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ライフリンク・メディア報道・2007年2月

清水康之代表は、日本新聞協会発行の「新聞研究」2007年2月号に「各社ごとのガイドライン策定が急務」と題した論文を寄稿しました。その内容を見ていきます。

「新聞研究」は「いじめ自殺と報道」を特集していました。当時は、全国でいじめが原因とみられる子どもの自殺が相次ぎ、メディアの取材も過熱していました。論文は、「事実を伝える」という報道機関としての使命も十分に認識したうえで、報道そのものが新たな自殺を誘発する可能性があることを指摘し、報道のあり方を見直すよう提起したものでした。
 ライフリンクは2006年10月30日付で、「いじめ自殺」報道の改善を求める緊急メッセージを発表しました。岐阜県で中学生が自殺で亡くなった事件で、この日の朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の全国紙各紙は、生徒の遺書を写真付きで報じていました。また、これ以前にも、別の中学生の遺書を朝日新聞がカラー写真で報じたり、さらに別の中学生の事件について、読売新聞が遺影の前で土下座する学校関係者の写真を掲載するなどしていました。緊急メッセージは、過熱する一方の報道に警鐘を鳴らすものでした。論文は、一連の報道について「報道機関としての責任感や現場を取材した者の使命感だろう」と一定の理解を示しつつも、「社会的責任を声高に叫ぶあまり、子どもたちの自殺を誘発させてしまったとしたらどうだろうか」と問いかけました。

論文は、WHOが2000年に公表した「自殺を予防する自殺事例報道のあり方について」、いわゆるWHO自殺報道ガイドラインを紹介しています。WHO自殺報道ガイドラインは、2008年に「自殺予防メディア関係者のための手引き」と改訂され、さらに2017年に「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識」と改訂されています。今でこそ社会に広く知られる存在ですが、論文が掲載された当時は、メディア関係者の間でも知る人は少ないような状況でした。当時のガイドラインも「写真や遺書を公表しない」「自殺手段の詳細を公表しない」と示していました。ただ、論文は、「必ずこれに従って報道すべきだということではない」として、報道事例のうち、小学生の遺書を一部写真をつけて全文公開した読売新聞の報道や、学校長の遺書を写真ではなく活字に起こして掲載した朝日新聞の報道については理解を示しました。同時に、有名アーティストの自殺の手段を詳細に伝えた報道が模倣自殺を招いたことを指摘し「報道関係者は重く受け止める必要がある」と報道の責任を提起しました。


論文は、報道が陥りがちな点についても「一社が大きく扱うだけなら『記事が目立つ』程度の印象でも、各社がこぞって大きく扱えば『情報が洪水となって押し寄せてくる』ことになる(特にインターネットで記事を読む場合には、そうした印象を強く受ける)」と言及しました。論文が掲載された当時、SNSはまだ社会に浸透しておらず、論文が言及したリスクは、いまや比較にならないほど大きなものになっています。さらに論文は「現場の記者ひとりひとりが一生懸命頑張れば頑張るほど、皮肉にも子どもたちを追い込んでしまう危険性が出てくるといった、双方にとっての悲劇は避けなければならない」と呼びかけました。そして、子どもの「いのち」を守りために「各社がガイドラインを作り、それを基準にしつつ、しかし個別に報道していくこと」とガイドライン策の大切さを訴えました。

写真は、岩手県立美術館にて。


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