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Lesson 21: ロジックの重要性

さて、ロジック構築まで終わったので、先に進む前に大事なポイントを説明します。

このレッスンでは練習問題を通じて、論理性が重視されるコンテクストにおいて最も重要なポイントを学びましょう。

練習問題

あなたはとあるメジャーリーグ球団のGM(General Manager: 要するに一番偉い人)だとします。所属する日本人選手である鈴木と、来季も契約するべきか迷っています。

これは大きな金額が動く契約なので、あなたは正しい答えを出したいと強く思っています。つまり、コンテクストは完全に論理性に寄っています

あなたは部下に、「鈴木と来季も契約するべきか検討して、明日までに報告してくれ」と指示を出しました。翌日、部下が以下のスライドを持ってあなたに報告にきました。

では問題です。このスライドを採点してください。100点満点で、何点ですか? 100点ではないと思う場合は、おかしい点(=減点した理由)を述べてください。

<練習問題①>
上のスライドを100点満点で採点しなさい。100点でない場合は、減点した理由を述べること。

減点する理由はいくつあっても構いません。あなたが「おかしい」と思うことはいくつ書いてもOKです。ただし、どのミスで何点減点するのかはきちんと考えてください。

以下、解説です。






解答例

このスライドは0点です

なぜなら、分析が完全に間違っているからです。この分析では、鈴木がチームの勝利にどのように貢献しているかは、まったく分かりません。もう一度スライドを見てみましょう。

自チームの誰かがホームランを打った試合とは、最低でも自チームに1点は入っている試合です。つまり、グラフの右側の23試合はすべて「自チームが1点以上取った試合」なのです。それを、1点も取れなかった試合、つまり負けか引き分けしかない試合を含めたデータ(左側)と比較すれば、勝率には差がつくに決まっています。

つまり、この分析は「チームの誰かがホームランを打つと、チームの勝率が上がります」と言っているにすぎません。これは「点数を多く取ったほうが勝ちです」と言っているのとほとんど同じで、要するに野球のルールを説明しているだけです。

結局、この分析から「鈴木のホームランは、球団の勝率アップに貢献している」とは言えません。鈴木のホームランに他の選手のホームランとは違う特別な影響があるかは、この分析からはまったく分からないのです。それを証明したいなら、自チームの得点を調整した上で比較する必要があります。また、もし「23試合もホームランを打つのは、他の選手にはできない、すごいことだ」ということが言いたいなら、他の選手のホームラン数と比較しなければなりません。今の分析は、そのどちらにも失敗しています。

まとめると、このスライドに書かれている「鈴木と契約するべき理由」は正しくありません。「来季も鈴木と契約するべきか?」という論点に対する答えは、出ないままです。あなたがGMとして知りたいのはそれに尽きるので、それが分からないこのスライドは0点です。

その他の解答

「分析が間違っている」の他には、どのような答えが考えられるでしょうか? 以下のような答えがありえます。

  • 勝利への貢献だけでなく、ジャパンマネーの影響や観客動員力も考慮して判断するべき

  • ホームランだけでなく、ヒットや出塁率、守備も総合的に考えて判断するべき

これらを「グループA」と呼ぶことにしましょう。
また、以下のような答えを思いついた人もいるでしょう。

  • 「1割5分アップ!」の「!」マークは、ビジネスでは不適切

  • グラフの中の勝率も、小数表記ではなく「4割5分」、「6割」とするべき

これらを「グループB」と呼ぶことにします。
ここで第2問です。グループAとBは、明らかに答えの質が違います。その違いは何ですか?

<練習問題②>
グループAとグループBの違いを端的に述べなさい。

先ほどと同じように、以下、解説です。




解答例

答えは、「グループAはロジック(伝えていること)のおかしな点について述べており、グループBはレトリック(伝え方)のおかしな点について述べている」です。以下のスライドにまとめました。

スライドにあるとおり、この練習問題に配点をつけるなら、ロジックに関する指摘は高配点で、レトリックに関する指摘は低配点になります。理由は、ロジックのほうが最終的な説得の価値に与える影響が大きいからです。

論理性を重視するコンテクストにおける、ロジックの重要性

この練習問題を通じて伝えたかったことは、以下になります。

論理性が重視されるコンテクストでは、ロジックがすべてです

言い換えると、論理性が重視されるコンテクストでは、優れたレトリックで伝えることに大した価値はありません。綺麗なスライドや、うっとりするようなスピーチで伝えたところで、ロジックの出来が悪ければ説得は失敗します。中身がなければダメなのです。

こうなる理由はシンプルで、「論理性を重視する」とはそういうことだからです。
「論理性を重視する」とは、「主張が正しいかどうかを重視する」ということです。そして、繰り返し述べているとおり、正しさに貢献するのは根拠だけです。よって、論理性を重視するコンテクストでは、受け手は「主張の正しさを支えられる根拠があるのか」ということしか見てきません。

このことは、説得を人形作りにたとえると分かりやすいでしょう。人形作りにたとえるなら、ロジックが骨組みで、レトリックは肉付けです。説得の構造を確認してください。ロジックがレトリックに包まれていますよね。

そして、「論理性を重視するコンテクスト」というのは、「骨組みの出来栄えで人形を評価する」ということなのです。

となると、肉付け(レトリック)は薄くせざるを得ません。厚くしたら骨組みが分からなくなってしまいます。また、人形の製作者が誰なのか(ブランド)は、人形の評価にはまったく関係ありません。

このことは、「論理性が重視されるコンテクストでは、価値の満点はロジックで決まる」と覚えてください。レトリックから先は減点方式であり、できることはロジックでの得点を取りこぼさないことだけです。

逆から言えば、論理性が重視されるコンテクストにおいては、ロジックが0点なら、レトリックの段階で何をどう頑張っても0点しか取れません。レトリックにできることは「ロジックの価値を失わないこと」だけで、「ロジックの価値を上乗せすること」は絶対にできないのです。

見せ方が満点でも0点

このポイントを踏まえて、先ほどのスライドをもう一度見てみましょう。

実は、このスライドの「見せ方としての点数」はほぼ100点です。論理性に寄ったコンテクストのスライドとして、見せ方のポイントはすべて押さえて作りました。

スライドの論点、論点に対する答え(主張)、その根拠はすべて分かりやすく書かれています。グラフもシンプルで、このグラフが何を伝えようとしているか分からない人はいないでしょう。ツッコミどころは、先ほどの解答例にあることくらいです(これはわざと残しました)。

それでも、このスライドは0点です。ここに議論の余地はありません。ロジックが0点だからです。価値が無いことをどれだけ上手に伝えても、価値は無いのです
ロジックに価値があるなら、レトリックで料理しようがあります。しかし、そもそものロジックに価値が無いなら、その時点でゲームセットです。

論理性が重視されるコンテクストで資料を作るなら、「ロジックがすべて」ということを心に刻み込んでください。ここを間違えていると、いつまで経っても説得が成功しません。

本シリーズがカバーしないこと

さて、本シリーズではロジックの作り方は扱いません。本書では割愛することは前回のレッスンで述べたとおりですし、シリーズ次巻の『資料の構成』などでチラッと出てくることはあっても、掘り下げることはありません。

たったいま「ロジックがすべて」と言った口(筆?)で何を言っているのかと思うかもしれませんが、本当です。本シリーズではこれ以降、ロジックは既に用意できているものとして、「レトリックとしての資料」に集中します。「伝えたいことが既にあるときに、どうそれを資料で表現するか」だけ、つまり、見せ方オンリーです。

「ロジックがすべてなら、ロジックから教えてよ」と思ったかもしれません。ごもっともですが、それはできないのです。

理由は先述のとおり、価値のあるロジックを作るために必要な能力が多すぎるということです。ロジックを作る能力は、書籍を読んだ程度で身につくものではありません。前回のレッスンにあるとおり、最低でもあれだけのスキルが必要なのです。

また、こちらはオマケの理由ですが、要求されるロジックのレベルはバラつきが大きいということもあります。

別に、すべての説得で先述の能力が必要になるわけではありません。コンテクストがバラつくからです。

たとえば、1日で終わるイベントの企画書なら「何をやるか」だけを伝えれば十分で、「なぜそれをやるのか」の説明まではいらないかもしれません。一方、自然科学系の学術論文であれば有意なデータ(ランキング1位の根拠)を用意しろ、という話になります。

主張はともかく、「どこまで論理的な根拠を用意するか」はコンテクストで変わります。これを一括りにして「こういうロジックを作りましょう」と言うことはできません。

そういうわけで、本シリーズではロジックの作り方を掘り下げません。

これはつまり、論理性が重視されるコンテクストで説得をする人は、本シリーズでは一番大事なことを学べないということです。著者としてこういうことを言うべきではないのかもしれませんが、事実なのでご容赦ください。

ただ、これは本シリーズが無意味だという話ではありません。むしろ、「ロジックも作れないし、レトリックとしての資料の作り方も分からないけど、とにかく資料を作らないといけない」という人は、まずは本シリーズを終えてしまうことをオススメします。

理由はシンプルで、本シリーズのほうが簡単で、すぐに終わるからです。どのようなアプローチをとるにせよ、ロジックは時間がかかります。まずは見せ方(レトリック)を完璧にして、時間をかけてロジックを磨いていけばよいでしょう。自信が持てるまでは、ロジックは周りの人に頼ることも忘れないでください。

最後に、繰り返しになりますが、ロジカルシンキングはLiffelの以下のページで勉強できます。こちらも参考にしてください。

以上、ロジックの重要性を説明しました。

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