人らしく生きるために戦った若者たちの話 太田愛著「未明の砦」
ミニチュア作家のいわなり ちさとです。
紹介した作品は販売します。気軽にお問い合わせください。
この本のことをどこで知ったのかすっかり忘れてしまったけれど、”読みたい”と強く思ったのだけは覚えています。
作中の自動車メーカーのトップは工場の労働者など人として見ようともせず、儲けるための手駒として使い捨てにして、何の痛痒も感じない人物。
そんな工場で派遣や期間工として働く、長期休みの時も帰る場所のない矢上、脇、秋山、泉原の4人を一人の正社員の男性 玄羽が自分のセカンドハウスに誘ってくれたところから話は始まります。
小説は時を行き来し、登場人物がだんだんと増えていきます。
少しの手伝いさえすればあとはどう過ごしてもいいと言われた夏休み。
しかし、ふとしたきっかけから彼らは自分の会社のありようや労働者の権利などについて勉強を重ねていきます。
セカンドハウスの近くに玄羽の親族が所有する私設の図書館のような文庫があったことが幸いし、4人はそこでそれぞれの興味のある切り口からむさぼるように本を読み、知識を増やしていきます。
夏休みが終わったある日、彼ら4人を誘ってくれた玄羽はラインを離れ、仕事が終わっても工場に帰ってくることはありませんでした。
心配する矢上たち。
ラインを離れた玄羽は医務室で治療されることすらなく休憩室で一人横になったまま亡くなっていたのです。
そして、その事実を会社は隠そうとします。
亡くなった玄羽は過労死した正社員の妻が起こそうとしている裁判で会社に都合の悪い証言をする予定でした。
会社側にすると証人が亡くなり、裁判準備も止まるという都合のいい状況になったわけです。
矢上らは玄羽の死を認め、謝罪してほしいと思いました。一つの駒ではないのだからと。
その思いから労働組合を作ります。最初はたった4人の組合。
相談に乗ってくれたはるかぜユニオンの國木田の的確なアドバイスを受けて、巨大企業ユシマという自動車会社を相手どって戦いを挑んでいきます。
会社は警察に手をまわし、警察もいいタイミングだとばかりに共謀罪で逮捕しようと動き出します。
作中で公安警察の課長は”政治家という名の利権分配屋は何をしても処罰されることなく、もはや法治国家でさえなくなりつつある。“と述懐します。去年書かれたこの作品はまさに今を描いているということです。
別の場面でも”可能なかぎり裁判を長引かせる。つまり、時間をかけて世間に忘れさせるのだ(中略)みんながそう考えていると思えば、なんとなく自分もそう考える。そう考えるのが正しいような気になる。それが今ある世間だ”と今の日本を分析しています。
みんなと一緒だと安心する。
自分で考えず、報道に導かれて疑問をもたない毎日。
流行病のころも同じ風潮でした。
ストーリーは希望を感じさせるものでした。こうもうまくいくのかなという思いもよぎるくらい。
なにより、今の日本の在り方を鋭く指摘している描写に読み応えを感じました。
私たちは小説だからと流さずに、今なにができるか、なにをすべきかを自分に問うべき時だと私は思いました。
自分の人生を人任せにせずに選び取るために考え、行動したいものだとも思います。
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