ホルスト「惑星」サントリーホール10.04

アデス初演成功の興奮冷めやらぬまま、休憩を挟んで「惑星」。

20分の高度な技術と魅惑の表現がぎゅっと凝縮された楽曲の後は、全楽章で約60分の、壮大な組曲。
7つの構成からなっているオーケストラ曲だけど、全て演奏されるのは珍しいとのこと。

アデスの「ピアノと管弦楽のための協奏曲」を鑑賞した時に、オーケストラの音がとても晴れ晴れとしていて、正に「太平洋」のオープンな、明るい雰囲気を私は感じていた。
特にホーンやフルートの響きが明るくて、パシフィックフィルハーモニアとはぴったりの名前だなと思った。
(哀愁漂う日本海側から出てきたので、それがより感じられたのかもしれない)

ここから少し読み返す自分のために記載。

「惑星 」とは7つの楽章から成り立つ組曲で、それぞれの惑星にキャラクターを当てはめイギリス出身のグスタヴ·ホルストが作曲したもの。
こちらの車田さんの動画が初心者にとても分かりやすかった。

※この時思ったことは、一口に「音楽家」といっても本当に様々な考え方を持ちそれぞれの人生を歩まれている事。
売れ過ぎて人生の時間を仕事に忙殺されるより、売れなくても理解者だけを集めて、自分の思う芸術を披露する方を選んだグスタヴ。
目の前の事にとても勤勉だったであろう彼が最後に選んだのは、自分のための音楽の時間だったのかもしれない。

こうして色んな事がきっかけで音楽家の人生を知る事も私は楽しいし勉強になる。(内容は辛いことが多いのだが…)
この動画内で紹介のあった日本組曲も貼っておく。(演奏はHynemos Wind Orchestra )


ここから演奏の時の印象を少しですが…。

飯森マエストロが再びステージに現れる。
演奏前から青く点点と光るイルミネーションで飾られた譜面台が幻想的。

マエストロが指揮台に立ってタクトが振られた。曲が始まる。

アデスとは変わって期待していたとおりにステージから溢れるオーケストラの音が体全体を包む。
イギリスの作曲家というだけあって、曲のイメージが明確な気がする。それこそそのまま映画や舞台に使えそうな音楽。(実際そうなのだけど)

【火星】の、正しく戦いが始まる前の緊張を思わせる勇ましい音の刻み。
もう何も考えずにこの音楽で創られた「惑星の旅」を楽しもうと深く椅子に座り直した。
飯森マエストロの指揮する腕や背中もより力が込められとても勇ましい。
そしてはっきりしたビートに自然と体も高揚してくる。
赤いライトが上から上下しながら光り、怪しく焦燥感を煽る空気を作り出す。

【金星】では暖かみのあるとてもふくよかな音に優しく身を包まれた。
またオーケストラの方達の、楽曲を音楽にする為のとても真摯な音がこちらに伝わってくるようだった。
【水星】は私には可愛らしい響きの連なりという感じが面白かった。跳ねるような管楽器の音達に自然と心が揺れる。(体も揺れていたかもしれない ごめんなさい。)
マエストロの指揮と同じリズムで手を揺らそうとする自分すら。何も考えず音楽に没頭出来たと思う。心から楽しかった。
また、聴いていると入り方とかリズムに変則的なところがあって、アデスでなくとも充分演奏する難しさ、凄さを感じた。

そしてそして何とも素晴らしかった
【木星】!!
平原綾香さんが歌詞をのせたものを歌っておられた為、初心者の私にも馴染み深いメロディーだけれど、今回格別にとても素晴らしく感じた。
ただ聴いたことがあるメロディーだったからということではなく、パシフィック東京フィルの明るいイメージの音が、私が今まで持っていたこの楽章の少し暗い荘厳なイメージをよい意味で変えてくださったのだ。
暗さがなく、とても伸びやかで柔らかくて、、音の先まで気持ちがよくて、楽器の音の重なりが乱れてなくひとつに纏まっていて本当に美しかった。
「ああこんなにいいメロディーだったんだな」だと心から感動した。
(この時は心のなかで歌っていたと思う。)

ライティングやプロジェクションマッピングの細かいことはごめんなさい、忘れてしまったのだけれど、やり過ぎ感がなかったことが、クラシックコンサートという趣向がちゃんと真ん中にあったと私は思えたので、正統なクラシックコンサートとしてとてもよかったと思う。
(クラシックは敷居が高いと言いつつ、そこには憧れの気持ちもあるんですよね…たまにはちょっと上質な異空間に足を踏入れてみたい、みたいな。。人間てワガママ笑)

【土星】ここまで来るともう本当に飯森マエストロの集中力にただただ圧倒されて。。
ステージ向かって右端に居た私から、左端におられたバイオリンパートの方々がよく見えたのだがコンミスの方のバイオリンの音色が視覚も手伝ってか本当によく届いた。
コンチェルトの時から私にもその音が際立っておられることが感じられ、この組曲でのソロパートなど本当に心地よかった。
そして土星の、穏やかではない、緩やかながらもどこか焦燥感を感じさせるイメージがそれまでの平和で幸せだった気持ちを揺らす。
【天王星】では更にオーケストラのパワーが増し、いよいよ終演に近づいている雰囲気を出す。管楽器の掛け合いがとても心地よく、最大に鳴らされるオーケストラの迫力はさすがだった。
【海王星】ではフルートの優しい音色の途中から合唱の声が重なり、姿は見えないが声だけが聴こえるという演出だった。

そのコーラスの遠ざかる声が消えて明かりがついた。
旅を終えてまるで夢からさめたような感覚になる。

bravo!!!bravo!!!bravo!!!

全く集中力の途切れなく、力を振り絞って指揮された飯森マエストロの汗。
やり遂げた笑顔のオーケストラの方達。
各楽器のパートの方達の紹介と、コーラスの皆さん(東京混声合唱団)も姿を表した。


再び私は立ち上がって精一杯の拍手を送った。
時間の関係かアンコールはなかったが、それはそれはもう大満足の時間を過ごさせて頂いた。

1年前の私はまさかクラシックコンサート、しかも東京のホールの座席に座って聴いてるなんて想像もしていなかったが、夢ではなかった。
余韻冷めやらぬうちに帰路に付かなければならないのが本当に寂しかった。
しかし心の中はたくさんの音の思い出で満たされていた。


そしてこの日の「惑星」NHK FMブラボーオーケストラにて只今リピート放送中!!(令和4年10月30日20時20分まで)
今聴き始めてみましたが、改めて素晴らしい演奏を生で聴いていたんだなぁとしみじみいたします。

先日の小曽根さんがYouTubeインタビューでも仰られておられたが、やはり生で音楽を聴く体験をして欲しいと。
その理由がこうして体験してみてわかる。

個人的にはCD で聴くよりも動画で聴くよりも、「自分の体験したもの、音楽 」としてより心に残り、どこかでその曲に触れたときに新密度が俄然増す。
そしてあんなに分厚く感じていたクラシック音楽への壁がどんどん薄くなっているのを実感した。

また私としてはコロナで縮こまっていた心も体も、この1日で本当に信じられない位力を頂いた。
そういう意味でも、飯森マエストロ、パシフィックフィルハーモニア東京オーケストラのみなさん、角野さん、そして会って下さったフォロワーの皆さん全ての方に心から感謝を伝えたい。

わくわくと興奮の音楽と、その喜びが共有できた本当にとっても素敵な時間をありがとうございました!!!