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幻のマリトッツォを探し求めた2022年日本の秋【一時帰国】

コロナ禍真っ只中の2020年春にカナダに移住してから2年半が経ち、ついに日本へ一時帰国の機会を得た。

この日のためにコツコツ作成していたのが、日本に帰ったら食べたいものリスト。

半分以上が意味不明だと思うが、海外にいて恋しくなるのは、日本にいる時は何とも思っていなかったような物事だったりする。

マリトッツォを求めて

中でも初期からリストに君臨しているのは、2021年頃日本で流行っているのをSNSで眺めていた、マリトッツォだった。

もとはイタリアの食べ物だから、モントリオールでもありそうなものだが、これが見当たらないのである。

同じ頃にSNSで見かけて食べたかったピスタチオ味のピノもそうだが、要冷蔵・冷凍食品は日本から送ってもらうわけにいかない。
アジア系のスーパーには雪見だいふくがあればいい方で(それでも有り難いのだけど)、日本でトレンドとなっている食べ物はまず手に入らない。

マリトッツォに関しては、作ろうと思えば作れる。でも、出来合いのものをノーエフォートで食べたかった。
だから、日本で食べるのを楽しみにしていた。

が、しかし。

2022年の秋、どのコンビニやスーパー、カフェやパン屋を探しても、マリトッツォはそこにいなかった。

ピスタチオ味のピノも同じく。期間限定だったらしい。
ファミマはちょうど、さつまいも祭りだった。そうだ、日本は毎年季節折々の消費を喚起するのが大好きだったんだ。

私が食べたかったマリトッツォは、マリトッツォが流行していた2021年頃の日本でしか経験することができなかったのだと、当たり前のことを感じた。

父との握手

さて、今回の一時帰国の最大の目的は、久しぶりに家族・友人と会うことだった。

私は兄と歳が離れていて、同世代よりも両親の年齢が高めなのだが、二人ともまだまだ元気そう。

実家で数日過ごした後、両親と家族水要らずで国内旅行をした。

一泊だけ、前から私が行ってみたかったいいお宿に宿泊した。江戸時代からの蔵を改装した、一棟貸切の和モダンな宿。

ここも含めて、家族旅行の費用は全て父が払ってくれた。

旅行から帰ってきて、私が残りの日本滞在を過ごす東京で、関西方面への新幹線に乗る両親を見送る時がやってきた。

それこそカナダの家族ならハグをするから分かりやすいのだけど、そんな柄でもないのでどうしようかなと思っていたら、父が握手の手を差し出した。

普段の帰省の時はバイバイだったので、珍しいなと思いつつ握り返したところ、父の手がギュッと力強くて。

まだまだ私が子供の時と同じように、経済的にも体力的にも、精神的にも頼れるお父さん。

でも同時になぜか、「いつかこの手が弱々しくなる日が来るんだな」という現実を、厳然と感じた。

改札を通った後、母は何度も何度も振り返って手を振っていた。両親の笑顔がエスカレーターに吸い込まれていくまで、私も手を振り続けた。

二人の姿が見えなくなってから、東京駅の雑踏の中、一人で泣いた。マスクがあって良かったと思った。

後悔しないために

人生には、その時すべきこと、その時にしかできないことというのがある。

いつか老いていく親との思い出作りは、その最たるもの。
海外にいるとなおさら強く感じるが、どこに住んでいても同じだと思う。

食べられるものは食べられるうちに。
会える人は会えるうちに。

マリトッツォは食べ損ねてしまったけれど、親との時間は後悔しないよう、出来る限りのことを尽くそうと誓った。

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