見出し画像

父のいたずら

父が亡くなって、不思議だなあと思ったことを記録している。

★母方のいとこ
四十九日まではと思って、休みの日は実家にいる父のお骨に顔を見せようと思っている。そのついでに、相続に必要な書類を集めたり実家に置きっぱなしの自分の荷物を整理したりしている。

2年前、新潟県内の銀行から休眠口座の案内が届いた。2万円近く入っていたので、これは放置できないと解約しなきゃなあと思いながら、コロナでなかなか身動き取れずにいた。

父が亡くなれば、新潟に帰る頻度は減るだろう。面倒くさがりな私は、熱いうちに打たないとまた放置してしまう。

元々D支店の口座なので、そちらに行こうと思って住所を検索したけど、投資専門の支店と普通の支店があるらしく、どっちがどっちかイマイチ自信が持てず、同じくらい近いM支店に向かった。クソ暑いのに道に迷ってられない。

M支店は近いんだけど、通り道になることがなくて、初めて入ったと思う。

そこであれこれ手続きをして、1時間以上かかった。その支店はお昼休憩を取る珍しいところで、お昼の1時間ぐらい出入り口を閉める。

閉めた自動ドアの脇の鉄のドアから出るように促された。案内してくれた女性に声を掛けられた。「わたし、あなたのいとこなんだけど」

???
私にそんな美人のいとこはいませんよ???
父の葬儀に来てくれたいとこは2人。それ以上は…ああ、母方のいとこか。

母が亡くなってすぐに、母の長兄も亡くなったので代替わりが進み、母方の親戚とは没交渉になっていた。彼女は母のすぐ上のお姉さんの娘さん。私はこの伯母に親近感を持っている。

私が訪れる前にも長兄が訪れていて、何か察するものがあったと語る。そこに私も現れたので、確認せずにはいられなかったようだ。

私は父が亡くなったこと、お骨はまだ実家にあること、母の葬儀で受けた伯母からの励ましに感謝していることを伝えた。

名札を見て名前を確認した。母方の親戚は顔と名前が一致する人が少ない。真面目そうで清楚な綺麗な人だった。首に下がる名札をチラ見した。◯◯さん。名前に覚えはある。

帰って長兄に伝えた。長兄も、普段から利用してるところではなく、たまたま選んだ支店だったと言っていた。

「◯◯ちゃんは、若いころの母さんに似てるだろ?」。私にはわからなかった。物心ついたころにはもう恍惚の人だったわけだし。居間に飾ってある若いころの母の写真に目をやる。似てるかなあ。「ウチの親戚にこんな美人はいないと思った」と話したら、長兄は小さく笑った。

長兄が母に似ていると思っていた人と話が出来たのか。もっとよく見ておけばよかった。◯◯さんは長兄よりひとつ年上らしい。ということは今年58歳。全くそうは見えなかった。

母が美人かわからない。でもみんな美人だったという。男顔のガッチリした体格で強そうな雰囲気の写真しかない。私は母親似と言われるけど、父の遺影を見ていると自分の顔に見えてくるし、父方の祖父の若いころの写真というのも見せてもらったら、その顔も私に見えてくる。

父(父は自身の母親似)と祖父と母と、3系統同じぐらいのバランスで似ているのが私ということらしい。それぞれの顔写真を眺めていたら気持ち悪くなってきた。長兄にこの話をすると「誰かに似てるなんて言われたら、恥だと思え。自分は自分だ」。

そこで走る稲妻 笑。その通り過ぎる。私は私でいいんだねと大きく笑った。気にしすぎは良くない。

私の長兄は名言メーカーなのである。

このタイミングで邂逅した、そしてもう会うことはないだろう◯◯さん。父と母から、もう少し身綺麗にしなさいよと言われた気がする。

もうひとつ。◯◯さんは結婚していて名字が変わっている。そのフルネームの字面に見覚えがある。

検索した。父が倒れる直前に一緒に高座を聴いた落語家さんのWikipedia。その方の本名と一字違いだった。スマホを見ながらひとりで笑った。きっと私しか笑えないから、黙っておく。父さん、なんかちょっと私にしかわからないいたずらしてないかな?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?