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きょう心にしみた言葉・2024年5月22日

暴力を振るう人間、搾取する人間によってだけ被害者は傷つけられるのではなく、「まわりのひと」のやったこと / やらなかったことによって傷は深くされる。つまり、共謀した人たち、被害者を責める人たちのやったこと、やらなかったことによって。社会のあり方から心的外傷が生じている以上、そこからの回復も、個人の問題(プライベート)ではありえない。個々のコミュニティにある不正義によって外傷が生じているなら、傷を治すためには、より大きなコミュニティから対策を引きだして、不正義を修復しなくてはならない。

「真実と修復 暴力被害者にとっての謝罪・補償・再発防止策」(阿部大樹・訳 みすず書房)

著者のジュディス・L・ハーマンさんは、ハーバード大学名誉教授で長年にわたって心的外傷の研究を続けてきました。彼女の著書「心的外傷と回復」(みすず書房、邦訳1996年)「フロイト以来最も重要な精神医学書」とも評されるトラウマ臨床の古典です。「複雑性PTSD」概念の提唱をはじめ、外傷治療として当事者グループへの参加を薦め、現在のPTSD治療のスタンダードとされています。

最新の著書「真実と修復」では、さらに一歩進めて、被害者を救うための司法の役割、「治癒のための司法」「修復的司法」の導入を提案しています。そして、専門的な論文にもかかわらず、性犯罪、DV、虐待、いじめの被害を受けている女性や子どもたに大きな勇気を届ける言葉が綴られています。

「傷つけられた人々の苦しみはただ一人の心の問題であるのではなく、社会正義への問いかけでもあるのだ」
「暴力とは誰かを支配し抑圧することを狙う行為である。だから外傷に気づくことは、その外傷に名をつけることは、抑圧と闘ってきた人類の歴史と深く結びついている。私たちが宗教ではなく民主制をめざしたこと、奴隷制の廃止をめざしたこと、女性解放をめざしたこと、戦争のない世界をめざしたこと。これらすべての歴史である」
「外傷後障害が力を奪われた人々の苦しみであるなら、回復とはその人々に力を与えることであるはずだ。心的外傷が誰かを辱めて孤立させるものであるなら、回復はコミュニティへの復帰を通じて行われるはずだ」

性犯罪、DV、虐待、いじめの被害を受けている人たちに「それはあなたのせいではない。社会全体で考えるべき、正すべき問題なのだ」と繰り返し語っています。そして、加害者への働きかけについても重要な提起をしています。

「真実と修復」の書評を書いた精神科医の斎藤環さんは、こう書いています。

「回復のための指摘の多くは、いじめ問題の対策にもあてはまる。とりわけ加害者に対する『再統合のための羞辱化』(禁止だけではなく道徳の問題であることをわからせること)という発想は、評者にも大きなヒントを与えてくれた」



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