見出し画像

スタンド・バイ・ミー

美しくもほろ苦い思い出

最近、松本潤が主演のNHKドラマで「はじまりの歌」と言うのを見る機会があった。

あらすじについては、NHKのウェブページで以下のように説明がされているので引用する。
『カメラマンの中原航(松本潤)は雑誌の仕事で10年ぶりに故郷・山口県萩市に帰ってきた。実家の父・弘(國村準)は小さな渡し舟の船頭をやっており、姉の美波(戸田菜穂)は小学生の息子・蒼太(鏑木海智)を連れて出戻っていた。母校の小学校で航は、幼馴染の教師・夏香(榮倉奈々)に再会する。夏香は小学校時代の合唱仲間で、かつては教師になる夢を共有した恋人だった。母校を再び合唱コンクールに出場させたいと指導に熱中する夏香に頼まれ、なぜか航は伴奏ピアノを弾くことになってしまう。合唱コンクール出場を目指す小学生たち、元彼女の小学校教師、幼馴染や家族と触れ合い、再び人生の夢を取り戻していく。』(https://www.nhk.jp/g/blog/rzhejjdz1b/

ドラマの構成の素晴らしさもさることながら、この中で、最も記憶を呼び起こされたことがある。それは、主人公の甥が合唱部で思いを寄せている女の子への気持ちを叫ぶシーンである。菊ケ浜の波打ち際で。ボソッと叫ぶ甥に対して主人公の松潤が声が小さいもっと大きくもっと、と笑いながら煽る。すると、甥の声がだんだんと大きくなり、最後には自信をもって大きな声で気持ちを言葉にして海に向かって叫び、次のシーンに移るのである。

このシーンを見たとき、自分が中学2年生のときにみんなで行った臨海学校の時のことを思い出した。美しくもほろ苦い思い出である。

ホームルームにて

それは中学2年の7月上旬のこと。担任が、ホームルームのときに、夏休みの校外学習の一環として、林間学校と臨海学校をやりたいと提案してきた。林間学校?臨海学校?初めて聞く学校だけどそれって何だ?みんなが同じ疑問を持ったに違いない。

担任は、ゆっくりと林間学校と臨海学校の意味や趣旨を説明し、生徒の参加を募る。他のクラスとの共同開催だったと記憶する。臨海学校で集まった男子生徒は30人ほど。女子生徒用には別の校外学習の案内が用意されていたと思う。

いずれにしても、14歳で多感な年頃。大人への過渡期でもあり、親から独立したがる時期でもあり、未知のものに興味を持ち始める年頃である。
各々、想像を膨らませながらその日を待つ。

出発の日

いよいよ出発の日がやってくる。私の中学校は、2020年7月の豪雨による球磨川の氾濫で被害を被った坂本という地区にある。この地区は球磨川の流域にあり、周り殆どが山であるため、ほとんどの男子生徒は山を中心とした生活には慣れているが、海の近くで過ごした経験はない。そういうこともあって、坂本駅の駅舎では、興奮冷めやらない感じで汽車の出発時刻を待つ。

メンバーの点呼が行われ、全員が揃っていることを確認した教諭が出発を告げ、生徒たちは一目散に汽車に駆け込む。旅の始まりだ。が、スケジュール的には、2駅乗って鹿児島本線下りのディーゼル式の電車に乗り換えねばならない。

ほどなく乗換駅である八代駅に着き、階段を上って違うホームに行き、点呼を終えて乗り換える。そして、いよいよ出発。ここから先は、車窓から見える景色は、おそらくみんな初めて見る景色となるに違いない。目が輝いている。

ゲームをしよう

車窓に近づいては離れていく景色は初めてのものばかり。だが、景色を見るのはある意味単調なことの繰り返しなので、時間が過ぎると飽きてくるものだ。だれとは無しに「なにかゲームしよう」と言う話になった。だいたいは、こんな時に提案されるゲームは経験上際どいものが多い。当時はそこまで予想できなかったが。

そこで、みんなに人気があったリーダー格の生徒が、いたずらっぽい表情で「よしっ、窓を開けて、外に向かって好きな女の子の名前を叫ぼう!!」と提案。

自分としては、やってやるぞと言う気持ちだったのですかさず手を挙げた。まさか、この提案に乗って来る奴いないだろうと思って眺めてみると、周りにいた5~6人が手を挙げているではないか。修学旅行の枕投げのような気持なのか、旅の恥はかき捨てのような気持なのか、みんな大胆になる。

そして、窓を一斉に開け放ち、おのおの大声で外の風景に向かって好きな女の子の名前を叫ぶ。自分も、「〇山〇美ぃぃぃぃぃ!!!」と恥ずかしさをこらえながら大きな声で叫ぶ。中には、トンネルに入ると叫ぶやつもいる。電車の音と自分の声がトンネルに反射して、言ってる名前が聞こえないのを狙って。

結局、普通に叫んだ奴だけが叫び損で、臨海学校中および夏休みがあけてからもしばらくは冷やかされていた。だが、叫んだ当の本人はと言えば、なぜかもやもやとしていたようなものがなくなって、すっきりとした感覚だったことを覚えている。

キャンプ場へ

もちろん、臨海学校はそれから始まる。

電車は、肥後田浦と言うところに着き、バスで海水浴場を目指す。その海水浴場から船に乗って小さな砂浜のある入り江に移動。着いたところは町営のキャンプ場。海から、40メートルほどはなれたところから緩やかな斜面になっており、そこにテントを設営する。班に分かれていくつものテントを設営した。

夜はキャンプファイヤーをやり、みんなで歌も歌った。周りは真っ暗で、海を見ると漁火が水平線に浮かぶのが見えた。寝に入るとき、寄せては返す波の音が聞こえて来て、遠いところに来たんだなぁと、寂しくなる。人が恋しくなる14の夏の夜。

ここに用いた画像は、海水浴場から見える島である。キャンプ場からはその島は真正面に見えた。ついでに言うと、2日目はその島へ泳げる生徒全員で遠泳を行った。初めての海で泳ぐ経験だった。

たかがこれだけのことであるが、NHKドラマ「はじまりの歌」を見たときにこのことが50数年の時を超えて思い出された。美しくもほろ苦い思い出である。そして、なぜか、この光景を思い浮かべるとき、Ben E. Kingの「スタンド・バイ・ミー」の歌が頭の中で繰り返し流れている。

When the night has come 
And the land is dark
And the moon is the only light we see
No, I won't be afraid
Oh, I won't be afraid
Just as long as you stand, stand by me,
So darling, darling
Stand by me, Oh stand by me
Oh, stand, Stand by me
Stand by me...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?