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ふたつ目の声

前回のノートで自分はHSPかもしれないと思っていることを書いた。自分でもよくわからないと思っている症状をひとつ。

数年前、当時の私の職場は声の大きい上司が何人かいた。当時でも3年か4年か働いていたと思うのだけど、突然ひとりの上司の声が受け付けなくなった。

例えば、私と上司の距離は1メートル。その上司は3メートル先の部下に指示するのに、同じ場所から大声を上げる。常に1メートルの距離でそのボリュームを聞くことになると、終業時には頭が痛い、目が回る。一番の違和感は耳が熱を持ったようになっていたこと。この違和感に名前を付けられなくて、「耳が痛い」と言っていた。

誰に相談しても「その上司が嫌いなだけでしょ」と話を打ち切られる。ある日の仕事終わりにぐったりして、机に突っ伏しているところを見られて、ようやく異常事態だと察してもらえることができた。

その声から逃げているところを見られて、「感じが悪い」と面と向かって別の上司から言われたことがある。そもそも、仕事に関係ない話を延々と、常に独り言みたいに喋っているその上司も異常なのに、立場の弱い私に言ってくること、それぐらい耐えろよ、という圧に悲しくなった。私に死ねとでも言うのか。

「私はそんなに強くありません」。そう反論するのが精一杯だった。身体的症状も出ていることを説明しているのに、だれも守ってくれない。

なんでこんなに辛いんだろうと思っていた。ひとつ仮説を立てた。

私は「ふたつめの声」に反応しているのではないか。好きだった劇団の作品のなかに、喋っている言葉とは別に思っていることを乗せて、他人を操ろうとする人物が出てくる。普通の会話だけど、心の中で強く「死んでしまえ」と念じると、相手が死にに行ってしまうのだ。

大きな声の上司は、仕事に関係ない話を延々としていたけど、それは「誰か相手にしてくれ」という思いが乗っていたのではないかと思ったのだ。周りは無視するから、さらに声は大きくなる。

私はHSPと思われることのない見た目だと自覚している。人と関わるスイッチを入れれば、自分でも愛想良しだと思う。「誰か相手にしてくれ」の「誰か」に私が入っていたのではないか。

という話を冗談のつもりで職場の後輩にしたら「何かわかります…」と言われたことがある。

彼女も構われたいけどどうしたらいいかわからないおじさんのやりとりに困っていた。そのおじさんは「あーあ!」と大きなため息を、私たちの背中にぶつけてくる。本人たちは、ため息を吐いているだけ、喋っているだけなんだけど、それが妙に重い。「どうしたんですか?」と聞かれるのを待たれている、ような。

身体に出た症状について「耳が痛い」と言っていたと書いたけど、その思いが「重かった」のかもしれない。上司の声がこびりついたようなあの不快感をうまく説明することができない。

以来、ふたつ目の声が乗っているような大声が苦手だ。

このときに、聴覚過敏という言葉を知り、それは発達障害のひとつというネット記事も読んだ。でも、発達障害なら子供のころから思い当たることがあるはず。よくわからないま当時の職場では耳栓をすることでしのぎ、いまもヘッドホンをお守り代わりにしている。

声の大きな人が多い職場だったので、ある嫌われ者の女性が大きな声で喋っているのを見て、例の上司が「デカい声だなあ…」と呟いている(もちろん声は大きい)のを聞いて「◯◯さんも似たようなもんですよ」と言ったら、それ以降は声のボリュームが少し落ちた。

同じにされるのは嫌だったようだ。いない人のように扱われがちな嫌われ者の女性の大声は「私はここにいるよ!」と叫んでいるみたいだった。

思いに物理的な重量はないはず。でも、それを感じてしまうのがHSPなのだろうか。それともまた違うなにかなのだろうか。原因が分かったところで治せるものでもないから困っている。

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