陽性には遭いたくないけど、妖精には会いたい~FAIRYTRAIL参戦記その2~
参戦記1から時間がたってしまいましたが、ようやく書き終えました。
もう忘れ去られていると思いますが、来年に向けての忘備録として残しておきます。
【参戦記1からの続き】
トレイル区間に入り、上りに差し掛かったころ、ロードで抜かれた選手たちに追いつき、前の選手を一人づつパスしていく。
心拍は上がるが、ロードで敵わない分、トレイルで順位もタイムも稼ぐしかない。
「お疲れ様です、スミマセン先行きます」
目の前の選手に声を掛け、パスしようとしたとき、
「もしかしてベルさんですか」
と声を掛けられた。
ゼッケンの名前で身バレしたかと思い、ツイッターとかインスタとかのSNS見てくれているのかと伺ったら、SNSはされていないようで、ポッドキャストのリスナーさんとのこと。
ツイッターでしか告知していないはずなのに、どうやって知ったのか、その場では聞けなかったので謎のままだが、声でバレたのだろうか。
とにかく声を掛けられたことが嬉しくて、しばしお話ししながらトレイルを進む。
トレイルに入ってアドレナリンもあふれ出し、声を掛けられた嬉しさもあってペースがどんどん上がっていく、高度も気分も上昇してきた。
ふと前を見ると下家選手の後姿が見える。
「あれ、調子悪いのか、追いついたぞ」
そう思って追いかけるも、なかなか追いつかない。
余裕で歩いているようにも見えるが、それでも速い。
トレイルに入った時、前に10人はいたはずで、ここまで4~5人は抜いたので、今は5番手くらいかな。とすれば、下家選手の前にもトップ集団がいるのかも。
そう思いながらピークに差し掛かる。
「トップとの差8分半ですよー」
コース誘導のスタッフが教えてくれた。
えっ、トップ差って何?今何番目ですか?
と聞くと、2位ですよ。と教えてもらう。
現在2番手。
予想外の順位に戸惑う。
通年のタイムなら8時間切りだと5番手くらいだが、自分のタイムはどうか。
最初のエイドに差し掛かり、時計を見ると、ほぼ設定どおりのサブ8時間を狙える通過タイムだった。
後ろは迫っているのか。
2番手なら少しペースを落としても5位以内には入れるのではないか。
いや、3位以下がダンゴ状態の超デッドヒートだとしたら、一気に順位が下がるのではないか。
煩悩と妄想が暴走し、余計なことを考えているうちにエイドに到着。
給水か、スルーか。
いつもなら、エイドの人と談笑し、元気をもらってスタートするのが自分のルーティーンだが、今日は勝負に徹したい。
「エイドはこちら、コースはこっちですよー」
誘導スタッフの声を受け、
「コースはこっちですね。ありがとうございます!」
とだけ言い残し、華麗にエイドスルーを決める。
よし、決まったぞ!
これでこそ2位の選手の為せる業だ。
と、カッコつけたものの、水は大丈夫なのか急に不安になっていると、1分もたたないうちに、エイドの歓声が聞こえる。
「後ろはめっちゃ迫られてるやん」
エイドからはロードの下り、後続選手の方が走力があるのでここで追いつかれるかもしれない。
ロードの下りでチラチラ後ろを振り返るが、後続選手の姿は見えない。
振り切ったのか?
どうしても後ろが気になり、自分のペースを見失っていたとき、林道の軽い上りで小枝に絡まり転倒しそうになる。
「あかんあかん、何を焦ってんねん。設定タイム通り淡々と。」
もう一度、自分に言い聞かせ、後ろを振り返ることなく、桑原エイドに到着。
「すごい!2位ですよ!」
脱水気味でフラフラになった体が、優しい言葉で蘇り、エイドスタッフが美しい妖精のように輝いて見える。
「何かお手伝いしましょうか、水は大丈夫ですか」
他の選手が誰もいない貸し切りエイドは本当に手厚い。
いつもは全部自分で準備しながら、会話だけ楽しむスタイルだったが、今日はワガママを言わせてもらおう。
「これに水と、こっちにはコーラとグリーンダカラを半分半分で割って入れてください」
先日の彩の国100mileで優勝した小原選手が、粉飴にグリーンダカラを入れて行動食にしている。
と言うのを思い出し、エイドにグリーンダカラがあったので、コーラで割ってみた。
これが大正解で、甘すぎず、炭酸も程よく抜けてめっちゃ美味い。
「ダカラ割りって、初めて見ました。いつも飲んでるんですか?」
「いや、僕も初めてなんです。今思いつきました。笑」
軽い笑いをとったところで、エイドでの目的は達成。
桑原のエイドは地元の食材を使ったジビエや山菜の天ぷらが置いてあるが、これは酒の肴にピッタリなので、後夜祭でいただきますと言い残し、エイドを後にする。
ここから先の丹波越えは、shiga1の時に迷いまくった区間。
今日はコーステープがあるので絶対に迷わないが、それにしても、不明瞭なトレイルで、迷いそうになる。
shiga1のときにこの区間を切り抜けられたのは、執念だったのか、夢の中だったのか。
shiga1全編はこちら
↓
https://www.youtube.com/watch?v=Bsiy2o9VElI
ロードに出て、小川集会所に近づく。
shiga1の時は夢の中だったが、今日はハッキリと意識があり、まだ2位をキープしている。
小川エイドでは、大勢の妖精、いや、スタッフに迎えられた。
スタッフの中に混じり、鏑木さんの姿も見える。
「ここから先はキツイからねー。しっかり補給したほうがいいよ。まぁ、水が切れたら沢水飲んでもいいけど。」
いや、沢水は飲みませんけど。
と心の中で突っ込みながら、さすが鏑木さんは偉大だと思った。
鏑木さんのアドバイス通り、ここでしっかりと補給したい。
エイドを見渡すと美味しそうなメニューがずらり。
ホントは長居して全部食べたいが、後ろが気になるので最低限の補給で先を急ぎたい。
ここでもワガママをお願いし、コーラのグリーンダカラ割を入れてもらっている間に、食べられるだけ食べてやろうと片っ端からモグモグする。
・バナナに塩を付けて食べる「塩バナナ」
・塩で満たされた口に頬張る「おはぎ」
・日本人のパワーの源「おにぎり」
おにぎりが美味し過ぎたので、両手に握りしめ、エイドを後にした。
大歓声に見送られ、お腹も心も満たされながら急登に挑む。
ここもshiga1の時に迷いまくった区間。
FAIRYTRAILのコーステープが幻想的な森の中で妖精のように揺らめいている。
素晴らしい景観とは裏腹に、苔むした岩場で渡渉を繰り返し、沢沿いの急登を登っていく。
この区間は毎年ヤマビルに血ィを吸われてしまう区間だが、今年はこれでもかというくらいヤマビルファイターを塗布して対策してきたので大丈夫。
だったはずだが、レース後に靴の中からヒルがモゾモゾ出てきたのには驚いた。
美しい森を抜け、ロングコースと合流する。
走れそうで走れない登り勾配を足を止めずに消化していくと、後ろからものすごい勢いで選手が近づいてきた。
追いつかれた!?と振り返ると、
「ロングだから大丈夫ですよー」
と良く通る大きな声が聞こえる。土井選手だ。
あっという間に追いつかれ、
「スーパーロングきついですよね。」
「もう足が終わりました。前には下家さんがいます」
「ということは2位ですね。あと半分ですよ。2位を死守です!」
という会話の後、颯爽と走り去っていった。
これが世界の走りか。
しっかりと目に焼き付ける。
そういえば、ザックも背負っていない。
必携品はパンツの中だろうか。
少し気になった。
栃生に到着、暑い。
汗なのか、頭からかぶった水なのか、全身ビショビショだ。
エンドではしっかり補給して、最後の区間に挑もうと考えていたが、エイドが近づくにつれて大歓声で迎えられる。
大ギャラリーの中には鏑木さんの姿もあった。
ショートクラスのスタート直後だったので、スタッフが大勢いて、大歓声になっていたようだ。
「スーパーロング2位が到着ですよー」
思いがけない歓声に戸惑いながらも、ここは2位としてのエイドワークをお見せしなければ。
謎の使命感に駆られながらも、お目当てのトチ餅を探す。
あれっ、お餅が無い。
「今年は置いてないんですよー。代わりに”なれ寿司”がありますよー」
お目当ては無かったが、なれ寿司もありがたい。
この後の上り坂で走りながら食べようと思い、1パックいただいてエイドを出発。
エイドを出るときに、鏑木さんから
「ショートの選手を抜き放題ですよ!」
と、またまたありがたいアドバイスをいただいた。
最初は何のこっちゃと思ったが、国道を渡る渡渉(川の中)コースに差し掛かりビックリ!
川の中がショートの選手で埋め尽くされている。
ショートの選手はスタートしたばかりなので、濡れないように川の淵を進んでいくが、こちらは全身ビシャビシャなのでお構いなしに川のど真ん中をジャブジャブ走る。
まるでヨーローッパのトレランレースのように、川の淵からショート選手の大歓声を受けて、火照ったカラダを川の水で冷やしながら、なれ寿司を片手に進んでいる姿が心地よくて、終始ニヤニヤしていた。
この歓声が、このあとの上り坂でも続き、緩斜面の登りを歩いているショートの選手を次々とパスしていく。
「おー、スゲー、走ってる」
「頑張ってください!」
ありがとうございます!
声援に応えるも、ショート選手の列がどこまでも続くので歩けない。
これはキツい、でもタイムを狙う身としてはありがたい。
山頂に近づくと、選手もばらけてきて、ショートの選手も簡単には抜けなくなる。
後ろから「先行きます」とお声がけして抜かせてもらう。
それを繰り返すが、徐々に順位競争をしているショートの選手と勘違いされ、抜かせまいとしてブロックされるようになってきた。
何とかリズムを保とうと、本来はNGと思いながらも、少しトレイルを外れて無理に追い越しを掛けようとした瞬間、木の根に躓いて空中一回転のアクロバティック技を披露してしまう。
幸いにも、顔面スライディングではなく、一回転で背中とお尻から着地したので、これがスーパーロングの技だ!と言わんばかりに何事も無かったかのようにリスタート。
既に足が限界を超えて、悲鳴を上げている。
これ以上ペースを上げると、両足が攣ってしまい、立ち直れないくらいのダメージを受けてしまう。
蛇谷ヶ峰まであと少し、ピークを越えると残りは下りなので何とかなる。
最後の力を振り絞りながらも、力を分散させ、攣らない程度のペースで淡々と進んでいると、目の前に、他のショートの選手とは違ったオーラを放つランナーが。
なんと、石川弘樹さんだ!
声を掛けると気さくに応じていただき、
「スーパーロング?すごいね。今何時間くらい?」
「ちょうど7時間です。足は大丈夫なんですか?」
「上りはいいんだけど、下りでスピードが出せないんだよ。」
「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「2位でしょ。時間もったいないよ。」
と、言われながらも、こんな機会は2度とないので、写真をパチリ。
その後、ありがとうございました!それではお先です。
と、声を掛け、再び走り出すも、石川選手との差が広がらない。
石川選手の言葉通り、上りのペースはほとんど変わらなかった。
やはりレジェンド、人工関節からのリハビリなのに、レベルの違いを見せつけられた。
下りに差し掛かり、ようやく石川選手との差が広がり、あとはゴールを目指すだけ。
スキー場エイドでコーラを少しだけ補給し、時計に目をやると8時間切りも見えてきた。
足は悲鳴を上げているが、後ろがどれだけ迫っているか分からない。
ここで抜かれるのは絶対にイヤだ。
自分の目標タイムを追いかけ、後続から逃げるようにラストスパート。
ゴールゲートが見え、DJの方がスーパーロング2位がゴールです!のアナウンスを受けてフィニッシュ!
フィニッシュ後にインタビューを受けたが、何を聞かれても
「キツかったー」
しか言えなかったのは、今後の課題ですね。
ゴール後は魂が抜けたように座り込み、心地よい疲労感を感じながら余韻に浸っていた。
絶対に諦めない。
何度も心の中で叫び、そして出し切った。
自分で設定した8時間という壁も乗り越えた。
初めて出場した2016年には、夢のまた夢だと思っていた表彰台にも立つことが叶い、2位というご褒美までいただいた。
本当に現実だったのか。
夢心地を証明してくれるはずの写真、特に表彰式の写真が一切無くて、SNSもめっちゃ探したけど見当たらない。
ブログの最後は表彰式の写真で締めくくりたくて、投稿まで2ヶ月かかってしまいましたが、やっぱりどこにも見当たらないので、夢だったのかもしれません。
妖精さんのサポートを力に変えて、表彰台の写真を撮ってもらえるように、また来年も参加したいと思います。
ありがとうございました。(完)
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