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Lesson 17: 説得のコンテクスト①

最後にしたいことは明らかになったので、セクションの前半部分に移りましょう。このレッスンからは「説得のコンテクスト」を掘り下げます。

コンテクスト①:本番の形式

まず、本番の形式を記入していきます。該当するものに○をつけていきましょう。
なお、厳密には、本番の形式はコンテクストではなくレトリック(メディア)の一部です。本番の形式次第で、伝わり方は変わりますからね。

つまり、本来、本番の形式は「コンテクストを受けて決めるもの」です。

しかし、実態としては、これらの項目は組織や上司の都合で決められることがほとんどでしょう。よって、ここでは「本番の形式はコンテクストである」としました。

もしあなたが本番の形式に関する決定権を持っているなら、このセクションは飛ばして、本番の形式は「2-2. 具体的な方針」とセットで決めてください。常に決定権があるなら、別の設計シートを使うべきです(そちらも「別ver」としてファイルに含めてあります)。

決定権がない場合は、そのまま記入すればOKです。ただし、決められている内容がその他のコンテクストと乖離している可能性はあります(例:論理性に寄せるべき状況なのに、参加者が多すぎる)。その場合、①自分が決められる部分でバランスをとる、②決定権を持つ人に相談する、といった対応をとってください。

では、詳細を見ていきましょう。

時間

まず、時間に関しては以下の点を記入しておきましょう。

  • 本番を行う日時

  • 本番の長さ

  • 本番のうち、プレゼンにあてる時間

    • 会議であれば、ざっくり「会議時間の半分」くらいを目安にするのがオススメです(議論・質疑応答を長めにする)

特に、「本番の長さ」に注意してください。短い時間しかもらえないなら、説得を分かりやすさに寄せるしかありません。ズバッと主張を述べて、根拠も最小限にするなどの工夫をしましょう。資料も大半は「補足資料」セクションにまわして、質問されたら答える扱いにすべきです。

形態

次に、今回の説得の形態に該当するものに○をつけてください。ほとんどの場合は(本書の定義する)会議かセミナーのどちらかになるはずですが、「書籍」や「Web記事」といった形態でもこのシートは使えます(※)。

※ただし、後半の「具体的な方針」の詳細(スタイル部分)が文書かパッケージというメディアを想定しているので、ズレはあります。資料以外のメディアを多用する人は、シートを改変してください。

参加者の数

会議やセミナーの場合は、参加者の数を見積もっておきましょう。

セミナーの場合は、参加者の数が多いほど、説得を分かりやすさに寄せます。受け手の質のバラつきが大きくなりますし、会場が大きくなるほど、分かりやすい資料(スライド)でないと見えません。

会議の場合は、参加者の数は特に考慮する必要はありません。会議では、メインターゲットである受け手は決裁権を持つ1人(せいぜい数人)に絞り込めることがほとんどです。他の参加者がどれだけいようと、メインターゲットに対してベストなLUバランスを探してください。

資料の配布

最後に、資料の配布を考えましょう。

資料を配布するかに応じて変えるべきなのは、資料の情報密度、特にフォントサイズです。

Lesson 15で述べたとおり、基本のガイドラインは「資料を配布するなら14pt以下のフォントサイズを使えるが、配布しないなら16pt以上にしておくのが無難」です。

つまり、資料を配布する場合は、小さいフォントサイズを使って説得を論理性に寄せられます。ただし、これは「説得を論理性に寄せるべき」ということではありません。そうすべきかは他のコンテクストから総合的に判断してください。

以上、概要の書き方を説明しました。ここまでは「考える」というより「決まっていることを記入する」という感じなので、特に難しいことはないでしょう。

コンテクスト②:受け手

次に、受け手を分析しましょう。

当たり前ですが、受け手に合わせた説得をするのが大原則です。「イエス」と言うかは受け手にかかっているわけですからね。

ということで、受け手がどんな人なのかを考えていきましょう。なお、セミナーのように不特定多数の受け手を想定する場合は、「どんな受け手を説得したいか」と読み換えてください。

知的レベル

まず、受け手の知的レベルを考える必要があります。ちょっといやらしい話になりますが、これがLUバランスを決める最重要ポイントですのでご容赦ください。

率直に言って、受け手の知的レベルが低い場合、説得を論理性に寄せる意味はありません。論理が効かない(どういうことが「論理的」か分かっていない)からです。

よって、説得は分かりやすさに寄せるのが正解です。また、知的レベルが高い受け手に比べ、ブランドの重要性が高まります。スペックをアピールすることや、説得の最中に受け手に共感することを忘れないようにしましょう。


典型的なパターンだと、「俺はすごい。年収53億円だ。でも昔の俺は、いまのお前みたいにどうしようもなくダメな奴だった。だから大丈夫。俺の言うことを聞けば、必ずお前も成功する。So just believe me.」みたいな感じです。

こういう始まり方をする本、ありますよね。テンプレートになっている感すらあります。

私はこういう本は買いませんし、このようなスタイルの説得にとても抵抗がありますが、受け手によっては有効であることは否めません。

知的レベルを判断する方法

では、どのように受け手の知的レベルを判断すればよいのでしょう?

言うまでもなく、学歴立場は分かりやすい指標です。高偏差値の大学や大学院を出ている人は、知的レベルが高いと想定できます。また、大企業の社長や部長の知的レベルが低いことも考えにくいです。

シンプルな判断方法としては、「受け手は自分と同等、またはそれ以上の知的レベルか?」を考えてみるという手もあります。答えが「イエス」なら、フルパワーで論理性に寄せても問題ないでしょう。

私の位置づけ(ブランドの強さ)

次に、自分の位置づけを見積もりましょう。

これは「受け手にとって、自分は権威のある存在か」をハッキリさせるということです。これまでに学んだ言葉を使うなら、「最低限のブランドしかないのか、強いブランドがあるのか」と言い換えられます。

権威がある場合、説得を分かりやすさに寄せても構いません。あなたには権威があるため、受け手がロジックを無条件に受け入れやすい土壌ができています。分かりやすさに振った説得をしても、論理性の欠如を刺される心配は少ないでしょう。

逆に、権威がない場合は、説得を論理性に寄せたほうが安全です。あなたには権威がないので、受け手を説得するには論理に頼るしかありません。

自分の位置づけを判断する方法

自分の位置づけを明らかにするには、以下の2つの質問を考えてみてください。

  • 受け手はあなたのことを「先生」と呼ぶか? →「イエス」なら1点

  • 受け手には、あなたの説得(本番)を中断する権利があるか? →「ノー」なら1点

もし1点でも入ったなら、あなたは受け手から見て権威がある存在だと考えてよいでしょう。研修の講師や、大人数相手の商品発表会などがこのケースに該当します。この場合、説得を分かりやすさに寄せてもよいでしょう。

逆に、1点も入らなかったなら、あなたに権威があるとは考えにくいです。

社内会議や営業は、ほぼこちらに該当します。たとえば、メインターゲットが上司なら、あなたは部下ですよね。部「下」ですので、あなたが「尊敬されている/崇められている」ということはないでしょう。権威には頼れないわけです。

このように、受け手から見たあなたの位置づけによって、説得を変える必要があります。

ここは特に注意が必要なポイントです。権威がある人のプレゼンばかりが「素晴らしいプレゼン」として世の中に出回るので、権威を持たない人が勘違いして、そのまま真似をしてしまうケースがあるのです。

率直に言って、権威を持たない普通の人にとって、スティーブ・ジョブズやTEDのプレゼンは参考になりません。既に崇められている人と、そうでない人では、コンテクストが違いすぎるのです。安易に有名人の真似をするのはやめましょう。

専門知識

受け手が論点に関する専門知識をどれくらい持っているのか、事前に分かるなら記入しましょう。

原則としては、受け手が専門知識を持っているほど、説得を論理性に寄せます。基本的な内容を分かりやすく説明したところで、受け手にとって新しい情報にならないからです。また、そもそも専門知識を持っているような人は知的レベルが高いことも理由です。

モチベーション

最後に、受け手のモチベーションも考えておきましょう。

言うまでもなく、モチベーションが低い受け手に対しては、説得を分かりやすさに寄せるべきです。論理性の高い説明というのは、「なんとか理解してやろう」という気合がなければ理解できないからです。

モチベーションを判断する方法

受け手のモチベーションを判断するには、以下の質問を考えるとよいでしょう。
あなたの説得に、受け手の生活(給料の増減や昇進/相当額の金銭)がかかっているか?

答えが「イエス」なら、受け手のモチベーションは間違いなく「高い」です。相手は死にものぐるいで来ますので、説得を論理性に寄せても問題ないでしょう。

答えが「ノー」である場合、おそらく受け手のモチベーションは高くありません。説得を分かりやすさに寄せることをオススメします。

コンテクスト③:その他、特筆すべき点

最後に、ここまでの項目以外にLUバランスに影響を与えそうな要因があれば、それを記述してください。例をいくつか紹介しておきます。

  • 受け手の好み

    • たとえば、受け手がビジュアルなプレゼンが大好きである場合、他のコンテクストが論理性に寄っていても、説得を完全に論理性に寄せるのはリスクになります

  • 受け手の年齢

    • 高齢である場合は、小さい文字は読めないかもしれません(=分かりやすさに寄せる)

  • 他のメディアの存在

    • たとえば、「既に文書で発表していることを、パッケージでも説明する」場合、パッケージを分かりやすさに寄せやすくなります。厳密な説明を求める人には、文書を紹介すればいいからです

  • 決まっているルール

    • 組織によっては、メディアやスタイルが指定されていることがあるでしょう(記入例はこのケースです)

このように、多くの要因を評価した上でLUバランスの落とし所を決断しなければなりません。

さて、説得のコンテクストに関するシート上の項目は以上ですべてなのですが、あと1つ、考えることが残っています。次のレッスンでそれを考えて、コンテクストを実際の方針に落とし込んでみましょう。

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