トップ班長が泣いた
2021.12.07
1番強い女性が目の前で泣いた。
今の拠点でトップの女性が流した涙ほど、重々しいものはない。
仕事をしていく上で、これまで色々な人の涙を見てきた。
『喜び』『別れ』『悔しさ』など涙には様々な理由があるけど、どれも正直くだらない。
もちろん感情を出すことはいいことだし、その感情が時には人に大きな影響を与えることもある。
だが、僕は人前で感情を出すことは仕事上必要ないと思っているし、涙の力で影響を与えるつもりもない。
同時に、人の涙に対して自身の心の変化はないだろう思っていた。
ただ今日、目の前で『トップ班長』が流した涙には惹きつけられるところがあった。
トップ班長という存在
拠点には複数の班がある。
数人で成り立つ一つ班には、班長と呼ばれる人たちがいる。
いわゆるリーダー的立場の人である。
※会社によって呼び名は違うがこの記事では班長と呼ぶ
その数人の班長の中でも、ひとりのトップ班長がいる。
今の拠点には60名の生保レディが在籍しているが、その中のトップの存在である。
『長』の不在時やいなくなった時に、その人を中心に組織が進んでいく。
『長』の在籍期間は長くても約4年周期にで人が入れ替わる。
だからこそ、その拠点を長く知っている存在はトップ班長となるのだ。
拠点によっては『長』よりもトップ班長が力を持っているケースも稀ではない。
その拠点のベクトル先は『長』が決めるのではなく、トップ班長の旗振りで決まる。
それくらいの存在感があるのだ。
そのトップ班長が泣いた。
誰にも相談できない『苦悩=悩みの理由』を2番手である僕に打ち明けてくれたのだ。
そこには大きく3つの理由があった。
①班員がいなくなる悲しさ
今月いっぱいで1人の班員が退職することが決まってしまったのだ。
その班は9人で構成されているがみんな仲のいい班であった。
班長の人柄が存分に表れているからこその雰囲気であった。
退職となった班員は「1ヶ月だけ一緒に働こう」と声をかけ、入社に至った昔からの知人であった。
その1ヶ月が2年以上も続いた。
それは紛れもなく班長の人柄である。
でもやはり、数字の辛さ、事務系仕事への憧れ等が理由となり、年明けから転職先が決まったのだ。
班長も他人の人生を止めることはできないから、素直に転職に喜び、応援の言葉を送ったが実際は相当悲しかったのである。
2年間も続けてもらった感謝と共に、2年間の思い出とかが記憶として残る。
別れはいつか訪れるが、予期せぬタイミングの別れ、そして長い付き合いの人の別れはダメージが大きかったのだ。
②解約によるマイナスの辛さ
生命保険営業は契約をもらったら、その契約の大きさによって、ゼロからプラスとなり
それが給料にも反映される仕組みとなっている。
ただ、契約をもらうこと同じくらいに大切になってくるのが『解約の抑制』である。
契約はプラスとなるから、もちろん解約となればその分マイナスとなる。
プラスとなった契約が大きければ大きいほど、高額な給料が入ってくるが
その契約が解約となった場合はもちろんマイナスも大きい。
何もなければ毎月ゼロから始まるサイクルだが
解約が生じればマイナスからのスタートとなり、マイナス分を取り返して、ようやくプラスとなり給料に反映されていくのだ。
この仕組みが与える生保レディへの影響は大きすぎるものがある。
給料が読めない難しさ、マイナスで終われば給料が引かれる厳しさ、といった現実がある。
もちろんトップ班長も長く働いているから、マイナスに対しての免疫は強かったが
今回のマイナスは、元の契約が大きかった分、ダメージも大きかったのである。
いくらこれまで稼いできたとはいえ、お金を考えるが故に数字によるダメージはやっぱりあったのだ。
③契約を奪い合うことの怒り
最後はこの仕事が生む大きな闇。
それは契約を生保レディ同士で契約を奪い合ってしまうことだ。
その原因を抑えるために、会社として活動エリアが決められていたり、家族担当が決められていたりと少しの対策はある。
だからこそ、その壁を超えての契約は暗黙のルールで手は出さない。
ただ所詮ルールであるだけで、究極『契約は誰がしても良い』のである。
だから、数字欲しさに人の顧客を奪うといった出来事が身近で起こりうるのである。
今回は、その班長が以前アプローチしていた顧客を別の人が契約したのである。
アプローチしていただけで、手応えはなかったし、なんなら一度断られた契約ではあったが
他の生保レディの知人ということもあり、顧客の方から連絡が来て、別の人が契約したのである。
トップ班長も自分がアプローチしても契約になっていなかったから、今回は仕方ないと開き直ってはいるが
別に悪くもない『契約した生保レディ』に対して怒りの感情が出てしまっていると言った。
拠点のトップ班長であり、自身の数字と拠点の数字どちらも求められる立場。
だからこそ、拠点で見れば大きな数字は助かる。
トップ班長は人格者でもあり、拠点内誰からも慕われている班長である。
自分より他人を優先し、毎日を過ごしているが、
これだけ災難なことが立て続けに起きている現状では、怒りの感情が契約した別の生保レディになってしまっていると打ち明けてくれた。
だから、拠点に来るのが嫌、一緒に働いている仲間に会うのも嫌になってしまっているのである。
トップ班長との関係性
誰にも頼ることができない強い女性が流した涙。
打ち明けてくれた原因を聞いて、心境が乱れた自分がいた。
同時に今後、2番手から『長』となった時に
共に拠点マネジメントをしていくトップ班長との関係性は非常に大切であると、改めて感じる瞬間にもなった。
誰よりも強い女性、誰よりも人格者である女性でも苦悩はある。
立場が邪魔をする誰にも話すことのできない事実も存在する。
そして、人の本能は皆自分中心であるからこそ、他人に対しての憎しみの感情を抱くこともある。
トップ班長が乱れたら、いくら『長』でも修復するのは難しい。
ただこうなった今、トップ班長を支えられるのは、復活させられるのは『長』と2番手である自分しかいない。
しかし、強い女性は『長』には弱さや本音を話すことはできないことを知った。
今は僕が助けるしかない。
ただ今後1番手となった時、トップ班長との関係性を濃密にする必要があるとも再認識した。
生命保険営業の世界が生む原因が詰まった涙であった。
僕の目の前に60人の女がいるが
信頼できる人は基本的にはいない。
ただ、トップ班長をキープしない暴走は経営崩壊のスイッチだ。
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