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目が喜ぶ『神田祭』と『於久松色読販』 2024年 四月大歌舞伎 夜の部

四月、歌舞伎座の夜の部を観てきました。
いやあ、眼福、眼福。


『於染久松色読販』

玉三郎の土手のお六、生で再び見られて嬉しい。
伝法な口調と仇っぽさに加え、凄味の増した強請り場が刺激的だった。

仁左衛門の鬼門の喜兵衛も、莨屋の場での登場の凄みといい、久作の災難を聞いてこれは使えるぞと油断なく光る目といい、恐ろしい。

莨屋の場面は、久作の話を聞いてお六と喜兵衛がわずかに視線を交わし、互いに企みがあると通じ合うところにゾクゾクする。

玉三郎のお六はDVD『お染の七役』もある(喜兵衛は12代目團十郎)。
莨屋も強請り場も入っているけど、やはりカメラの範囲だけでなく、観たい人物に目をやれるのが劇場で観る良さだ。
(歌舞伎も、マルチアングルとか出して欲しい)

髪結が中村福之助(芝翫の次男)。若くてポンポンとものを言う髪結の性質と、すっきりした立ち姿が良かった。

番頭の善六役は片岡千次郎。片岡我當のお弟子さんらしい。
妙見の場では最初、善六ってこんなアッパーな感じだっけ?と思ったのだけど。

刀の折紙の隠し場所を探すときの歌の節回しが上手い、弥忠太が呼んでいると連れて行かれる時の歌への拍子もぴったり、油屋の場面でも小僧さんへの独特の掛け声が心地いい。
片岡千壽といい、松嶋屋のお弟子さんは個性豊かで面白い。

登場人物のほとんどが揃う、油屋の強請り場は本当に面白かった。
周りの登場人物も魅力的だったのが大きい。

中村錦之助の、柔和だが侮れない明晰さの山家屋清兵衛。
とにかくいい声、坂東彦三郎の油屋太郎七。
(この2人、逆の配役もありでは?と思うのだけど、お互いちょっとイメージが違う役なのが却って面白かった。)
小さいのに芝居に余裕を感じる丁稚長太。
どの役もうまくはまって、心地いい舞台だった。

喜兵衛とお六が2人で駕籠を担ぐところも、やっぱり特別感がある。
しかも玉三郎がほんと見事に、ハラハラするぐらい見事によろめく。
後ろで支える仁左衛門と呼吸が合ってなきゃできないよなあ…と感動。

『神田祭』

そうだった、と見ている間に思い出した。
この2人はこんな感じだ。
あつあつで、距離が近くて、同じ呼吸でいる。

セリフはないのに聞こえて来そうに、仲睦まじく、照れて可愛らしく、喜ばしい。

特に、仁左衛門の鳶頭の「ちょっと、そこのいてくれ」という仕草に、両手を広げて、「だめ」と小さく首を振って通せんぼの芸者玉三郎が可愛い。

玉三郎の、甘えた、年下っぽい役は可愛すぎて、相手役にはどうしたって、惚れられるだけの素敵さが求められる。相手が仁左衛門のとき、掛け合いの呼吸の良さといい、この受け止め具合というのか納得感が、格別だ。

背景の書き割りも美しい。
大通りの両脇に、「御祭」の幟が立って、遠くに山が見えて、提灯の赤が華やか。
賑やかな神田祭の中、一際すっきり美しい2人が、仲良く戯れる様子は粋で幸福。

そして花道。
仲睦まじく、一階から三階まで順に顔を見せてくれる。
互いに服装を整えて、いやどうも、と照れまくり、2人でじゃらついて、どうもどうも、と手を合わせたり腰を落としたり。

この2人には、他のどのコンビも到達できない、役柄の親密さ、濃さ、華やかさがある。

そして2人を見つめる観客席から、溢れに溢れて劇場全体に響くような喜び、感嘆。これもまた独特だ。

『四季』

夜の部の最後。
「春」は尾上菊之助の女雛がとても風情がよく。
「秋」は片岡孝太郎。異国っぽさ漂う白と銀の衣装が似合って、立ち姿がすらりと美しかった。

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