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始めての冤罪

商店街のお肉屋さん。
団地からは、商店街を通ってから駅や街にでる。

母がショーケース越しに肉を買っていた。

「ご自由にお持ちください」
というチラシの前に魚肉ソーセージがあった。お父さんは魚肉ソーセージが大好きだ。

「お母さん、これもらっていいのかな?」
店内に聞こえる大きな声で聞いた。母はこっちをチラッと見て、買い物袋を広げた。

私は買い物袋にソーセージを入れた。

帰宅してしばらくしたら、突然母に殴られた。
「なんで万引きしたの!」と。
え?買い物袋を広げて、入れなさいという行動をとったよね?

「お母さんに確認したでしょう?」
「何でも親のせいにするんじゃない。白状しなさい。嘘つきは泥棒のはじまりなんだ。末恐ろしい!」
何度も殴られた。

そのうち母は、肉屋に返しにいくといいだした。
警察に捕まってあんたのかわりに牢屋に入れられるからもう帰宅できないかもしれない。
肉屋が許してくれなかったら、この団地で泥棒だと後ろ指さされながら生活しないといけない。
お父さんも首になるかもしれない。

そんなことをいいながら家を出ていった。

私には、何がおきたのかさっぱりわからない。
大人になった今、想像するに、ご自由にお持ちください、は、別のものだったのかもしれないし、
母と店員さんは私の話なんか聞いていなかったのかもしれない。
真相は闇。


私は嗚咽しすぎて過呼吸を起こした。
痩せこけていた私の尾骶骨が痛いからと、あまり膝にはのせてくれなかった父。
父が珍しく膝にのせて、背中をたたきながら慰めてくれた。

呼吸がおちついて、ほっとしたのも束の間。

「本当はほしくてとっちゃったんだろう?怒らないからお父さんには本当のことを言ってごらん。」

血の気が引いた。
危うく黙されるところだった。

私はそもそも、食欲がない子だった。
食事の最初に、今日は何を食べたら残してご馳走様をしていいかを確認するぐらいだった。
夕食が食べられなくなるからオヤツは禁止。
ほうじ茶と梅干しだけが許されているオヤツだった。魚肉ソーセージは嫌いだった。

お父さんが好きだからもらってきたのに。

その後の記憶はない。

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