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きょう心にしみた言葉・2023年7月10日

死の経験はしばしば、悲しみの経験になります。悲しみが極まった時、希望を失ったように感じますが、それは、これまでとは別の方法で光が存在することを強烈に教えてくれている経験でもある。太陽が見えないからといって、太陽がなくなったと言ってはならない。それは見えないだけであり、同時にそれは内なる太陽を発見する時でもあるのです。

「光は、ときに悲しみを伴う」という地点から一歩深めて、悲しみこそ光なのではないか、ということなのです。悲しみを感じたことがあるということは、朽ちることのない光を宿しているということにほかなりません。その光は絶対に消えることはありません。そして、私たちの中に光があるように、ほかの人にも光があります。さらに言えば、許せないと思う人にも光はある。
この光の証人になること、そして、それを伝えていくこと、それが人間の「人生の仕事」なのではないかと思うのです。

「悲しみとともにどう生きるか」(入江杏・編著 集英社新書)

世田谷一家殺人事件の被害者の遺族、入江杏さんと批評家の若松英輔さんとの対談で、若松さんが語った言葉です。入江さんが主宰するグリーフケアの場「ミシュカの森」で、若松さんは「光は、ときに悲しみを伴う」と題した講演を行い、入江さんと語り合いました。「太陽が見えないからといって、太陽がなくなったと言ってはならない。それは見えないだけであり、同時にそれは内なる太陽を発見する時でもあるのです」という若松さんの言葉を受け止めた入江さんは「何か、光の存在を感じることができた今日というこの日を私自身忘れることがないと思います」と返しました。
この著書「悲しみとともにどう生きるか」のまえがきで、入江さんは若松さんとの対談をこう振り返っています。

「悲しみは、愛(かな)しみである」と教えてくださった若松さん。事件以来、祝祭の季節を、祝祭として迎えられなくなっていた私が、この集いをきっかけに、「悲しんでもいい。悲しむことは愛すること、生きること」と、顔をあげて語り、クリスマスもまた心から喜びあえるようになった気がしている。

「悲しみとともにどう生きるか」は、若松英輔さんの他に、柳田邦男さん、星野智幸さん、東畑開人さん、平野啓一郎さん、島薗進さんの講演や対談が収められています。どれも「心にしみる言葉」があふれています。他の話者たちの言葉も、時機を見て紹介していきます。



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