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和製漢語なかりせば...

日本製中国語が7割!

 日本なかりせば、中国には「科学」も「哲学」もない。というのも、古代中国から伝来した漢字を用いて、明治維新後、西洋事物導入のため日本が独自に編み出した漢語が中国に逆輸入されていたからだ。科学、哲学、文化、時間、経済、革命、銀行…これら日本製漢語の逆輸入なくしては、中国には「社会主義」も「共産党」も、「革命」もなければ、「人民」も「共和国」もあり得なかった! 
 日本固有の「相扑」、「歌舞伎」、「教科书」は固より、「取消」、「取缔」、「手续」、「营业」、「伦理」、「抽象」、「不动产」、「博士」、「代数」、「化学」、「派出所」、「瓦斯」、「淋巴」等等、日本における欧米語の音訳、和訳語が現代中国語の日常会話にもそのまま用いられている。

 かつて日本側が中国の知的財産権侵害を追及した際「ならば、漢字の使用料二千年分払って貰おう」と言い返されたとも、まことしやかに伝えられるが、どっちもどっち、日中は漢字を介在項として深い関わりを持っている。

 文化史専門の王彬彬・南京大学教授は、中国の社会人文科学分野で今使われている学術用語のなんと70%が“日本語外来語”だという。

 だが、考えてみよう。どのような日本語の語句を中国語における日本語由来の外来語と看做すべきなのか、日本経由の語を中国語の外来語と看做せるのか、外来語かどうかの判断基準は「音の借用」か「形の借用」か、それとも「意味の借用」か、あるいはこれら何れかの結合なのか…
    漢字こそわが中国のもの、日本如き周辺からの逆輸入の漢語なぞと認めるものかという、それこそ偉大なる中華の沽券に関わるとの《自豪感》、文化的優越感情もそこにはあるのかも知れないが^^

 こうした言語学分野固有の伝統的テーマを、現代漢語研究者、楊文全・西南大学語言学教授が楊昊・四川大学計算機学院講師との共著『当代漢語日源外来语研究』(四川大学出版社、2021)で俎上に載せている。

 楊・楊は、「外来語」を意訳語と音訳語およびその混合等に分類した上で、各形態の「日源語」が漢語世界へと導入される軌跡を辿る。それによれば、清末民初期の2,738語の外来語のうち49.1%が日本語由来だったという。日本経由の「西学東漸」熱がその背景だが、百年後の2012年の新造語では、英語由来が81.6%と断トツ、日本語由来は14.6%に低下している。近頃の日本語自身のカタカナ語の急増もその一因だろうか、「言語と社会の連動」に着目する楊教授は、既に大発展を遂げた中国にとって和製漢語ルートの日本からの事物の導入需要は低下しているからだと指摘している。

 ただ、ネット社会の浸透というまさしく現代的特性から、「萌」「宅」等の日本発のネット語の浸透も著しい。中国のネット世界をサーフする際、訳の分からぬコトバの多くが今や日本のネット表現が多い。オトナ世代の学術世界では英語由来の新造語が幅を利かす一方で、ヤング世代のネット空間にあっては日本のネット語が席巻するというまさに“代溝“(ジェネレーション・ギャップ)現象が現代中国の漢字世界を覆っている。
                                                                                                                                 [了]


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