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2023読響福井特別演奏会アルプス交響曲 指揮 山田和樹1.22

以前コンサートに行ったとき、こちらのフライヤーに目が止まった。

ニューイヤーコンサート、読響、指揮 山田和樹様。

SNSでフォローさせて頂いている方が、山田マエストロを素晴らしい指揮者の方と紹介しておられたのを覚えていたのだ。

音楽祭の本場BBCプロムスのステージにも立たれた、国際的に活躍される山田マエストロ。そのフォローさせて頂いている方のお話からは何となく遠い存在のように感じていて、日本で聴ける機会はなかなかないと思っていたら、まさかこんな福井にも来てくださるなんて!!!

その方のお勧めが心に響き、予定をやりくりして行くことにした。

オーケストラの演奏曲はヨハン・シュトラウス作曲の「アルプス交響曲」。
初心者はタイトルでさえ初めて目にする。
解説によると山に登って下りるまでを表した曲なのだけど、今回は聴き込む余裕もなくて予習なしで挑んでみた。

また気になるコンサート前半のコンチェルトはラフマニノフピアノ協奏曲第2番である。
ソリストは中瀬智哉さん。
年始にはテレビでも角野さんの演奏を聴けたその流れと、私にとって初めて生でラフマニノフの2番を聴ける事も嬉しかった。

会場に行くと日曜日の日中ということもあってか、かなりたくさんのお客様がいらしていた。
当日券購入で入場する。

席は後ろの方か、ステージ側2階席しか空いていない。
少し悩んで1階席真ん中後方を選ぶ。
段差がついていたため視界はよい。
何よりも真正面から見渡せる感じはやはりストレスがない。

読響のコンサートマスターはのだめオーケストラでもご活躍の長原さん。
お名前を知っている方が居ると勝手にホッとする不思議。
各演奏者が登場し席につかれた。
あたたかな拍手が起こる。
続いて中瀬さん、そして山田マエストロの登場。

中瀬さんはまだ16歳。
富山出身の期待の若手で2021年プロデビューとのこと。おお、コロナ禍でのデビューとは…凄い。
更には、かの金子先生にも指導を受けておられたとのこと。(現在は鈴木弘尚先生横山幸雄先生に師事されてるそう。)
少し慣れない感じで登場されたのが、お客様の拍手をより温かくされた気がする。

静寂の中冒頭第1声に耳を傾ける。
ロシア正教の鐘の音がなる。
だんだん力強くなるその低音に遠くから聴いていてもしっかり耳に振動が伝わってきた。
そして流れ始める旋律を奏でる音にびっくりした。

何て音が綺麗なんだろう!!!!

その綺麗さはガラスのようなとかキラキラとかではなくて「雑音が一切ない」みたいな。

ピアノの音ってこんなに整って音が鳴るんだと思った。

それは今までに体感したことない音だった。
ピアノの音を響かせる弦は3本あるけどそれが乱れずに纏まって鳴ってるイメージ。

そしてまだ何の色もついていない無垢な音色。

そしてどうしても動作も見てしまうのだけど、多分手首が物凄く柔らかい…だからあんな音が鳴らせるのかな…しかしそれは鳴らそうと思って鳴らしてるのではなくて、自然とタッチしたらそう鳴る、彼自身の音なのじゃないかと思った。

第1楽章は緊張もあったと思う。ずっと両腕が止まない複雑な音符の連続からの、同音の強い連打に若干山田マエストロに引っ張って(いや煽って)貰う場面も見られたけれど、2楽章に入るとだんだん彼もその音楽に入り込んでいかれ、それと同時に客席もその世界に浸っていった。
乗ってこられた中瀬さんのピアノはとにかくペダルを踏んだ時の音が美しい。ロマンチックな哀愁のあるメロディーを、優しくみずみずしく奏でて下さった。
第2楽章で上がった空気をそのままに一呼吸置いて第3楽章へ入る。ここまで彼の演奏に飽きたりしてないこともお伝えしておきたい。耳に自然に心地よくメロディーが流れ込んでくる。ドラマティックな旋律では山田マエストロも弦楽器や管楽器を遠慮なく存分に鳴らして、中瀬さんのピアノもそれに応えようと食らい付いていった。

最後の最後まで弾ききった彼に山田マエストロがしっかりハグをする。
お客さん達の拍手に慣れない感じでお辞儀をして、一旦舞台袖に下がり、それを2度繰り返されて、アンコール曲を弾いて下さった。

その無垢で優しげな音と奥に音の芯がある感じからきっとショパンが似合うのではと思った。
弾いて下さったのは曲名は後で確認したがマズルカ第41番op.63。
その場ではタイトルは分からなくとも耳馴染みがあった曲だったのと、彼らしい演奏を聴けたことがとても嬉しく感じた。
(Chopin Frederic/Mazurka No.41 Op.63-3
cis-moll pf:Ito Chie ピティナ ピアノチャンネル PTNA より)


もし今後彼がショパンコンクールに出ることがあれば私は是非応援したい。

そして休憩のために一旦ホールから出ると、山田マエストロの熱さ、カッコ良さに既に引き込まれている自分に気づく。
熱いんだけど、暑苦しくない。
今の時点でオーケストラを纏める空気がとても大きくそしてとても洗練されていると感じた。

休憩が終わるアナウンスが鳴り席に着く。

ここでまさかのハプニング。

私の両隣は空いていたのだが、左に男性の方が座られようと前をすり抜けようとした。
あれ?こちら側に男性って座ってたっけ?と思いながら視線を上げると、その方はタキシード姿だった。
(えっ、もしかして…?)
そう、それはたった今までステージで難曲を弾いておられた中瀬さんであった。
次の瞬間逆の端に座っておられた女性の方に「こっち」と呼ばれ最終的に私の右側に座られた。(女性の方はお母様であられると思われす…。)
まさか私にもこんなハプニングが起こるとは。。

無言を貫きつつ私の右側に若干の緊張が生まれ、そうしながらも再びオーケストラの皆さんが登場し、そして山田マエストロが現れたステージに視線を向ける。

拍手が止むと夜の情景を現す音が静かに鳴り出す。
この楽曲は全部で 22の場面に分かれそれぞれにタイトルが付いているのだけど、場面の間に休みはない。

そして序盤でのこと。

見間違いでなければこれまたビックリすることがあった。

山田マエストロがバイオリン隊に指揮を振った次の瞬間、客席に指揮棒をひと振りしたように見えたのだ。まるでそれは「さぁ一緒に山に登るぞ」と。
(これは後で確認して違ったら削除します笑)

その仕草もとても自然ででも力強く。

そして何よりも明るく纏まって鳴るオーケストラの音がとても心地よすぎてまるで心の目が開いたようだった。

世界の音ってこういう音なのかと。

初心者の癖に何を言ってるのだと自分でも思うのだけど、どの楽器も艶やかな音で全てハーモニーで届いてくる。座っていた席も良かったのかもしれない。でもその音が本当に本当に素晴らしくて、もうわくわくするしかなかった。

誰もがイメージする、クラシックの交響曲ってこうだよね、っていう音じゃなくて、重たくなくて華やかで、そして角のない丁度よいボリューム。
読響様もとても素晴らしいのだと思う。
ホルンの音が本当に聳え立つ山を背に遠くで鳴っているように優しくこちらに響く。

私が今までどのクラシック音楽にも感じていた、「どこか寂しい心が重くなる要素」は一切感じられず、綺麗な色彩と暖かいタッチで描かれたとても素敵な絵画のストーリーを見せていただいてるような感じだった。
そしてコロナ禍を経てきた心に辛くなく聴ける音楽だなと私は感じた。

 (「アルプス交響曲」自体がこのようなニュアンスで演奏されるのだろうかと思って後で動画サイトで別の演奏を聴いてみたけれど、想像した通り、先に書いたようなTHEクラシック、という演奏だった。)

音楽が一切途切れないのは自然の中にいるから。鳥の声、風の音、川のせせらぎ…そしてその大元が多分ずっと一定のリズムで奏でられている。
気付けば斜め前のおば様の体も緩やかに拍子を刻んでいた。

そして山田マエストロは奏者しか見ておられなかったのではと思わせて下さるはっきりとした指揮。
この曲の全てを取り込んで、明確にそして時には勢いも込められ、それを極上の音の重なりでこちらに届けて下さる。

途中雷が鳴ったり嵐で激しい音が鳴ったりするのだが、それすらも心地よくて。
管楽器の程よい響き、パイプオルガンの不思議な振動、バイオリンの細かく細かく弓を操って繰り出される音…、実は公演前にもしかしたら退屈を感じてしまうかもと少し心配したけれど、そんなことは全く杞憂だった。

ひとつひとつの音を聴いていてもとても楽しいし、ハーモニーを聴いていても心地よい。
それは確実に山田マエストロの指揮が素晴らしいからだと思った。

「音楽は楽しい」を芯の部分から、そして極上の音楽として真正面から伝えてくださってると感じた。

登山を終えて大きな拍手が鳴る。
地域性によりスタンディングオベーションはならなかったけれど、頭上で拍手される方もおられ、地元民からすればそれに匹敵する拍手だと思った。

また更に驚いたのは、あんなに情熱的であったのに、タクトを下ろせば、マエストロはオーケストラの皆さんを心から讃えられ、ご自身は1歩も2歩も下がっておられるように感じたこと。
楽器を演奏される方々へのリスペクトを物凄く感じた一幕だった。

そして…隣で聴いておられた中瀬さんには話しかけは出来ず…しかしごめんなさい、どうしてもピアニストの手を見たくて、一瞬チラ見してしまいましたことをご報告致します。


約一時間弱の数秒たりとも鳴り止まない音楽を素晴らしく自然な緩急と音色で奏で続けて下さった山田マエストロ。そして読売日本交響楽団の皆さん。
クラシック音楽はカッコいい!!を真正面からぶつけて下さって、目が覚めるようなでも暖かい音楽に心がとても明るくなりました。
ありがとうございました!!!

そしてこの公演を勧めて下さったフォロワーの方に、心から感謝申し上げたいです。
ありがとうございました!!!
(山田マエストロはファンになってしまったかも!)