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老いのギャップを埋める言葉選び

コロナの自粛生活で老化が加速した高齢者のひとり、my母(83)。この1年半で体重が増え、認知力も筋力にも大きな陰りが出てきました。この変化のなかで、ついに悲しいできごとが… しかし悲壮感を跳ね返す、とっておきのテクニックがありました。

大丈夫と自信があったのに

2020年の自粛生活が始まって、my母が地域の集まりにもいかなくなり、体も太り始めたある日、電話をしたときのこと。

突然、いの一番にこう言いました。

「私はもう生きる自信がないんだよね」

割と発言が大袈裟な人ではあるのですが、声の沈みかたが尋常でなく、心配して何があったのか聞くと、答えない。原因不明のまま、なんとか話題を切り替えつつ励まして電話を切り、それでも大丈夫か心配しているところへケアマネさんからの着信。

「今日デイサービスで初めて失禁してしまったので、ズボンをお貸ししました」とのこと。

なるほど、、、my母は初失禁で強いショックを受けていたのだな、とわかりました。

現実を受け入れられるか?

my母は衛生について意識が高い人なので「私は絶対におもらしはしないよ」と自信をもっていました。実際ちょっとの失禁も含め、粗相がないまま80代になったのです(自己申告ですが)。

若かろうが老いようが、人として誰もが共通していることですが、「自分ができる」と思っていることと現実にギャップがあると、心的苦痛を伴います。

一等を取れると思ったら取れない、モテてると思っていたらモテてない。
なんでもいいのですが、理想の自分と現実に乖離があったとき、ストレスを感じずあっけらかんとしていられるには、相当な心の鍛錬が必要。

または周囲が「ホントに気にしていない」など、真から受け入れられている安心感が必要ではないでしょうか。

my母が失禁の事実をストレスに感じないためにはどうすればいいか、そして周囲にも迷惑をかけないためには?と考えました。

失禁にはとある傾向が…

失禁には
①ちょこちょこ出てしまうタイプ②一気にジャーっと出てしまうタイプと、
大きく分けて2つあるようで、my母は後者②のタイプでした。

なので、ひとつは「トイレを促す」ことである程度は防げるのではないか、とケアマネさんからアドバイスがありました。あとは腹部に力を入れるときが要注意とのこと。

そこで出かける前、帰った時など頻繁にトイレに行くことを習慣化するようにしました。すると、失禁は日常化することがありませんでした。ひと安心です。

しかし、それでも月1ほどの頻度で失禁することがありました。その傾向を冷静に見てみると、実はほぼ私と過ごすときだったのです!

くだらないことでゲラゲラ笑って、ついおもらししてしまう。例えば洋服を買いに行った時に、二人が映る鏡を見てお互い太ったねえと相撲取りのマネをしたとき。歩いていて転びそうになって、ダルマさん転び損ねました!と言ったとき。母がウケて爆笑して失禁

my母と私の笑いの質も小学生レベルなのですが、要するに「笑いチビり」なのだと思い至りました。

ギャップを埋めるワードチョイス

「おもらし」「失禁」という言葉を使わずに「チビり」とコミカルに表現した方が気持ちが軽くなるかもしれない。

そこで「私はおもらしなぞしない」とmy母が言い張るときに「この間、めっちゃ笑ってチビったじゃん」と伝えたら「そうだっけ?」といぶかしみつつも笑いながら受け入れるように。チビるほど笑うなんて幸せだね、と。

デイサービスで失禁したときも「仕方ないんじゃない、チビるくらい楽しかったんだよ」と伝えて、深刻な気持ちにならないように伝えていたら、なんとか落ち込まずにやりすごせるようになりました。

老いの症状というよりも、共に笑った人生の幸せなひとコマに早変わり。まさに魔法の言葉、「チビり」!
そうして、失禁そのものを受け入れることが徐々に可能になっていきました。

しかしこれはmy母の場合で、どの方にもチビるという言葉がOKであるとは限りません。失禁という本人が受け入れ難い事態において、これなら受け入れられるという接点を見つけて言葉を選んだということ。まずは、いかにしてギャップを埋めるか、言葉のチョイスも大事だったのでした。

「笑いチビり」とて残る課題

本人の自覚が芽生え、絶望回避ができているのはよい傾向なのですが、実際は失禁が100%回避できているわけではありません。尿を撒き散らしては、周りにもご迷惑になってしまいますし、衛生的ではありません。

そのため、出かける時には万が一のために着替えを持っていっておく、車のシートにクッションを敷いておくなどの準備もしています。紙オムツも買ってあるのですが、粗相するかどうかわからないときの装着にはまだ抵抗があるようです。

また、すべてのmy母のショーツをすべて吸水ショーツに変えました。最近ではフェムテックの盛り上がりもあり、吸水ショーツのバリエーションが増えています。とはいえ、メインは生理用として若者向け。
ついにユニクロでもサニタリーショーツが発売されたとのことで、ウェブサイトの挿絵には老婆の姿もあり、期待しています。


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