見出し画像

NounsDAO の終わりの始まり

「 DAOとは何か?」を理解するために参加したNouns DAOですが、残念なことフォークという機能によって分裂してしまいました。この一連の流れについて、Nouns DAOメンバーの一人として、メルマガ「週刊Life is beautiful」の9月26日号に記事を書きましたが、これはそこからの一部抜粋です。メルマガは初月は無料ですので、全文を読みたい方は、それを利用してください。

「DAO(Decentralized Autonoumous Organization)とは何か?」を理解するために、去年の4月にNTFを購入して参加したNouns DAOですが、とうとう「fork」という手段によって分裂することになりました。私も悩みましたが、fork側に合流し、(ragequit と呼ばれる方法で)資金回収をすることにしました。

DAOは、プログラマブルなブロックチェーンにより可能になった、運営が自動化された組織のことです。従来型の会社や国と違って、ブロックチェーン上のプログラム(スマートコントラクト)により、メンバーによる投票で資金の流れを決めたり、プログラムそのものをアップデートしたりするという部分を全てオープンに、かつ自動化するという興味深いアイデアです。

会社の場合には株主が、国の場合には国民が、株主総会や選挙で、彼らの代わりに組織の運営をする経営陣や政治家を選びます。しかし、その方法だと、両者(株主・国民 vs 経営陣・政治家)のアクセスできる情報にどうしても差が出来てしまうし(=経営陣や政治家が、自分たちにとって都合の悪い情報を隠蔽することが可能)、両者の間に利益相反すら起こってしまいます。

経済学においては、この問題を「プリンシパル・エージェント問題」と呼んでおり、故安倍晋三氏が首相時代に起こした森友学園・加計学園問題も、その代表的な例ですが、それ以外にも、経営陣・役人による「天下り先」作りとそこへの資金提供や仕事の発注などは、日本のあらゆるところで幅広く行われている、株主・国民に対する背任行為です。

この「プリンシパル・エージェント問題」の解消にブロックチェーンの技術を使えないか、という発想で作られたのが、DAO(Decentralized Autonouous Organiztion)という考え方です。

パブリック・ブロックチェーンは、その設計上、書き換えや隠蔽が不可能な台帳であるため、お金の流れは全て透明化されます。さらに、スマートコントラクトを使って、そのお金の流れをコントロールすることにより、経営陣や政治家に相当する「権力を持った代理人」なしに、メンバーの直接投票により組織を運営することが可能になる、というのがDAOの発想です。

そんな考えの元、幾つものDAOが実験的に作られましたが、そんな中で「最もDAOらしいDAO」として注目されていたのが、NounsDAOなのです。

NounsDAOには、他のDAOにない、いくつかの特徴がありました。

まず、DAOの運営の仕組みとして以下のようなものを持っています。

  1. 毎日1つの(メンバーシップに相当する)NFTをオークションで販売する

  2. NFTの売り上げは、100%DAOの運営資金としてトレジャリー(DAOが管理するウォレット)に入る

  3. 10人の創設メンバーは、発行される10%のNFTを報酬として5年間受け取る

  4. 運営資金の使い道は、メンバーの多数決によって決まる

  5. これらの仕組みは、全てスマートコントラクトとしてオープンな形で記述されている

  6. メンバーの多数決により、スマートコントラクトのアップデートも可能

  7. 画像も含めて、全ての情報はブロックチェーン上に置かれている(フル・オンチェーン)

それに加えて、NounsDAOならではの、明確なビジョン・目的を持っています。

  1. Nounsのロゴ、キャラクターなどは全て公共財として無償で提供する

  2. DAOの資金は、Nounsブランドの周知・宣伝に使う

NounsDAOが理解しにくい(もしくは誤解されやすい)のは、本来切り離されて語られるべき、NounsDAOの「仕組み」と「目的」が一緒くたに語られる点にあります。さらにメンバーシップとして使われたNFTが、他のところでは投機の対象になったり、ポンジスキームに活用されているのも、事態を複雑にしています。

1〜7の「DAOの運営の仕組み」は、NounsDAO以外のDAOにも適用可能な汎用的なものであり、今後のDAOの発展において、重要な役割を果たすだろうと私は見ています。

「株式会社」という仕組みは、16世紀から17世紀の大航海時代に、資金調達手段としてヨーロッパで発明されましたが、当初は法律も未整備で、詐欺も横行しましたが、そんな中で「まっとうな株式会社」がいくつか誕生し、それを「雛形」として法律や会社の仕組みが整備されて行きましたが、NounsDAOが採用した仕組みは、「DAO」が今後社会で活用されていく際の「雛形」としての役割を果たても不思議ないぐらいに良くできています。

そんなに素晴らしい設計のNounsDAOが、なぜ分裂してしてしまったのか疑問に思う人も多いとは思いますが、内部にいた私から見れば「良い設計だったからこそ分裂することが出来た」のであり、(ビジョンを含めた)NounsDAOそのものは失敗したものの、ファウンダーたちが設計した「DAOの仕組みそのもの」は、「見事に機能した」と言って良いと思います。

上に書いた通り、NounsDAOの存在目的は、Nounsのロゴ、キャラクターを公共財として世の中に幅広く提供することにあります。「営利団体」ではなく「非営利団体」なのです。

通常の非営利団体と異なるのは、寄付した証、もしくは、メンバーシップに相当するNFTが市場で売買できる点にあります。創設メンバーや、初期にNFTを購入したメンバーは、一切の利益を生み出さない公共財を提供するDAOであったとしても、その公共財を多くの人が活用するようになれば、Nounsブランドそのものに価値が生まれ、それがNFTの市場価格を支えることになるだろう、と期待していたのです。

Nouns DAOが立ちあがってすぐは、彼らの思惑通りに動きました。一番最初のNFT(Nouns 1)には、613.37ETH(当時の相場で$1,901,447)というご祝儀価格が付いたし、その後2022年の秋頃までは70〜100ETHの高い価格を維持していました。そのころは、トレジャリーに溜まったETHを発行ずみのNFTの数で割った「1NFTあたりの純資産」が指標となり、その価格前後での落札が続いていました。

Nouns DAOのスマートコントラクトには、メンバーが自分の持分の資産を引き出してメンバーを辞める機能(ragequit と呼ばれます)も、多数決で解散する機能もありませんでしたが、当時は、「落札価格が1NFTあたりの純資産を大きく下回ることはない」という暗黙の了解のようなものが、メンバーの間にも、落札者の間にもありました。なぜなら、いざとなれば、多数決でragequitの機能を付け加えることも、解散することも可能だったからです。「純資産」のようなものを一切持たない他のNFTと比べて、NounsNFTには安心感があったとも言えます。

その「暗黙の了解」が壊れ始めたのが、2022年の11月頃です。FTXの破綻をきっかけとして、Web3業界全体に「冬の時代」が訪れ、暗号通貨やNFTの価格が下落し始めたのです。(純資産を持たない)他のNFTと比べて、NounsNFTの価格の下落は少なかったものの、OpenSeaなどを通じたNFTの取引が大幅に減った結果、落札価格も下りははじめ、NounsNFTの落札価格も「1NFTあたりの純資産」を大きく(30%程度)下回るようになりました。Web3市場全体が冷え切って、新たにWeb3市場に参入する人や流れこむお金がほぼなくなったことが原因とも言えます。

この後のフォークの話とか、私自身がフォークに参加した理由、私のNouns DAOに対する評価、Nounsの今後については、メルマガから抜き出して公の文章にすることが必ずしも適切とは思えないので、ここでは割愛させていただきます。
一つだけ言えることは、「市場価格が付き、利鞘狙いの人が市場に参加してくることが避けられないNFTは、非営利事業と相性が悪い」という点で、これは今後の教訓として生かして行くべきだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?