ちっちゃい椅子

娘の1歳の誕生日プレゼントとして伊藤家の両親が買ってくれたちっちゃな木製の椅子。
郡山の家具屋さんでリメイクしてもらったものだ。
U字型の背もたれとひじ置きがあってとても可愛い。
主に娘の食事用に使っている。

娘はこの椅子がお気に入りで、
自分の席だということを知っている。
ある日などは、登ったり下りたり、1人で踏み台昇降をしていた。
またある日は手押し車のようにちっちゃな椅子を押してベッドの方へ持っていっていた。

夜、娘が寝静まった後、
仕事をしていた我ら夫婦。
妻は何を思ったのか、突然その椅子に座ろうとした。

ちょっ!それ子ども用なんだからさすがに壊れるだろ!!

と言いたかったが、僕は咄嗟のことで声を出すことが出来ず、
左手だけ妻に向かって伸ばした。

ところが、妻のお尻はU字型の背もたれに引っかかってそれ以上下へは行かない。
お尻が宙に浮いているような格好だ。
ご想像にお任せするが、うんち座りが出来ないキャッチャーのような、
少し前のめりで、結構恥ずかしい格好だ。
そしてそのスタイルのまま

「ちっちゃ」

つぶやくように小さな声で妻が言った。
当たり前だ。
それは1歳児が座るための椅子だ。
キミのお尻が入るわけがない。
まさかこんな姿を誰かに見られているとも、
そんなつぶやきを聞かれているとも思うまい。
お尻を上げてふと振り向いた妻は、左手を伸ばしたままの僕と目が合った。

お互い娘が寝ていることも忘れて、笑わずにはいられなかった。

※この内容は2015/4/1に書いたものです。

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