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「 乗鞍高原 ネイチャーポジティブ勉強会」参加レポ

あなたの手で守れる 乗鞍高原の自然。地域と共に進む 保全活動への第一歩

10月24日、乗鞍高原の象徴的な景観といわれる「一の瀬草原」にて、生物多様性保全に関する勉強会が開催されました。世界的に注目を集める「ネイチャーポジティブ」の理念が、どのように地域の自然環境に関わるのか。その様子を、参加者たちの熱意と共に詳しくご報告します。

イベントの概要

主催したのは、のりくら高原ミライズ構想協議会内の乗鞍高原ゼロカーボンラボラトリー一の瀬草原プロジェクトチーム」。世界的に注目される「ネイチャーポジティブ」目標と、一の瀬草原での自然環境保護活動がどのように関わるのかを探るイベントで、地域住民や行政担当者ら13名が参加しました。


話してくれた人

環境省中部山岳国立公園事務所長 野川さん 「ネイチャーポジティブとは?」
環境省 乗鞍担当 竹形さん「一の瀬草原における草原維持活動について」
外来種対策 佐々木さん「乗鞍高原の外来種駆除活動について」
乗鞍山守隊 斉藤さん「乗鞍山守隊の活動について」

ネイチャーポジティブとは?

まず、環境省の野川所長が「ネイチャーポジティブ」についてこう説明しました。「地球では生物の絶滅が加速している。生物多様性の損失を食い止め、再び豊かにしていくことがネイチャーポジティブの目指すところ」。この概念は2022年のCOP15G7 2030年自然協約でも掲げられ、環境省もその実現を目指し企業や団体に「ネイチャーポジティブ宣言」を呼びかけています。

ネイチャーポジティブについて説明する野川所長

野川所長は、一の瀬草原について「草原景観を維持し森林化を防いできたおかげで、ここには希少な草原性のチョウが生息し、生活の中に保全の営みが入っていた場」と述べ、一の瀬草原が日本の「ネイチャーポジティブ」の象徴的なモデルになり得ることを強調しました。

ネイチャーポジティブ宣言

一の瀬草原の保全活動とその意義

乗鞍高原が「人と自然が作り出した高原景観」として国立公園に指定されたのは1934年。明治から大正期にかけて牧場として整備された一の瀬草原は、長年にわたって放牧により草原景観が保たれてきましたが、2000年代はじめに放牧が終了して以降、森林化が進みました。

H2頃 財団発行「美しい自然公園2中部山岳上高地」(鈴蘭小屋提供)

現在は地域住民と環境省が協力し、草原を守るための除伐作業が計画的に行われています。

環境省の竹形さんは「一の瀬草原は地域住民にとって心の原風景。草原再生の指針を持ちながら、景観と生物多様性の維持に努めています」と、現在の保全活動の進展を紹介しました。草原の景観維持の取り組みは、結果として生物多様性にも貢献しており、「ネイチャーポジティブ」の視点からも貴重な活動例となっています。

地域で取り組む外来種駆除活動

外来種の駆除活動については、プロジェクトメンバーの佐々木さんが報告しました。乗鞍高原一帯で繁殖する外来植物は在来種の生態系に脅威をもたらしており、特に一の瀬草原周辺でも注意が必要です。

高原内で行う外来種対策のゾーニング図

佐々木さんは「駆除しても追いつかない現状がある。地域住民が自宅の庭で育てている植物が実は外来種であることもあるため、まずは外来種について知ってもらうことが大切」と、情報発信の重要性を強調。地域の住民が身近なところから駆除を始め、範囲を広げていくこと、さらに地域外からの協力も必要であると語りました。

◆乗鞍高原内に生育する外来種が一目瞭然となったマップ
乗鞍高原の外来種生育Map

◆駆除の仕方や、駆除会の案内などを発信している
乗鞍外来種 Facebookページ 

佐々木さんは移住者のおひとり。インタビュー記事はこちら▼

生態系を守る登山道整備活動

その後、参加者は乗鞍山守隊が進める「白樺の径」沿いの登山道整備の現場を訪れました。道が踏圧で崩れ、植生が損なわれている箇所を、周囲の生態系を復元する「近自然工法」によって修復しています。

水の流れ道と歩く軌道を予測して土砂の流出を最小限にくいとめる

隊長の斉藤さんは「大きな木の根を守りつつ、適切な歩行軌道を整備しています。散策路の整備はここ以外にも多くの場所で必要。整備を進めていくには地域内外の人の協力が欠かせない」と話しました。

一の瀬草原の未来に向けて

イベントの最後に、参加者全員で「ネイチャーポジティブ」と一の瀬草原の関わりや今後の展望について意見を交わしました。

参加者から出た意見

一の瀬草原の保全活動は現在、地域住民の有志によるものが中心です。ボランティアの人数には限界があるため、地域外の人へのお声がけはもちろん、企業との連携も視野に入れていくべきとの意見がありました。また、観光を通じた貢献型の取り組みとして、保全活動への参加を促す仕組みも考えられる、などといったことが提案されました。

イベントを終えて

一の瀬草原は国立公園内に位置するため、守るべき価値がある場所ですが、それ以上に「この木が好き」「ここに生息する花やチョウが好き」「この景色を守りたい」という個々の思いが強く集まる特別な場所でもあります。活動に取り組む佐々木さんや斉藤さんの根底にも「守りたい」という強い個人の思いがあり、それが「ネイチャーポジティブ」実現のカギを握っているように思います。

野川所長は「ネイチャーポジティブ宣言は行動とセットであるべき」と語りましたが、一の瀬草原の取り組みがまさにその実例といえそうです。個々の思いを共感し合う関係を広げていくことが、ネイチャーポジティブを実現する第一歩となるように思いました。


取材・文:楓 紋子
企画制作:のりくら高原ミライズ構想協議会 移住推進プロジェクトチーム

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