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市川雷蔵『中山七里』(1962年公開)

橋幸夫が歌うテーマ曲も、映画と同じタイトルの『中山七里』という。この映画のための曲なので、1番2番3番と、歌詞が映画のストーリーに綺麗に沿っている。

1番では、政吉が愛しい女性「おしま」を失って旅へ出る悲しみ。
2番では失った「おしま」とよく似た女性への葛藤。
3番では出会った人々を助けて、自らは再び孤独な旅に出る政吉の姿が歌われている。

このテーマ曲が、映画の展開の節目に入ってくるのに加え、随所でダダダーンと主張の強い入り方をしてくる。
〈音楽もわかりやすく芝居をしている〉という感じ。

決闘のシーンでは逆に、風の音がメインの静けさになる。
途中、茅葺き屋根の大きな家が倒れるシーンがあり、ここは音も大迫力だ。

立ち廻りは思ったほど速くもないし凝った動きもない。それでもまあ、これまでを考えれば面白みが多少あるとは思う。
個人的には『切られ与三郎』の、中村玉緒と逃げようとする屋内での立ち廻りのほうが、狭い建物の中で大勢が動くので中で迫力があった。

雷蔵演じる政吉が、みんなと別れて去っていくシーンは切ない。
どんなに似ていても、おしまとおなか(中村玉緒の二役)は違う女性なのだという切ない横顔は、やはり放っておけない美しさ。

『中山七里』DVDジャケット

おしま役の中村玉緒は、このとき妊娠していたそうだ。
おしまと政吉の仲を邪魔する男と、揉み合いになるシーンもあるので、撮影は大変だったろうなぁ。

DVDには特典映像として、場面写真のほかに現場風景の写真もある。

キャストと監督が話していたりする中に、玉緒のそばに勝新がいる写真もあったりして、微笑ましい。
そういう現場風景で、雷蔵も勝新もビシッとカッコよくスーツを着ているのに目がいく。

当時の映画スターは、常にカッコよく決めていないといけなかったのかな? 大変だろうな。

『中山七里』は長谷川伸の作品で、歌舞伎にもあるが、おそらくわたしは見たことがない。『暗闇の丑松』、『一本刀土俵入』は観た記憶がある。単に記憶がないのか、タイミングが合わず観られなかったのかわからない。

この映画も、市川雷蔵が主演でなければ見なかった題材で、あらすじにこれといって感動とか面白い部分があるわけでもない。

ただ、政吉が夜に野宿する中で、森から星を見上げて話すシーンがある。
あそこに「おしま」がいるんだと思えば、少しは心が落ち着くのだ、と静かに言って、遠い夜空を見上げる雷蔵の瞳は、星よりも美しかった。

あの政吉を見て、おなか(中村玉緒の二役)はよく最後まで政吉に鞍替えしなかったなと思う。

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