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革のおはなし-12

洋刃物と和刃物についてはご存知の方も多いと思う。

そう、「両刃」と「片刃」の刃物のことである。

日本の刃物の文化は片刃の文化であり、包丁やノミ、ノコギリでさえ片刃の組み合わせで出来ている。

これに対し洋刃物は両刃のものが多い。

この二つは使い方に相異がある。片刃の刃物はその特性から垂直に刃を立てて物を切ると切り口が斜めに傾いてしまう。だから切り口を真っ直ぐ垂直にするためには刃を傾けて切る必要がある。

それに対して両刃の刃物は垂直に立てて切れば、そのまま切り口も垂直になる。

片刃の刃物は刃がついている側を丹念に研ぎ、反対面は研ぐことで出たバリ(反り返り)の部分を落とすだけで、薄手の刃物が多い。

これに対して両刃の刃物は両側を研ぐため、バリの出方は少ないが、刃先だけを両側から研ぐため、すり減り方を考えて厚手の刃物が多くなる。

さて、革包丁は日本の職人が伝統の技で作り上げたもので、かつては日本刀と同じような鍛え方で「青鋼(あおはがね)」と呼ばれる強靭なハガネで作られていた。これを片刃に研ぎ上げるため、やはり刃をやや傾けて裁断をする。

革包丁は独特の形をしているが、これによく似た日本の刃物では「帯包丁」がある。帯包丁は厚みもあり硬さもある着物の「帯」に使われている素材を断ち切るための刃物で、このような形状が上部から下に向かって押し切りするのに向いていることがわかる。

またヨーロッパでは布を曲線に切るために用いられるラウンドナイフがある。ラウンドナイフは刃が緩やかな曲線で、回し捻るように使うことで曲線を切るのに向いている。

共通しているのはカット用のテーブルなどの上に素材を置いて切ることと、上から下に向かって圧力をかけて切る点で、手首を左右に振ることが出来る点などが挙げられる。

革包丁の使い方で特徴的なのは包丁そのものは真っ直ぐに手前に引きながら使って、カーブを切る場合は材料そのものを回しながら切るということ。だから、下に轢いているカッティングマットに入るキズは常に同じ方向の直線になるはず。

最初革包丁を使い始めた時に良くする失敗は、包丁を引いているのに素材が切れていないという状況。刃が素材の下まで届いていないことが多い。これは「切る」=「引く」という先入観が引き起こすもので、革包丁の場合は「上から下に押す」という行為と「引く」という行為を同時にしなくてはならない。「押す」ことで刃が下まで届き、そのままの状態で「引く」ことで革を裁断することができる。

革によっては厚みが3mm〜5mmもあり、ちょっとしたベニヤ板ぐらいの厚みと強度がある。これを革包丁で手で切るには熟練の技術が必要になる。

ノコギリみたいなもので切った方が早い?と思われるかもしれないが、良く研いだ革包丁で切った革の切り口(コバ)は美しくて滑らか。これが、この後のコバ磨きの時に重要になってくる。

コバ磨きするまでもなく革包丁で切った切り口は艶があり美しいが、ここをロウや樹脂を含む液を染み込ませて磨くことは「美しく整える」以外にも「水分の染み込みを抑える」など別の意味を持つ。

木材より水分を含みやすい革は、雨の日などに処理せず使っているとシミになったり、変色・変形する原因になる。水分を含んだヌメ革を折り曲げた状態でそのまま放置すると、折曲がった状態から元に戻らなくなる。これは革が粘土と同じ「可変性」を持っていることで起こる現象で、逆にこの性質を利用して革を整形する技術もある。

革包丁の話に戻ろう。多くの職人は現在は厚めのカッターナイフで革を裁断することが増えている。革包丁のように常に研いでおく必要もないし、ある程度のカーブであれば素材を動かさずに切ることもできる。

しかし、使い慣れた革包丁のように手に馴染んで切れ味が抜群に良いわけでもないが「刃を研ぐ」にも修練が必要で、それを望まないなら刃を折るだけである程度の切れ味を望めるカッターナイフは便利な道具と言える。

革と内張り用の素材の裁断が終われば、次は裏地の張り込み。そしていよいよ縫製に入る。

今回は「手縫い」の技術について解説したいと思う。

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