベルが本人の級別と看做される。

    級別の名称はしばしば職名と一致するが、本質的に両者は同じものではない。工作崗位は具体的にして職務序列は全国に通用する体系だが、具体的な工作崗位の職務序列は具体的な分析が必要だ。例えば、「」の場合、国家総局は一般に正部級だが、国家局は通常副部級であり、部委直属の局は局級、地級市直属の局は処級である。同じ「局長」であっても、正部級から副科級までさまざまである。

   更に、「」でも、直轄市は省級であり、計画単列市は副省級、地級市は庁級、県市は県級である。「市長」も、正部級から副処級までのさまざまな級別がある。「市」では、副省級市の場合、その級別は複雑で、中国には15の副省級市(広州、深圳、南京、武漢、瀋陽、西安、成都、済南、杭州、哈爾濱、長春、大連、青島、廈門、寧波)があるが、これらの都市は省会もあれば、計画単列市もある。その党政機関の主要領導の行政級別は副省部級だが、その所轄の各部門、単位、区県の級別は一般の地級市のそれとは異なり、一般の地級市の同一崗位より高い。

 さすがは九品中正制の伝統の中国、何とも複雑怪奇なシステム、外部者は眼眩むのみだが、中国の当事者はこの魑魅魍魎世界に棲息、サバイバルを賭けた戦いに日々挑み続けている。                                                    [了]


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