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ライフリンク・メディア報道・コラムを読む④

自殺対策の現場に大きな衝撃を与えたのが2017年10月に発覚した座間9人殺害事件でした。SNSは、死にたい気持ちを抱えた人たちと瞬時につながれる、人類がこれまでに経験したことのない時代をつくり出しました。旧ツイッターを悪用した男は、死にたい気持ちを抱えた人たちを呼び寄せ、次々に殺害しました。2021年2月4日毎日新聞「記者の目」は、殺人罪に問われた被告と面会した記者がその時の思いを報告しています。

再発防止のヒントを探ろうと、判決直前、立川拘置所に死刑囚を訪ねた。「なぜ被害がなくならないのか」。死刑囚は「悩みを抱え込む女の子が多いじゃないですか」と答えた。当時、ツイッターでワード検索し、毎日10~30人に接触していたという。「死にたい」のほか、「疲れた」「さみしい」も検索し、家出願望のある女性にも接触。丁寧な言葉遣いでやりとりし、悩みに共感するように努めたと明かした。
 面会室で向き合うと、明るい声の若者で、相手を立てながらテンポ良く話す様子はさわやかでもあり、そう感じたことがショックだった。「死にたい」と書き込んだ女性たちにとって、さみしさ、苦しさを受け止めてくれる存在に映ったとしてもおかしくないと思った。死刑囚は「24時間の相談体制ができたら被害を防げるかもしれない。女の子はさみしいと思った瞬間に話したいから」と語った。

 危険を承知で、つながりを求めずにはいられない若者がいる。つらくなったその時に、信頼できる相手と意思疎通ができることは、命綱になる。
 手を伸ばしたすぐ先に、安全な救いのある社会を作ることが、事件を防ぐ近道だと思う。

ライフリンクは、座間9人殺害事件をきっかけに、SNS相談事業「生きづらびっと」を始めました。

SNS相談を始めた経緯については、「ライフリンク・ヒストリー」でも紹介しています。

週刊誌の記事は、新聞よりも分量があり、また記者の主観がより強く打ち出されています。2013年2月4日 週刊 アエラ は、「指導死『41人』の衝撃 『指導』という名の『いじめ』」と題したリポートを掲載しています。

 教師の指導を機に、自殺を図った子どもたちがいる。
 結果的に死に至らなかったケースまで含めると、わかっただけでも41人。
 「指導死」はなぜ起き、なぜ教師の非が認められないのか。

学校でどのような指導が行われたのか。教師は何をし、何を言ったのか。
 A4判のノート2ページ強にびっしりつづられた遺書には、教師から「死ね」「お前はバカか?」「アホか?」と言われたと記され、「僕に停学は重すぎる」と太字で強調してあった。
 2008年7月20日夜。北海道立稚内商工高校2年だった男子生徒は、自殺で亡くなった。
 教師の指導がきっかけによる、「指導死」だった。
 「匠は、教師に説明をしたくても聞いてもらえず、本当に悔しかったんだと思います」
 父親(51)は悔しさをにじませる。
 その前日、高校は学園祭で、市内を練り歩く行灯行列が行われた。生徒会役員だった男子生徒は、行列の進行に協力しないクラスメートに我慢できず、その夜、携帯電話のゲームサイトの日記にクラスメートのイニシャルとともに「死ね」と書いた。
 すぐに思い直して削除しようとしたがうまくできず、それをクラスメートが保存、翌日に学校で話題になっているのを、担任の教師が耳にした。
 匠君への指導が始まった。生徒指導室に教師が入れ替わり立ち替わり来ては事情を聴いた。
 男子生徒が目を伏せると教師のひとりは「目を見て話せ」と言い、男子生徒が目を見ると別の教師は「なんでオレのことをにらみつけるんだ」などと詰問した、という。計6人の教師から約3時間にわたって指導を受け、下された処分は「無期停学」。その日午後10時ごろ、男子生徒は遺書を残して自殺を図り、2週間後に病院で息を引き取った。
 「学校は教育を受けに行く場所。それが、子どもが死にたくなるような指導をしてどうするんですか」(父親)

読者との双方のやりとりを伝えた記事もあります。2010年9月30日読売新聞「自死遺族 読者の声 心の内 話せる場なかった」です。ライフリンクの取り組みも紹介されています。

 家族を自殺で亡くした遺族の現状や支援の取り組みを伝えた連載記事「生活ドキュメント 自死遺族」(9月7日〜10日掲載)に、読者から手紙やメールなどが約80件寄せられた。半数以上が自死遺族からで、「気持ちを周囲に理解してもらえない」「つらい思いを話せる場がこれまでなかった」との声が目立った。
 関東地方に住む40代の主婦は、「私の夫も昨年、自殺しました」と手紙に書いてきた。近所の人に「ご主人を見かけませんね」と聞かれると、今も「出張に行っています」と、うそをついてしまうという。
 連載を読んで、自死遺族が体験や悩みを共有する集いが各地で開かれていることを、初めて知った。「思春期の息子の精神面でのケアをどうしたらいいかなど、遺族同士なら相談しやすい。もっと早い段階で、こうした情報を知りたかった」と話す。
 ほかにも「近くで集いが開かれているかどうか知りたい」という声は多く、遺族の支援に役立つ情報が届いていない実態が浮かび上がった。自死遺族の集いは全国100か所近くで開かれており、都道府県の自殺対策窓口などで把握している場合が多い。NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」のホームページ(http://www.lifelink.or.jp/)にも、各地の情報が掲載されている。

コラムを読むシリーズは今回でいったん終わります。

写真は、岩手県立美術館にて。

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