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クローゼットの匂いが象徴するもの、そして北風

【突然の訃報、別れを感じさせる匂い、強い北風】

突然の訃報を受けた。実際の年齢がすごく若いわけでなくとも、そんなふうに別れが来る必要のないほど年齢を感じさせないアクティブな方だった。先週末も若々しい仲間たちと元気に山を駆け回っていた。とても穏やかで紳士的な人柄とともに、ここ数年の様々なアクションが立ち上がった新城・奥三河の、特にトレイルランニングおける人を繋いでいくような、その功績は測りしれない。別れはあまりに突然であり、ただただ残念過ぎる。

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そんな故人の通夜に向かう車の中、普段はほとんど一緒に行動することのないけれど親しく、ある意味では一番理解してくれている友人のひとりと久しぶりにゆっくり、そして様々な話をした。これまでのこと、現在のこと、これからのこと、いま自分の中にあるとりとめもない気持ち、強い思い、どれもとても大切な話ばかりだった。何もこんな突然の別れがきっかけでなくてもいいはずだが、きっとこれも故人がくれた大切な時間なんだろう。必ずこの先どこかで、思い出すときがくる、そんな時間だった。その時には突然の別れとなってしまた人の、素敵な笑顔を一緒に思いだすんだろう。

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僕は普段スーツに袖を通す仕事はしていない。だから礼服やスーツの類は基本的にクローゼットの片隅に追いやられている。40歳を超えれば婚礼のようなめでたく新たに繋がる場よりも、どうしても別れの場面が多くなる。だからきちんとクリーニングされたスーツをクローゼットから取り出し、かけられた薄いビニールを剥がし、普段感じることのないつるりとした裏地に指先が触れ、袖を通す作業があり、鼻に入ってくる真新しような、それでもどこかクローゼットの薄暗い空気をたっぷり吸いこんだ独特の匂いを嗅ぐと、自動的に別れがやってくるような、そんな悲しみが象徴されているような気持になる。何もそれが、その匂いが別れを象徴する匂いでなくとも良いはずなのに。これからもっともっと悲しい別れをたくさんこの匂いと経験していくんだろうな。

そんな悲しい冷たい雨の降る別れの夜から一夜明けた今日、仕事が終わり、北風強い外に走りに出た。まるで「まだ冬は終わらないよ」と、そう言わんばかりの強く暴れる冷たい風を受けながら自転車のペダルを回した。強い北風に無残にちぎられたような雲と、塵のない澄んだ青空、そして西に傾くコントラストの強い日差し。広い空、そんなどこまでも広がりを感じる青く、優しい黄色が横から差し込む僕が暮らす街の景色は、とても美しかった。

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中村さん、さようなら。ありがとうございました。どうか安らかに。


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