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庭主になるまで

2011年の秋、札幌の実家から歩いて30秒のところにある、500平米ほどの果樹庭の庭主になった。前年の秋に亡くなった父が所有していたものを、妹とともに正式に相続したのだ。

父がこの土地を購入したのは、確か1996年頃だったと思う。賃貸アパートを建てるつもりだったらしいけど、近隣との日照権などの問題で断念。ちょうど、実家の庭のさくらんぼの樹が駄目になりはじめたからか、水道を引いてないので畑にすることができなかったからか、父は果樹の苗を植えることに決めた。植えた年のがいつだったかは、もうわからない。

2002年に、父は定年退職したのだけど、後から考えると、その頃からすでに認知症の兆しはあった。退職したら、これもしたい、あれもしたい、と言っていた、いろいろなことに対して興味を失っていったのだ。果樹庭もそのひとつで、父はほとんど足を運ばなくなっていた。

その頃、私と妹と東京で暮らしていて、年に1、2回しか帰らなかったし、母は虫が嫌いで、もともと足を踏み入れたこともなかったから、果樹庭は、家族の誰からも関心を持たれないまま、8年ほど放置されることになった。

母ではなく、私たち姉妹が果樹庭を相続することに決まって、はじめてちゃんと見に行くと、長い間、手の入っていない果樹庭は、まるでジャングルのようになっていて、何が植えられているかもわからない状態だった。今となっては信じられないけれど、更地にして売却することも考えていた。

そんな時、父のお姉さんから、林さんを紹介された。シルバー人材センターの人で、うちの庭木の剪定もお願いしている、果樹に詳しい人がいる、と。とりあえずきれいにしてみてから、どうするか考えよう、ということになった。

林さんと一緒に草刈りから始めたのが、2011年10月3日。樹木が姿をあらわし、とりあえずの剪定が終わるまでは丸5日かかった。

その時点で種類がわかったのは、サクランボ、梅、梨、ブドウ、林檎、キウイフルーツ、胡桃。ブドウとキウイフルーツには、この8年、全く手をかけていなかったにも関わらず、実がつけていた。5日間の作業の間に、この樹々を切って更地にする、という選択肢は完全に消えていた。

そうして私は庭主になった。


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